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196.

ざっしってので「この人好き」って言ってた女を真似て化けてみると燐ちゃんは目を見開いて驚いて、それから楽しそうに笑う。


「芸能人、初めて見た…凄いな忍」


いや、本物では無い。それは分かってると思いつつも雑誌と見比べても遜色は無い。


「もう一人の顔はどれにすんの?」


「え?あ、さす子さん?」


俺が担当の分身は二体。もう一体はと問えば、燐ちゃんは「さすこ」と言った後で、しまったと胸の内を漏らす。


「それって、もしかして俺の分身の名前?」


「あ、うん。なんか佐助さんに似てたから、つい」


安直すぎだろうと佐助が呆れた声を出すと、燐は2人を区別するのに心の中で呼んでいただけだと眉を下げる。


「んー、どうしよっかなぁ」


1人が違う顔になったし、そのまま(さす子)でも良いんじゃないかと燐はチラリと佐助を見る。


「…まぁ燐ちゃんが良いんならいーよ」


さすこって安直過ぎだろ。溜息交じりに返すと燐ちゃんは宜しくねって微笑む。


「で、持ちもんだけど、こっぷとかはいーの?箱4つ位なら増やしても問題ないよ?」


身の回りの世話を忍がすることに全く嫌悪感がない様子に安堵した佐助は、使い慣れた器等も持って行けると告げた。


「あ、じゃ食べ物の追加も良いかな?何があるか分からないから非常食も持って行けって、師匠が言ってて」


食糧庫って呼んでる土間の隅を見た燐ちゃんの胸の内の不安が濃くなる。まぁ師匠の言うことも間違っちゃいないけど。


「あの屋敷が戦場になることは無いよ。けど、備えておくのは良いと思う」


不安がらせないように嘘を告げた方が安心する。人質に預かる御仁にだったらそうするのに。燐ちゃんを不安にするだけかもしれないのに、俺の口から出たのはそっけない事実だった。


「なんか、ごめんね。ここじゃ1人で何も出来なくて、って多分どうしようもなかったら何とかするんだろうけど、…甘えてる自覚はあるんだけど」


「此処はアンタの知らない世なんだし、仕方ねぇと思うけど」


ここに来てからずっと頼りっぱなしで情けないと語尾が小さくなる燐に、佐助は仕方がないと肩を竦めて見せる。


「けどさ?同じ境遇だったけど、才蔵さんも佐助さんも何とかしてたよね」


だが同じような境遇でも自分より明らかに若い2人は自力で何とかしていたのにと燐は呟いた。


「何とかしようとしてただけでさ。多分アンタがいなかったら、どうも出来なかったと思う」


忍は弱みを隠すもの。だけど燐ちゃんの呟きに応じるように、ほろりと心の奥底に追いやってた言葉が零れた。


「そんな事ないよ。若干おかしな所はあったけど、何となく馴染んでたもん」


救助時の才蔵の不可解な行動等思い起こせば変な事もあったが、それでも真剣に忍ごっこをするヤバめな若者で納得できていたと燐は眉を下げ再び揺らめく火を見る。


「そ?けどそりゃ俺等が忍で、忍は惑わせ溶け込むもんだからじゃない?」


それでもアンタが居なかったら糸口を見つける事も出来ず、きっとあの場所で燻っていただろうと佐助は燐の横顔を見ながら思った。


「俺は燐ちゃんが居なかったら、湯も、銭も、飯も、着替えだってさ。分かんない事だらけで多分どうしようもなくなってたと思う…ってさ、こういう事ほんとは言ったら駄目なんだけどさ」


火の爆ぜる小さな音に搔き消されそうな小さな声。燐が佐助に視線を移すと佐助は眉を下げ笑みを浮かべる。


「忍は弱さを見せたら、其処を突かれるから。何も感じず何も思わず。けどんな事出来ねぇから何も見せずって教わんの」


じっと佐助を見ていた燐は、大人びて見えるのは厳しい現実に生きているからかと思うと佐助の背をポンポンと柔く叩いた。


「なっ、に?」


「私はここの世界の人じゃないから、ここの忍ルールは適用されないので安心して弱音吐いて良いよ」


急に背を叩かれ驚いた顔を向ける佐助に、燐は愚痴でも弱音でも聞いてやると笑みを向けた。


「こっちに来ちゃって、佐助さんと才蔵さんに迷惑掛けながら師匠のお世話係になれたけど、結局それも佐助さんに取られちゃったしさー。何も出来ないなって思ってたけど愚痴なら聞けるから、どんと来い」


暫く呆けたように燐の顔を見ていた佐助は、ぷっと吹き出すと燐の肩に頭を乗せる。


「愚痴でも弱音でもって…アンタ随分男前な事言うね」


何故寄り掛かるのかと怪訝な顔で見ていた燐は、佐助の柔らかく小さな声を聞くと暫くこのままで良いかと視線を囲炉裏に戻した。


「男前ってそもそも男じゃないんですが、まぁ弱ってるなら肩くらい貸してあげるよ」


「んな事言って、ずーっと寄りかかられちまったら如何すんのさ?」


肩が軽くなり、見上げるといつもの様な軽口が響く。燐はちょっとは気分転換になったのかなと佐助の柔らかな表情に微笑んだ。


「んー、ずっとは…肩痛くなるかもだし、じゃ5分以降は有料にするかな」


「ごふん、は…あれ見りゃ分かるけど、ゆーりょーって?」


確認するように柱の時計を指しながら燐を見る佐助に支払いが生じることだと言えば、大げさに眉を下げた佐助は「稼ぐ当てが出来たね」と笑った。

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