1.はじまり
全ての行間、会話文との境が広い等ご指摘いただきましたが、書き込みでは1行空けているのみ。狭める方法が分かりません。
大変申し訳ないのですがそのままお読みください。
また対処方法をご存知の方がいらっしゃればご一報お願いいたします。
六文銭。船賃さね。
知らないのかい?そんなお人も居るんだねぇ。船ってぇのは死後に渡る三途の川の船さね。
その渡し賃が六文って言われてんのさ。ま、死んだ事なんざないから本当に必要かどうかなんて知らないけんどさ。
死して尚、銭が掛かるなんて生きるも死ぬも人の世ってぇのは、銅臭に塗れまくってるって事かいね。
ま、人ざらぬ~なぁんて言われてるアタシ等には関係ないっちゃあそうなんだけんどさ。
銭を知らないのかい?アンタ一体どこの田舎もんさね。
銭ってぇのは欲しいもんを手に入れるのに必要な固いお天道様みたいな形の、丸に四つ、文字の描かれた知らないかい?
そんならさぁ旗なら田舎もんだって一度は目にした事位あんだろ?
ああ、血塗れで緋になってんじゃあなけりゃ、こいつぁ真田の旗印さね。
今のアンタにゃ六文銭が必要だろうが、持ってないなら船にも乗れずに何処へ行くんだろうねぇ。
○● ●○
ふと夜中に目が覚めた。間近に聞こえる葉の擦れるような音と、遠くに鳥の鳴き声の様な音。
「もー...なんでこんな時間に目が覚めたんだろう」
小さく体を縮めていても寒いものは寒い。目覚めてしまったのなら仕方がないと片手を動かしスマホのライトを点けた。
「寒ーっ、日中は半袖で夜はダウン必要とか」
暫くし意を決して寝袋ごとむくりと起き上がる。ネットで見た時は誰が買うのかとか思ったが今は切実に欲しい。
「着たまま動ける寝袋。あれ、買おうかな」
予想以上に夜の山は寒いと改めて実感しながら寝袋から出ると上着を羽織る。
「よし、お風呂行こう」
風呂道具を手早く持ち、帰りに車から予備の毛布とか持って来ようと考えつつ、静かにテントの入り口を開けた。
「うわー、さっむ!」
外に出ると更に寒い。布1枚でも外と中じゃ結構違うんだとテントの必要性を実感した。
「そして、こんな冷えるならワンルームのソロテントだったな」
連泊するならツールームが良いと持って来たが3人用テントに一人は寒かった。と自分のテントを振り返る。
「おー、なんか星空とか久々見たかも」
その後ろに見える暗い夜空と星を見回す様に顔を上げた。丸い月が出ているからかライトが無くても何となく道が見える。
「よし、風呂だ。先ずお風呂っ」
綺麗な夜空は温かい所でゆっくり見ようと身震いし足早に温泉へと向かった。
「はぁー」
かけ湯をし少し熱めの湯に足先をつけた後でゆっくりと体を沈めれば、湯船から溢れた湯が流れ周りが白む。
「あったかー...気持ちいーわぁ」
土日は人気の温泉も平日の今日は一人ゆっくりと浸かっていられると贅沢に小さく微笑んだ。
「いーねー、貸し切り天然温泉」
ここは林間の宿泊代を払えば備え付けの天然温泉入り放題、落ちてる枝なら使用して良いお気に入りのキャンプサイト。
「最近暖かかったから、いけると思ったんだけどなぁ」
ただ遠くて利用頻度が低くて状況把握が甘かったと、山の寒暖差に眉を下げ顎先まで湯に浸かった。
「まぁ山だしな」
寒さに温泉宿でもと思ったが、引継ぎもすべて終了した後の有休消化中でもお構いなしに実家の宅電にまで掛かって来る電話。
「心の平穏、大事。また寒くなったら温泉入れば良いし。うん」
うんざりした事を思い出すと、電波の悪い山のキャンプ場が正解だと前向きに考える事にした。
「次来るなら今度はロッジ借りようかなー、いくら位するんだろ。仕事も探さないとなぁ」
実家に戻ったとはいえ、節約しないとなぁと空を見上げる。屋根付きの半露天の風呂からは煌めく星と丸い月が綺麗に見えた。
「そんなにお金を掛けなくてもこの絶景が見れるって贅沢だよね」
白む湯気の向こうの月がよく見えるように湯の中を移動した。
「お月様ぁー。贅沢しなくても良いんで、そこそこ感謝したりされたりしながら仕事して、何となく生活出来て、ちょっと面白い事なんかないですかねー?」
何の気無しに話し掛けた丸い月は先程より欠けて見えた。
「そういえば今日月食だったっけ」
キャンプ場に向かう途中で聞いていたニュースを思い出しながら、湯から出て長湯でかいた汗を流した。
「うわぁ...ほんとに欠けてるみたいに見えるんだ」
徐々に暗くなる空。初めてちゃんと見たと空を見上げていたが、暗くなるにつれ心細くなって来る。
「今から急いで、間に合うかな?」
半分闇に溶けたような姿の月を確認すると、真っ暗になる前に出ようと思い立ち、素早く湯から出ると体を拭いた。