23.幻術
才蔵と佐助はその後も暫くお互いの持つ情報を共有していった。
「気配有らば己はかんりとうへ参る」
外は鳥の囀りが増え、太陽が昇り切ったのかテントの中の気温も上がって来る。門戸へ近付く気配。近付く事早きは長の言う担ぎ手不要な動く駕籠なのであろう。
「何か続々と近付いて来るみたいだし、暫く様子見」
腰を浮かす才蔵を制し、暫し伺う様との指示を出せば再び腰を下ろす。言う通り続々気配が門戸に近付き止まるを繰り返す。
「参る」
動いていた気配が粗方落ち着くと、才蔵は再び腰を上げる。
「そんじゃ、そろそろ行きますかね」
その様子を見た佐助も声を掛けつつ、一緒にテントから出ると草履に視線を落とし、それらしく見えるようにと印を結んだ。
「此れで術が掛かってりゃ見た目は完璧」
二人は足音を立てながら管理棟へと向かった。途中、佐助は車を指し例の駕籠だと説明しつつ管理棟の様子を伺う。
「結構集まってるみたい」
中に複数の気配を捉えつつ言えば、一度夜に無人の管理棟に忍び込んでいた才蔵が先にドアを開けた。
「おはようございます順番に伺いますので、そちらにお掛けになっててください」
声を掛けられた二人は、内心の戸惑いは見せずに声のする方を見た。
「予約番号等分れば先に用紙に記入お願いします」
二人は促された辺りに座り様子を伺う。先に来ていた人々が記入している様子や、受付の様子を二人はさり気なく観察し続けた。
「あー、先にどーぞ」
少しすればまた新たに人が入って来る。佐助はにこやかに先に促しつつ立ち上がると、ここで何が行われているかを探った。
繰り返す指示の後、書物が如き物と金子の紙等を渡し合い礼を述べて立ち去らば関の如き場か?
才蔵は受付カウンターでキャンプ場の説明を受け、予約番号等書いた紙を提出して料金を払う様子を何度も確認する。
「長、彼ような書解せぬ」
が、自分達には到底無理と思うとさり気なくまた立ち上がり佐助の方へと戻ると無理だと小さく首を振る。
「だよねぇ。俺様にも無理。って事で人の振りってのは無しで、忍で行こうじゃないの」
「仕方無し」
暫く見ても全く分からなかったんだから仕方なくねぇ?そりゃ、見破られた時の事を考えたら人に成りすます方が良いってのは知ってるけどさ。
「何で嫌そうなんだよ?アンタも忍でしょうが」
佐助は顔を顰めながら嫌々賛同したような才蔵を見て、ほらさっさと行くと指示を出した。
「それじゃ、男二人。道具は一式」
思った通り。此処の世は腑抜けが多いみたいで術も掛かり易いったら。
「他に...此処に居て不自然にならない様、取り計らって?」
あまり金子のかからない物を探してもらい、少額で試せるぷらんってのを当選した事にした。後、こういう時の組む相手は才蔵以外が良い。
「今の手持ちは此れだけなんだから仕方ねーだろ?」
金子はそのうち返すと言えば才蔵も渋々といった感じで頷く。ほんと、こいつ面倒臭い。
「足りない分は追々何とかするって事で」
どんな場所でも人が住んでる場所なら、暫く居りゃ金子の稼ぎ方は大抵把握出来る。
「あ…、あっ?ごめんなさいえっと」
一通り気になった事を聞きながら、うけつけってのを終え、入り口に近付く人の気配に男の顔を覗き込み、虚ろな目を見据え術を解いた。
「えーと、」
顔を上げると混濁した意識を覚ます様に、小さく首を振るかんりにんの男。
「道具、一式出して貰ったら終わりなんだけど」
「あ、そうでした。すみません今日近隣の小学校が休みらしくて、デイキャンプが多くて。えー、初めてキャンプキャンペーンの手ぶらキャンプご招待に、あれ?」
男は自分が呆けていたと思ったのか、言い訳しつつ自分で記入した紙を確認する様に読み上げ途中で首を傾げる。
「変更。昨日のろっじからの変更」
「変更…変更でしたよね?じゃ、説明しながら先にテントに案内しますね」
拙いと思いもう一度男の顔に近付き、言葉を続けると男は変更と小さく呟いた後で顔を上げ立ち上がった。
「あれ?すみません、説明しましたっけ?グランピングでは無いので、食事は各自でお願いします。あ、こちらです」
才蔵を促し、男の説明を聞きながら後をついて行くと、見覚えのある建物の近くのテントに案内される。
「車で10分程の所にスーパーもありますし、下りたすぐの土産屋の所に17時まで空いてる食堂がありますから」
説明している男の様子を見ていた才蔵は、佐助が男と特に会話を続けない事に驚きつい首を傾げた。
「では説明は以上です」
てんとには特に鍵は必要ないみたい。男は後で荷物をてんとの入り口近くに入れて置いておくと言って帰って行った。
「何だよ」
訝し気にこっちを見てる才蔵に顔を向けるといつものように無表情に戻る。




