28.田舎あるある
入手経路を詳しく聞けば、散歩していて遭遇した移動販売の場所で、買えなかったから可哀想と言われて譲って貰ったと。そんなん聞いたら1つで十分です。
「一個じゃ腹膨れないだろ?」
絶対自分じゃ同じ状況でもタダでパンは貰えない。才能高いチャラ男、ある意味凄いな。
「いや、それアンタが貰ったんでしょ?アンタが責任もって食べなよ。私食堂で食べるから」
お腹は空いてるけど、パンくれた人の親切心が台無しだ。何故それに気付かないのか?チャラいから?
もし赤への好意入りなら完食したら呪われる恐れもある。もう関わらないでおこうと赤の胸元に袋をパンがつぶれない様に押し付け、管理棟に向かった。
「人が来ないと早く閉めちゃうって言ってたし、急ごう」
管理等内の食堂の場所等が書いてある周辺マップを見ていると管理人から直接、親切に教えてもらえ外へ出た。
「門を出て道路を渡るー、看板が見えるー、その道を真っ直ぐ行けば迷わない。...はず。ない」
門を抜け、キャンプ場の入り口と書かれた看板は発見できたが、道路を渡っても目当ての看板が無い。
「あれ?ないよね?」
確か道を下るって言ってたかな?と、川沿いの下り坂の方へ足を向けた。
「しょくどー行くんだよね?そっちは河原だけど?」
歩こうとした背に急に声が掛かると勝手に小さく体が跳ね「ヒッ」と短く奇声が飛び出た。
「だ、から!急に声かけないでよビックリするから!」
声に振り向き、楽し気に小さく笑っている赤を確認し、ずっと後着いて来たのか?と顔を顰めながら声を荒げた。
「しょくどー行くんならこっちの道だよ」
「ありがと、って何で居るの?」
「何でって俺等もしょくどーに行くから?」
赤は行こうとしていた道の横を指した。目を凝らして見れば、膝下程の高さに草に隠れて看板がある。
いや、看板控えめ過ぎるよね
『遊歩道』『食堂』『市道』と書かれている看板を見ながら問い掛けると、赤は同意を求める様に斜め後ろを見た。
お前と行くつもりは無い。
そう思って顔を顰めたが、同意を求めた様な言い方の赤の視線は、自分よりも高い位置だった。
「すみません」
誰か居るのかと振り向くと、少し離れた所に気まずそうに立ち、軽く頭を下げる黒が居た衝撃に目を見開いた。
「いつの間に居たんですか?ってか、居た?!本気の忍ごっこしてたら気配消せんの?!怖いんだけど!」
途中から心に留めて置くべき言葉も漏らした燐は、何故2人とも渡したフリースを着てまだ留まっているのか?と気になり才蔵に近付いた。
「病院、ちゃんと行きました?」
普段なら絶対見れない物凄い動揺っぷりを晒す才蔵に詰め寄る姫様。面白れぇ状況の筈なのに何故か息苦しさを感じて胸元を強く握る。
「大事無くば」
警戒等無く忍の間合いに入る姫君は居たかとのたまう。訝し気に己を見上げし眼にたじろがば、慌て首を縦に振る。されば姫君は訝し気な胸の内と同じ面で己を見る。
「また分かんない事言ってはぐらかそうとしてますよね」
この姫様を利用するのが手っ取り早いと才蔵を呼んだのは自分なのにアイツが居るのが気に入らない。
「ねぇ、ちゃんと病院行ったの?」
自分の素人手当てで悪化とかして後から何か言われたら嫌なんだけど、と顔を顰め口数の多い方に聞こうと赤を見た。
「聞いてる?」
姫様は怪訝な顔を向ける。その隙に静かに距離を取ろうと後退さる才蔵。
「行った行った。てかさ?急がないと拙いんじゃないの?」
軽く流して来た赤。まぁ行ったって言ってるし、本人もちゃんと歩けるみたいだし。
「ほら、こっち」
そこまで心配してやらなくても良いかと誘導するように歩く赤に続いた。
「なんか、こんな道だと思って無かった」
車で来れば良かったと、若干後悔した。これ、道?というような土が若干見える、両側の鬱蒼とした茂みよりは草が生えてない地面。
道。勝手に舗装してあると思ったらダメだよね
1人なら絶対引き返してカップ麺だったなと思いながら、赤を先頭に道を進んで行く。
「どんな道だと思ってたのさ」
振り向いた赤の問い掛けに、普通の道と答えそう言えばこいつ等、財布無いんじゃ?と思い出す。
「食堂に行く位の手持ちは分けてたの。一々盗人かもって疑うのやめてくんない?」
「あ、ごめん。声に出てた?」
赤から再び溜息交じりに泥棒呼ばわりをするなと言われると、同じく再び声に出していたのかと問い掛けた。
小首傾げてこっちを見てる姫様は気付いてないみたいだけど、才蔵がアンタの言葉に肩震わせてるぜ?
赤は立ち止まるとじっと顔を見て、声って言うか顔に出てると楽し気に笑った。




