22.掌握
戸惑いを隠し切れない様な二人に構わず柔く声を出し男達の前に女から貰った白い袋を差し出す。
「分けたげるよ」
二人の反応に佐助は距離を詰めると先程と同じ様に、にっこりと笑って見せた。
「いーんですか?」
わだいのぱんを見た男達は警戒心を解いたみたいに袋を覗き込んだ。
「いーよ?沢山あるし」
これって相当なもんなんだ。いただいちまって良かったのかね?
袋の中身を見ていた二人は顔を上げると、片方が胸元に下げていた布袋から長いもんを取り出した。
「ほんと、いーなら金払いますよ悪いし」
にこにこしてると男は紙を差し出して、もう片方でぱんってのが入った膜を二つ取り出す。
金。物と交換するもんとくりゃ、金子じゃない?
それをもう片方に此れで良いかと薄茶色を見せ目配せた。男二人の胸の内を探り口を開く。
「こんな貰って良いの?」
多分もう片方の男の胸の内の、せーえんたかくね?ってのはせーえんってのと、ぱんってのの交換価値が合わないって事だろ?
ならばと眉を下げて言えば、差し出した男は細かいの無いんでって照れたように笑った。
「ごめんね?細かいの、こっちも無くってさ。そんじゃさ、もっと持ってったら?」
細かいのってのは、この紙より細かい金子って事だろ?不満を残すと人ってもんは後から何か仕掛けようとするもんだから。
此処は下手に出ながら、人の取り分を多くすりゃ良い
白い袋を広げたまま柔かい声を出して男二人を交互に見ながら問い掛けた。
「いーっすよ、わざわざ歩いて買いに来たのに悪いし」
金を払った方の男がそう言うと、佐助は怪訝な色を見せていたもう片方の男に向き袋を差し出した。
「や、いーっす」
首を横に振るも渋々といった感じの男。男の矜持ってのも、何処でも一緒みたい。そんなもん何の足しにもならねえのに。
「そんならさ、はい」
「えっ、」
佐助は気が付いたと言った風に装いパンの袋を一つ開けると、男の口許に差し出しにっこりと微笑んだ。
「もう開けちゃったし、食べなよ」
姫様は無意識だったんだろうけど、柔らかく声を掛け、にこやかに口許に持ってけば大抵男は喜ぶもん。
ま、あの姫様みたいに無理やり突っ込むなんて事したら台無しだけどね
佐助は燐を思い浮かべつつ、男が好きそうな笑みを崩さずに目の前の男が小さく口を開けるまで待った。
「はい。食べなよ、わだいのぱん」
「え、や、俺はいーです」
「そんな事言わずにさ?」
照れた様にたじろぐもう一人にもパンを食べさせる事に成功した。
「うわ、柔らけー」
「ほんとうめーな」
二人の感想を聞きながら、もうひと押ししとくかと、一つ手に取り小さく口を開けてパンを食べ、旨いねと男二人に笑みを向けた。
「んで、そこの門戸まで『ちゃり』ってのに乗せて貰って来たんだけどさ、あれも馬よりいーかも」
キャンプ場から来たと告げれば、そんな遠くからと驚かれ乗せて貰った経緯を話しながら、乗り心地を思い出す。
「言いたい事があんなら言えよ」
話し終えた佐助は向かいに座る才蔵の顔を見て、何だよと顔を顰めた。
「…長の掌握振りに感嘆していた迄に」
「褒めんなら、その駄々洩れてる不快なもんは隠しといてくんない?」
佐助の人誑しぶりを聞いた才蔵は、度々思うが自分の上役は戦忍では無く色忍が向いているのではと思わずに居られなかった。
「あいすまぬ」
嫌そうに顔を歪めた佐助に頭を下げつつ今度は悟られないよう、男でも女でも躊躇なく手を出す佐助から燐を守る方法を探しつつパンを口に運んだ。
「なぁ」
短く自分に問い掛ける佐助に顔を上げると、佐助は自分の食べかけのパンと才蔵が分解しながら食べていたパンを見ながら旨いよなと続けた。
「こんな旨いもんが普通にあってさ、ここいらじゃ血の臭いもしない。すれ違っても余所者に警戒もしなけりゃ、気軽に声を掛けて来る…どう思う?」
チラと見た才蔵の手元。そんな小さくなるまで千切っちまったら食い辛いだろうにと思うも、まぁ才蔵だしと思うに留めた。
だよねぇ。こんな旨いもんを奪い合う事無く手に出来て、丸腰で道を歩ける世
出会った男も女も全員が戦に怯える事の無い、腑抜けた面だったと佐助は思い浮かべる。
「分からぬ」
短く呟いた才蔵からは、戸惑う行動をする燐を思い浮かべているように見えた。
何の手掛かりも掴めない忍二人が身を置いていても悲観のみにならないのは、あのへんてこな姫様の御蔭かも
佐助は寝ているのか動かない燐の気配がする方へ目を向けた。




