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193/199

193.

今みたいに2人で夕飯を食べることは、多分もうない。


我が主の屋敷に行けば燐ちゃんは月の姫で俺は忍。部屋が隣でも今までみたいに顔を見ることも少なくなる筈だしね


「隣の部屋なんだ。じゃ、引き続き宜しくお願いします」


なのに燐ちゃんは屋敷での部屋を告げると笑みを浮かべ小さく頭を下げる。


「あ、のさ」


「嫌じゃないよ。佐助さんが嫌じゃないなら、隣に居てもらえると心強いし私は有り難い」


顔を曇らせる佐助に燐は畏まった知らない場所で知り合いが身近に居てくれる安心感を佐助に伝えた。


「んふふ、私も師匠と修行してるからね」


佐助の忙しく変わる表情に、にんまりと笑みを浮かべ燐は楽しそうな声を出す。


「な、嘘だろ?…修行って。何やってんだよあの人?!」


異界の姫だって、我が主の客人だって、浮世人だって散々説明したよね?!と佐助は白雲斎の部屋の襖を振り返る。


「あははは、うっそー。心読む修行はしてませーん」


「な…、もう」


アンタと居ると心の臓が忙しなく動いたり、泡玉で胸の内が埋まったり。自分で制御出来ない事が嫌で、だけど一緒に居たい


「伊達に一緒の部屋で生活してないからね、って、何?」


言い当てられて見開かれる両目とすぐ後の顰め面。次の眉間の皺は師匠への非難。才蔵と違い分かり易いと話していた燐は、目を細める佐助に首を傾げた。


「佐助、さん?」


「ごめん。今、伊達って、言ったのって」


「あ、うん。ごめん」


佐助の表情は警戒だったのかと燐は言葉の説明をした。佐助は眉を下げ燐を見る。


「伊達にって言葉があるとはね…」


佐助は小さく息を吐く。そう言えば情勢が変わる最中だったと思い出した燐は再び佐助に謝った。


「燐ちゃんが謝る事じゃないよ。ちょっとさ?俺が気になっちまってるだけ」


「うん、けど。ほら今織田のぶ…さんとかがって前言ってたでしょ?そんな時に使う言葉じゃなかったなって」


佐助に謝った燐は、つい信長を途中まで言ってしまった事に眉を下げると、気を付けようと心に刻む。


「なるべく迷惑掛けないように気を付けるけど、今みたいになっちゃった時に私の事分かってる人が居るとやっぱ心強いから」


「佐助さんが隣で良かった」そう言って燐ちゃんは柔らかく笑った。忍がどういうもんか出先で分かった筈なのに


「あ、だから気を付けるよ?ちゃんと!」


自分の言葉に顔を顰める佐助に、責任丸被りさせる積りは無いと燐は慌てて自制する意志を告げた。


「んな事分かってるってば」


焦った燐の行動に苦笑した佐助は、燐に食事の続きを促し自分の椀の中身を掻き込んだ。


「燐ちゃんは明日、ひるごはんの後にお運びするんだけどさ?その前に持ってける荷物ってあったりする?」


夜だし自分も終わりにしようと、手を合わせた燐は纏めてある荷物があることを佐助に返す。


「これだけで良いの?」


燐の部屋に一緒に来た佐助は荷物の少なさを確認するよう燐を見た。


「うん。絶対これだけはっての纏めてみた」


頷く燐は、これでも厳選したと必要最低限の生活用品を纏めた風呂敷2つを見せる。


「後、朝に寝る時の…この細いマット持って行きたいんだけど、迷惑かな?」


眉を下げ荷を足して良いか伺う燐ちゃん。あの建物と一緒に来た浮世人は我が儘で、手に入らない物を嘆き当たり散らす者だって噂が届いてんのに


「まっとも寝袋も、だろ?って、あれは?下に敷いてたあったけぇの」


「あー、あれさ目立つでしょ?だから置いてく」


異界に一人、非力な女が恐怖や不安の中で目に入る全ての物を持ち出すと予想していた才蔵も驚きつつ様子を見守る。


「人目につくと大変だって聞いたしさ。部屋に誰か来るなら無くて良いかなって」


必要最低限。燐の胸の内に何度も強く浮かぶ言葉。孤独に荷を纏める時この御仁はどんな気持ちだったのだろうと才蔵は天井裏で一人思う。


「先に運べるもん運んじまおうって才蔵が来てんの」


「え?才蔵さん?!」


佐助の言葉に燐は嬉しそうな声を上げ、キョロキョロと部屋を見回した。


「そ。燐ちゃんの部屋のもん全部張り切って運び出す積もりの連中押さえて。ま、多分様子見だと思うけど」


だろ?と佐助は天井を見上げる。顔を上げた佐助の視線を燐も追う。


「如何にも」


「あ!才蔵さんっ」


声と共に姿を現した才蔵は嬉しそうな燐に小さく頭を下げた。


「さっき説明したけどさ、紅葉(もみじ)の間ってのは屋敷の奥の部屋で続き間には俺が居んの」


「あ、うん。隣の部屋なんだよね、宜しくね」


部屋の説明に「宜しく」と燐に見上げられ狼狽える佐助。才蔵は忍の認識が違う燐には、もっとはっきりした説明が必要だろうと溜め息を漏らす。


「忍が控えるとならば、世話人しか近付かぬ、と言うことです」


「あ、じゃあ佐助さんが隣に居てくれる間は人来ないって事ですか?やった!」


気を抜けないと思い込んでいた燐は、才蔵の言葉に小さく手を叩いて喜ぶ。


「後、世話人さんなんですが私身の回りの事なら自分で…って言うのはダメ、か」


今まで通りのダサスウェット生活継続を望む燐は、眉を寄せる才蔵に流石にそれは無理かと語尾を呟いた。

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