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ぬばたまの夢 闇夜の忍~暫く全力のごっこ遊びかよって勘違いからはじまった異世界暮らしは、思ってたのと大分違う。(もふもふを除く)~  作者:


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20.異象

戸惑いを隠そうともしない才蔵は険しい顔で鏡を見て、透明な壁に触れる。


「此れは」


自分と同じような行動に苦笑しつつ、貸して貰った柔らかな布で体を拭き、手洗いした衣を手に取った。


「ま、他に着るもんも無いんじゃ仕方ねぇか」


折角しゃぼんなんて高価なもんで清めたのに、と水洗いしても汚れの落ちなかった衣を広げる。仕方なしと袖を通そうとしていた佐助は、近付く気配に同じく困惑顔でこちらを見ている才蔵を見た。


まさかまた無遠慮に突っ込んで来るつもり?と、褌姿の自分の状況に眉を下げる。


「着替えどーぞー」


ガチャリと音がして黒い物が声と共に投げ込まれた。今回女は入って来る事無く、直ぐに気配が遠のく。続いて消えた才蔵。


「あの姫様は着替えって言ってたけど、なんか聞いて来た?」


佐助は投げ入れられた物を拾いあげ、よく分からない物に顔を顰めた。暫くして戻って来た才蔵に投げ入れたのはあの姫様?と問えば才蔵は無言で頷く。


「良う分からぬ」


焦った口調で何かを一生懸命言っていたが。そう思い出した才蔵は小さく首を横に振る。


「そ。着替え、ねぇ」


紙でも布でもない透明の薄い膜の中には黒い布の様な物。透明な膜を触っていた才蔵は、繋ぎ目を見付けると少し引っ張り、思う所があったのかこちらを見る。


「裂くぞ」


短く断りを入れた才蔵は、ビッと聞きなれない音と共に透明の膜を引っ張った。膜は袋の様に口が開く。才蔵は中から黒い布を取り出して板の間に広げた。


「ま、折角だし」


広げてみた黒い布は二枚。何此れ?伊賀袴?とも違うみたいだけど、折角だし、と佐助は足を通した。


「ちょ、なにすんだよ?!」


才蔵は残った黒布を持ち上げ燐を思い出すと、佐助の頭に無遠慮に黒布を通した。


「何時までもふざけた格好で居るからであろう」


「だぁって折角しゃぼんなんて高価なもんで洗ったんだぜ?生乾きなんて着たくなかったのー」


心底嫌そうな才蔵の声音と気配。アンタ忍なんだからさ、さっきから気配駄々洩れって如何なの?


ともあれ才蔵が被せて来たおかげで姫様の世の衣を身に纏えた。なに此れあったけぇし軽いし。


「此れも持って行けないもんかねぇ」


身に纏った衣からは花の匂いはしなかった。


布に鼻を近付け嗅いでいる佐助を見た才蔵は、その横に広げ掛けられている濡れた忍装束をちらと見ると洗濯なんぞしていたのかと眉を顰め溜息を洩らす。


「で?」


佐助の問いに、同じ様に床に腰を下ろした才蔵は、見て来た事を告げようと戸惑いがちに口を開いた。


「何とも、面妖な物ばかり。山と思わば此れより下ると城門の如き巨大門があり、その先は固く平らな道が続き、爆ぜぬ松明と見慣れぬ家屋、人の気配有れど潜らんとすればけたたましく奇怪な音ぞ響けば見る事叶わず」


「そんな音鳴らされちゃ忍辛ぇわ。って事は拐かし以外の…探っても何の動静も出てこない神隠しの行きついた先で決まりってか」


二人はまた言葉を発する事無く、それぞれに考えを巡らす。


「...だが、」


神隠しなぞ、と普段なら鼻で笑う様な事だが今現状に突き付けられている事実を、互いに納得出来るよう表す言葉はそれ以外に無いとそれぞれ呑み込む。


「びーどろも鏡も、以前主が講釈賜ってた、しゃぼん。あれなんざ投げて寄越す位の価値しかないみたいだぜ?」


想い巡り行き着いた結論。


本当にそんな事があるのかと才蔵は声を発するが、燐の言動を思い出すとやはりここは常世以外の場所なのだろうかと口を閉じた。


「ならば…としか、言い難し」


眉間の皴が濃くなった才蔵に、今見た事を再び話せば顔を上げ小さく息を吐く。


「此処は俺等の世じゃないどっか。って事でさっぱりして来いよ。そんな成りじゃ聞き出せるもんも聞き出せなくない?」


出口の見えない話し合いを続けてもと、佐助は透明の壁向こうの湯を指した。才蔵は一つ為息を洩らすも今後の事を思えばそうかと立ち上がる。


「かんりとう、なる物今は無人なれど姫君は日が登らば其処に来る者に万事任せよと。なればその刻に再び向かう」


「あー、うん。動けんなら頼むわ。で、これがそのしゃぼん」


逐一生真面目に報告をする才蔵に眉を下げた佐助は、この実直な男は高価な物にどう反応をするのだろうと軽く投げた。


「っ、しゃぼん」


手に受けた才蔵は目を見開くも無言でそれを観察し出す。


「それとこれ。さっき洗ったやつだけど、着る?」


「要らぬ」


「しゃぼんで清めた後にそのぼろ布着んのかよ。こっちの方がまだましだぜ?アンタなら風使えんだから乾かしゃいーだろ」


佐助は再び嫌そうな顔で拒否って来た才蔵を見ると、じゃごゆっくりーと手を振った。

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