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173/196

173.

無事スルメもなくなり、お開きになった小宴会。皆が帰った家で燐はいつの間にか(きっと才蔵さんが)洗われていた(やってくれた)食器と鍋を片付けていた。


「もう終わりなら俺も寝るぞー?」


「はーいおやすみなさい」


もう手伝いは不要かと立ち上がった白雲斎を見上げた燐は、自分はどうしようかと考えながら襖が閉まるのを見届けた。


「お風呂入ろっかなぁ」


勧められて飲んでみたお酒はあまり強くなかったし、大丈夫だろう。ほろ酔いの燐は1人酔ってませんよテストを行い、大丈夫だと風呂道具を持って風呂に向かった。


「家に温泉あるって、贅沢だわぁ…」


星空を見ながら湯に足を伸ばしていた燐は大きく伸びをしながら呟いた。そしてぼんやりと今日の事を思い出す。


「鎌之助さん遊びにおいでって言ってくれたけど…」


誰かに頼らず行ける距離なのか?燐は今までの移動手段が担がれるだった事を思い出す。


家周辺は安全と言われていたが、たまに草のふりをした魔物がいる事もあり、1度遭遇してからは中庭以外には出ていない。


「絶対1人じゃ無理だな」


白雲斎を頼ろう。燐は1人で出歩いたら死しかないシュミレーションを終え呟いた。


「佐助がいないと師匠ゆっくり寝てるだろうし…もう少し飲もうかなぁ」


湯から出た燐は頭にタオルを巻いたまま、自分も明日はゆっくり起きようと酒を取りに囲炉裏部屋へ向かった。


「明日片付けるか…。仕事出来るようになって、良かった良かった」


囲炉裏にはまだ織火があり温かい。燐は缶チューハイを手に囲炉裏の側へ座り、佐助のベッドが目に入ると明日やろうと呟いた。


仕事が出来る位には回復したんだから良かった。そう思いつつも、帰って来ないなら先に言って欲しかったと視線を下げる。


「うわぁなんか…ウザ。駄目だな、飲んで寝よう」


勝手に待っていただけなのに。そう思った燐は顔を顰めると缶に口をつけ、一気に傾けた。


「ふー…久々飲んだけど甘?!」


一気に缶の残りを流し込み、息を吐き視線を上げると薄っすら暗い正面に何か居た。


「っ!!ゲッハ、え゛っ」


「ごめん、えっと、大丈夫?」


咽る燐に暗がりから心配そうな声が掛かる。目を凝らせば申し訳なさそうな顔の佐助がいた。


「ん゛っ、ん。どうしたの?忘れ物?」


燐は手元の電気ランタンを点けると天井近くに設置してもらった照明用のフックに下げる。明るくなった室内で、佐助は困ったような顔で燐を見ていた。


「あ、のさ…ほら、夜飯何食うか?って、だから…って随分と遅くなっちまったんだけど」


言い辛そうに呟く佐助に、燐は食べてないの?と腰を浮かす。それを制するように佐助は腰を浮かし手を伸ばした。


「あ、違くて。飯は、良いんだけど。けどさ?言ったろ?だから」


「あ、約束したからわざわざ来てくれたの?」


柱の時計を見れば10時を過ぎていた。流石に食べたよねと佐助に視線を移す。


「ここ、血?…だよね?怪我したの?大丈夫?」


茶色く滲んでいる着物の襟を見ながら確認するように近付き顔を覗き込むと、佐助は困ったように眉を下げる。


「あー、うん。こんくらい、いつものことだし」


心配する燐の様子に、佐助は自室の物が全て片付けられていたとはいえ何処かで着替えを調達して来るんだったと悔やんだ。


「おいで、ほら。どこ怪我したの?」


よく見れば前髪も乾いた血で固まっている。燐は小鍋に水を入れ織火に直接乗せると立ち上がり、棚からあるだけ手拭いを持って来た。


「怪我?…あー、大したこと無いよ」


「大したこと無くても、おいで」


病み上がりで免疫力も下がっているなら、ちゃんとしとかないとと燐は佐助を再度呼ぶ。


「血が乾いちゃってるから、少し痛いかも」


お湯で濡らした手拭いで砂利混じりの額を丁寧に何度か擦りながら、前髪どころか側頭部にも血がべったり固まっていると分かると燐は次々手拭いを濡らし血を拭った。


「ごめん、えっと自分で出来るからさ」


額の広範囲を固いもので擦った様な傷に側頭部の出血。それを大したこと無いと言う男は信用できないと燐は無言で手当てを続ける。


「よし、やっぱここ暗いし部屋行こう」


自室の方が明るいし救急セットもあるからと佐助を促すも、佐助は行く積りはない様でヘラリと笑みを浮かべた。


「これ位、へーきなんだって」


死ぬ程の傷で無いことを確認済みだった佐助は平気と伝えるも、無言で立ち上がり自分を見下ろす燐の圧に大人しく従った。


「ごめん、痛いよね…これ砂混じったまま固まっちゃってて」


自室で額に消毒液を染み込ませた手拭いを当て砂粒を出来るだけ取り除く様に擦ると、佐助は顔を顰める。


「後、痛いとこある?」


暫く冷やしておけと燐に言われるまま、冷たい手拭いを腫れに充てた佐助は緩く首を振り、懐から竹筒を取り出す。


「あ、のさ?これ、今日行った所にあったから」


話題を変えようと出した竹筒の中を見た佐助は微妙な顔で動作を止める。どうしたのかと佐助を見ていると、佐助は竹筒の中身を床に出す。


「ん?花?」


動かない、襲わない、攻撃してこない普通の花が見たい。そう言えば前にそんな事を愚痴ったなと燐は思い出した。

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