29.ご当地名物
「何故一緒に座る。他に席空いてますよ?」
何故か自分の隣に座る赤に顔を顰め、嫌そうに問い掛けた。赤は問い掛けに、こてりと首を傾げて見せる。
「三名様こちらへって言われたから?」
そういえば確かに一緒に店に入った時に、そう促されたと溜息を洩らすと最初に1人と2人ですと言えば良かったと悔やんだ。
「今より別席に」
腰を浮かす黒に、どちらかと言えば先ず友達を何とかして欲しいんだけど、と口を開く。
「あ、じゃ席替えしましょう。ええと、そこ、隣良いですか?」
しょくどーってのは飯処の事みたい。ま、めにゅーって品書きも何書いてんのか分かんねぇし一緒に来て正解だったわ。
一緒の席が不満なのかと腰を浮かした才蔵を制した姫様は、才蔵の隣を指して問い掛けてる。また息苦しくて大きく息を吸った。
「俺が隣じゃ不満って事?」
また口から零れた言葉。驚く胸の内を必死に隠すも才蔵は怪訝そうな顔を向けて来る。
そんな顔されたって、何でこんな事になってんのか自分でも分かんねーの!何なんだよその顔、気に入らねぇ。
「うん。そして移動するのはお前だ」
大きく頷く燐に言われた佐助は、渋々といった感じで才蔵の隣に移動する。燐の様子に才蔵はこの男は既に何かしでかしたのかと眉間を押さえた。
「注文はお決まりでした?」
奥から声が掛かると赤は席を立って声の方へ歩いて行った。注文しに行ったのかな?と燐は早く決めなきゃとメニューを見る。
「折角だからご当地物、でもおすすめも気になるし大人気も気になるし、どうしようかな?」
口に出してるって気付いてんのか、いないのか。姫様の呟きを聞きながら隣に座る。
「おすすめは此処で打ってる蕎麦のせっとか、上に書いてある方のかつどんだってさ」
なぜ隣に座る。そう思いつつ、おすすめを聞いて来たらしい赤の言葉に、何となくメニューを黒の方へ向けてみる。
「ずっとメニュー見ててごめんなさい。見辛かったですよね」
いつの間にか前のめりでメニューガン見してたみたいで、申し訳ない。
「いえ、決まりました故」
「え、メニュー今見たのに即決とか凄いな。んー、私もう少し悩んでも良いですか?」
眉を下げた姫様に緩く首を振って対応する才蔵。普段無口な才蔵と何か楽し気に会話が進んでる。
「無論です。急く事無くお決めください」
息苦しい感覚に眉を寄せるもうっかり口を開けば、また要らねぇ言葉が飛び出るんじゃと口を噤む。
「あ、このセットのかつ丼もご当地かつ丼?それも聞きました?」
「へ?」
即決の黒。蕎麦も捨てがたいと問い掛けると、顔を上げた赤と目が合う。赤は一瞬目を見開いて間抜けな声を出した。
「いや、へ?じゃなくてさ。聞いて来たセットのかつ丼って、ご当地かつ丼なのかなって。言ってました?」
此方を見ている姫様。消えた息苦しさ。死の淵から戻ると不調が続くってよく聞いてたけど此れ?
「あー、なんか普通のと違うってのは言ってた。食べた方が良いってさ」
かつどんってのが気になってる姫様はじっと此方を見ている。
「そっか。聞いて来てくれてありがと。じゃ折角だし蕎麦とかつ丼セットにしよ。決めた?」
姫様に答えれば満面の笑みを向けてられた。今度は息苦しさと白いあわ。自分の状況が理解出来ない。
「決まんないなら同じのにしたら?折角聞いて来たんだし、おすすめ」
中々決まらない様子の赤。チャラくて優柔不断とか無いわーと思いつつ何となく店の中を見回すと、注文を待っている店員の女性と目が合った。
「あ、じゃ、うん。アンタと同じにする」
もしかしなくても待たれている。そう感じメニューを指しながら赤に提案すると、何故かキョドりながら頷く赤。
≪長何ぞ不調か≫
先程からの佐助の様子に才蔵は問い掛けた。才蔵の問いに顔を上げた佐助は眉根を寄せる。
≪死に損ないも何度目かすると不調になんのかね?≫
自分でも分からないと今度は眉根を下げる佐助。不可思議な言動をする佐助を訝し気に見ていた才蔵は深い息を洩らした。才蔵の態度にすっと目を細めた佐助はにこりと笑みを浮かべる。
≪言いたい事があんなら言えば良くない?≫
≪何も≫
隣の姫様が関わると、胸の内にしゃぼんのあわが湧き出たり息苦しくなったりする。才蔵に言ってみりゃ何か分かるかね、と分析力の得意な忍に託そうと思っていた佐助は才蔵の態度に顔を顰めた。
「えっと、変更ないなら注文しちゃって良いかな?」
交互に見ながら問い掛けて来る姫様。動きに合わせてふわりと花の匂いが漂う。顔を上げると困ったような視線で俺等を交互に見る姫様。
「ごめん、良く分かんなくってさ教えてくれたら俺がするよ?」
慌てて立ち上がった赤を制し、席を立つとキャンプなのに肉焼いたりしてないなと注文をしに席を立った。奥から出て来た店員に注文を終えた燐は、あの席帰り辛いんだよなぁと見詰合ってる様子に眉を下げた。




