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172.

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風呂上がりの白雲斎は、俺ん家はいつからこんな賑やかな溜まり場になったんだ?と酒の入った湯呑みを傾けた。


本来なら人も獣も寄り付かない寂びれた場所の筈が笑い声が響き活気に溢れている。


「佐助さんこっち来ないって言ってました?」


ご飯残しといた方が良いのかな?と燐か問うと、白雲斎は首を捻る。


「言ってねぇけど。まぁ…元々アイツは屋敷住みだしなぁ」


怪我も治り、仕事に復帰したなら来ないのかと燐は鍋を火から下ろす。


「何だい長が気になるのかい?月姫」


「なりますよ。今日久々の仕事だったみたいだし」


ニヤニヤと燐を見る鎌之助にまたこの人は面白がってと思いつつ、燐は白雲斎を見る。


「んー?俺と別れるまでは怪我も無かったし、まぁ久々のってんなら疲れてるだろうが」


湯上りの着流し姿で三好兄に注がれた酒を飲みつつ、白雲斎は思い出す様に首を捻る。三好兄は突如首に掛けていた数珠を外すと片手に持ちジャ、ジャと鳴らし始めた。


「え?何?」


「良いかい月姫?ありゃあ静かにしねぇと上手くいかないのさね」


鎌之助の呟きに燐は怪訝な顔を向けると、隣に来た鎌之助が燐の耳元に顔を寄せ黙って見てなと笑みを浮かべる。


「…何ぞ見えたか」


暫くするとリズムよく鳴らされていた数珠の動きが止まり三好兄が弟に問い掛ける。


「こいつ等はこーやって色んな場所を覗けんだとよ」


「…全く意味が分かりません」


心なしか疲労している三好弟を見ていた燐は、白雲斎の言葉に怪訝な顔を向ける。白雲斎は三好兄弟の持つ特殊な術を誰も言って無いのかと周りを見た。


「アタシもよっく分かんないんだがねぇ月姫。忍にゃ旦那等みたいに特殊な術を使えるもんが多いんだあよ」


白雲斎の視線に肩を竦めた鎌之助が口を開くと燐は術?と首を傾げる。そういや俺も言ってなかったっけ?と白雲斎は不思議顔の燐を見た。


「そこの鎌持ちは、これからの事が覗ける。こいつ等は色んな場所を覗けんだと」


全く分からない白雲斎の追加情報に燐は顔を顰める。取り敢えず燐は「そこの」と指された鎌之助にしつこく質問し未来予測が出来る事を知った。


「鎌之助さんが未来、兄と弟さんがセットでリアタイ


見れるって事?合ってんのか分かんないけど、凄いな」


「何だか分かんねぇけんど、納得したかい?」


メモを纏めた燐が顔を上げ頷くと、鎌之助は「そいつぁ良かった」と湯煎していた徳利から酒を注ぎ、ついでと酌をして回る。


「えっと、で、今ので何が分かったんですかね?」


なんか終わった感じで酒飲んでるけど。と、燐は三好兄弟、白雲斎、鎌之助と順に顔を見ながら問い掛けた。


「そりゃアンタ、長が無事かってこったろ?」


今までその話をしてたじゃないかと鎌之助は呆れた様に燐を見る。肝心の佐助の状況は誰も言ってないと燐が眉を寄せると、三好弟が同じく眉を下げた。


「長ならば、今し方、主が屋敷に」


「若君ん所に居るってよ。そんなら心配ねぇだろ。まぁ屋敷で死にそうになることも無ぇだろうしな」


三好弟の言葉を言い換えて燐に伝えた白雲斎は、佐助も久々に帰ってやる事でもあるんだろ。と軽く付け足す。


「そっか。無事で良かった」


佐助を確認した後で普通に皆で酒を飲んでいるなら、きっと怪我も無く無事なのだろうと出掛ける前の不安気な佐助を思い出しつつ呟いた。


「取り敢えず、スルメ焼いて…何か少し食べます?」


小宴会になりつつある感じに織火の近くに網を置きスルメを乗せる。


「いえ。燐殿の憂いも晴れ、お師匠殿が居らば我等は」


「才蔵さん?」


今まで居なかったよね?と燐は土間から聞こえる声の主を探した。鎌之助は大袈裟に溜息を吐く。


「確かに。長が我が主の元に戻らば此処には来ぬであろうからな!」


湯呑みの酒を飲み干した大声の三好兄が立ち上がると、それをチラと見た三好弟も立ち上がる。


「良い匂いだあよ?食ってったっていーじゃあないのさぁ」


嫌そうな顔で溜息を洩らす鎌之助も、ブツブツ言いつつ腰を浮かした。


「じゃ!これだけ…駄目ですかね?」


焼いちゃったスルメだけでも食べていって欲しいと才蔵を探すように部屋を見回す燐。好き勝手やってんのを取り纏めんのも大変そうだなぁと白雲斎はちょっと才蔵に同情した。


「まぁ、食ってけよ。持ってったって冷えて固くなりゃ旨くもねぇし。残されてっても俺もこんな食わねぇからなぁ」


白雲斎の言葉に頷くと座る三好兄弟。居てくれるんだ、と燐は微笑む。


「才蔵さんが前気になってやつ!持ってきますね」


燐は何となくの方向に呼び掛け、自室へ向かった。


「帰るんじゃねぇぞー」


お前が帰ったら誰がこいつ等の面倒を見るんだと白雲斎は才蔵が消える前に釘を刺すと、ポンと自分の隣の空いた場所を軽く叩いた。


「馳走になります」


仕方ない感じ満々で白雲斎の横に現れた才蔵を目撃した燐は、ザ忍って感じだよねぇと才蔵の前にチータラを置いた。


「何だい。才蔵にだけ特別かい?」


魚の擂り身を乾かしたのと、牛の乳をどうにかしたやつ。この微妙なヒントにもめげず、鎌之助以外の忍達は各々配られたチータラを手に観察を始めた。

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