13.お風呂
白んだ空に急いでお湯に入り、誰も居ない湯船にだらりと肢体を浮かばせていた。
「あー温泉最高」
仰向けに寝そべるような姿勢で空を見れば、白い月が見えた。
「温まるなぁ」
隣にいるであろう赤のおかげで小声しか出せないが、それでも気持ちが良いと言葉を洩らすと気分が良い。
「何かぐっすり寝れそう」
寝不足だけどお風呂は気持ちいいし、体が温まると眠気に襲われ、大きく伸びをした。
「石鹸くらい貸して上げれば良かったな」
タオルは貸したがそれ以外何も持っていなかった赤を思い出す。ここは完全持ち込みだしと、男湯との仕切りの壁を見上げた。
「あのーっシャボン石鹸っていう固形石鹸でも良ければ、使いますー?」
声を掛けるとバシャリと大きな水音がしてうわっと小さく声が聞こえた。一緒に入るか等軽く聞いて来たくせに、動揺してんのかと呆れた。
「…そりゃ、あったら使いたいけどさ」
ばつの悪そうな声が帰って来ると、湯から上がり、泡立てネットに石鹸を包み結んで壁の方に寄る。
「使うなら投げますよー?端の方に来れますかー?」
「は?何?投げるってシャボンを?!アンタ正気?!」
何故か慌てた様に声を荒げる赤の言葉に首を傾げる。買ったばかりだし、投げても見失ったりしない筈。
てかシャボン石鹸、シャボンって呼ぶんだ。んで手を怪我してるのに受け取れないだろ的な事?
声を荒げた理由を予測し、それでもいるかと聞いた手前渡した方が良いかと眉を下げた。
「今お湯に浸かってますー?」
「えーそうだけどぉ?一緒に入りたいって事ー?」
再び声を掛けると、今度は動揺した感じはせず再びチャラい発言をかます。そんなわけあるかと思いながら大きく息を吸い覚悟を決めると、石鹸を手に持った。
「何なら今からそっちにって?!」
「いや動かなくて良いですし、これ置いたらすぐ閉めますから」
女湯の方だけ鍵があり開けられる戸。思い切って木戸を開け、動揺した声と共に響く大きな水音に顔を上げず声を出すと、素早く石鹸を置き木戸を閉めた。
「ちょっと!何勝手に堂々と入って来ちゃってんの?!」
閉めた木戸越しに響く大きな声。
「使うって言ったのに投げるなとか言うから置きに行ったんですー。それにちゃんとタオルワンピ着てましたー」
何考えてるって、さっさと貸すもん貸して着替えて寝たいって考えてんだよと苛立ちながら反論すると、暫くして再び男の声が響く。
「あのさー気持ちは有難いんだけど、見せたよねー?片手使えないんだからどのみち使えないんだよねぇ残念だけどー」
貸して欲しいとか言っといて何?このふてぶてしい言い方腹立つわー
苛々しながら勢いまかせに乱暴に木戸を開けた。湯舟には驚いた顔で此方を凝視する赤の視線は無無視。
「ほらじゃ洗ったげるからさっさと来て座って。んでそこの桶で前隠して」
石鹸を拾い上げると男湯の洗い場へ行き椅子を置いた。
「なっ、…随分と大胆だねぇ。見られて拙いもんなんて無いからこっち来て一緒に入るー?」
大胆と言いながら湯から上がった様でペタペタと足音をたて、ヘラヘラした声音で近付いて来る赤。
「そっちは困んなくてもこっちは嫌なの!さっさと前隠して椅子に座って」
「えぇー?隠すって何処をー?嫌って入ってきたのはアンタだろー?」
もういっそ視界に入っても良いから石鹸持って帰ろうと振り向こうとし、伸びて来た腕に体を強張らせた。
「そんなとこ居ないでさ?って、アンタ項も頬も耳も真っ赤だよ?」
後からピタリと抱き着いて来た赤は楽し気に耳元で囁く。
「まだまだ来ないと思うけど、もし誰か来たら嫌だし早く洗ってやるから座れって言ってんの!!」
髪も顔も汚れてんのに洗えないとか可哀想とか一瞬でも思わなきゃ良かった!と声を荒げる。
「ふーん。お優しいねぇ。ね、こっち向いてよ」
赤は全く気にせず抱き着いたまま耳元で楽しそうに囁いた。
「いー匂い。ふわふわしてていーね、これ」
楽しそうに抱き付く赤はタオルワンピの肩紐に頬を置いているようで触れる髪が擽ったい。揶揄を含んだ楽し気な声にイラッとする。
こっちは眠い中薄汚れたままじゃ可哀想と思って洗ってやるって言ってんだよ。人の親切心を何だと思ってんだ
苛立ちマックスで、石鹸の容器を視界の端に見える赤の足先めがけて思いっきり投げ付けてやった。
「い゛っだーっ何すんのさ?!」
「うるさいこのチャラ男が!さっさと隠して座れ!」
涙声で非難する赤にさっさと座れと再び声を荒げると、よほど痛かったのか赤は素直に促した風呂の椅子に座る。
「此れでいー?」
赤の声に最初から素直にしとけば良いのにと思いながら燐は蛇口を捻り桶に湯を張った。
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誤字報告と感想、ありがとうございます。
確かに勇気がいる行動ですよね。何故入ったのか、書いた私にも不明です。こんな感じで進んでしまいますが、楽しんでいただけているようで私も嬉しいです。よろしくお願いします。




