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魔法が解けたら恋愛開始

作者: 畝澄ヒナ

「私と付き合って!」

ああ、またこの展開だ。魔法を使うしかない。


(あきら)くん、私じゃだめかな」

まただ、この体質は本当に厄介だ。


「明、私と付き合わないか?」

いい加減にしてくれよ、本当に。


生まれて十七年、俺は面倒くさい体質と対峙している。関わった異性に必ず恋愛感情を持たれてしまう謎の体質、魔法使いの家系であるという以外、なんてことない普通の高校生だというのに。

「お兄ちゃん待ってよー!」

妹の美雨(みう)が後ろから俺を一生懸命追いかけている。つやつやのボブヘアーに母親似のたれ目、唇はぷるぷるの薄ピンク色だ。カバンの中を注意深く確認していないから、この展開はあれかもしれない。

「なんだ、騒がしい。何か用か?」

「お弁当忘れてるよ。せっかく作ってあげたんだから、ちゃんと持って行ってよね!」

妹からの手作り弁当。妹と言っても、父の再婚相手の連れ子だから義妹なのだが、そんな可愛く健気な美雨は俺に好意を寄せている。

「ありがたくいただこう。じゃ、急いでるからあとでな」

「ん」

美雨は両腕を広げて立ち尽くしている。

「なんだよ」

「行ってきますのギュウがまだでしょ」

恥ずかしいったらありゃしない。どこの兄妹がそんなことするんだ。

「高校生にもなって何言ってんだ。ほら、さっさと帰りな」

「おっと、その手には乗らないよ」

俺が頭を撫でようとすると、美雨はその手をはねのけた。

「ちっ、バレたか」

「魔法攻撃はお見通しなんだから」

くそ、魔法で体質を相殺する技が使えない。相手の頭に触れさえすれば簡単に魔法がかけられるのに、魔法の存在を知っている美雨はことごとく阻止してくる。

「わかったわかった、いいから帰れって。どうせ今日も学校行く気ないんだろ?」

「うるさいなあ、行く気はあるけど、他にもやることがたくさんあるから行けないだけだよ」

美雨は事あるごとに理由をつけて学校に行こうとしない。両親は共働きでほとんど家にいないし、「美雨の好きにさせたらいい」と甘やかしてばかりだ。

「そうかよ、俺は学校だからな、もう行くぞ」

「ギュウしてよ!」

ああ、本当にしつこい奴だ。

「こんな公共の場でできるか!」

「じゃあ、家に帰ってきたら絶対にしてもらうからね!」

そう言って美雨は走って家に帰っていった。

一日の始まりは大体こうだ。もちろん、これだけではない。


私立風雷(ふうらい)高校、勉強と部活の両立がモットーの進学校だ。俺の成績は中の中、成績表はオール三と、ザ・普通を貫いている。

「明! おはよう!」

希来里(きらり)、おはよう」

学校一の美女、成績上位者、成績表オール五の化け物女子高生、それが俺の幼馴染の希来里だ。幼少期から変わらない黒髪のロングツインテール、長いまつ毛に高い鼻、それでいてモデル体型。人生全てがモテ期のくせに、俺にべたべたで離れようとしない。今までの告白は全て断り、彼氏を一回も作らないまま高校生になった天然美女なのだ。

「今日の部活は少し遅くなっちゃうかも」

「俺も大会近いから同じぐらいだと思うぞ」

俺はサッカー部、希来里は吹奏楽部に所属している。二軍で活躍する俺と違い、希来里はコンクール選抜者であり、コンサートマスターという役職で、幹部として部を支えている。かなりの仕事量で忙しいだろうに、俺の帰宅時間に合わせようとしてくる。

「私、サッカー部のマネージャになればよかったかなあ」

「いや、トランペットだっけか、やりたいことできてんだからいいだろ」

何でも俺に合わせようとしてくるあたり、もう病気だと思っている。俺と違って才能があり、努力もできる、そんな奴をマネージャにさせるものか。

「そうなんだけど……」

「なんでそこまで俺にこだわるんだよ」

この質問をすると毎回同じ答えが返ってくる。

「だって、私は明の、未来のお嫁さんだもの」

「はいはい、そうでしたねー」

聞き飽きたというか、幼稚園の頃から変わっていない。そりゃ内心は嬉しいけれど、俺は絶対にありきたりなラブコメ展開に巻き込まれたくないのだ。

「もう、またそうやって適当に返すんだから」

「わかったから、授業始まるぞ」

こんな調子で対応するのが大変だ。俺の体質が年々強さを増すのに対し、魔法のほうは全然だめだ。今では関わりの浅い人でも俺に好意を寄せるようになってきた。


「大丈夫ですか?」

プリントが廊下に散らばっている。もちろん、見過ごすことは出来ない。

「あ、えっと、ありがとうございます」

「重そうですね、運びますよ」

「いや、あの、お願いします……」

いかにも根暗な丸眼鏡の女子生徒だ。名前も知らない、なんなら学年さえ違うかもしれない。

「ここまでで大丈夫ですか?」

「はい、えっと、あの、この後一緒にお昼でも……」

いやいやいや、絶対にそうはならないだろ。初対面だぞ。これだからこの体質は……。

「お気持ちだけ、受け取っておきます」

俺はそっと女子生徒の頭を撫でる。勘違いしないでほしいのは、撫でたいから撫でているわけではない。なぜかこうしないと魔法がかからないんだから、仕方ないだろ。

「あ、はい」

「では、俺はこれで」

危ない危ない。また一人俺の追っかけになるところだった。一件落着、と一息ついたのも束の間、開いていた窓から強風が吹き、プリントが宙に舞う。

「ああ、またプリントが……」

プリントを掴もうとした女子生徒は窓の外に身を乗り出して、今にも落ちそうになっている。

「危ない!」

間一髪、プリントも女子生徒も外に落ちることはなかった。ただ、一つだけ最悪なことがある。

「やっぱり、この後お昼を一緒に……」

「ああ、いや、それは……」

「どうしてもお礼をしたくて……」

そう、俺の魔法は再び触れるとすぐ解ける。しかもしばらく同じ相手に同じ魔法は使えない、という条件付きだ。こうなったら選択肢は一つ。

「今日は予定があるので……また今度で!」

「あ、せめてお名前だけでも……!」

こういう時は逃げるに限る。名前なんて教えた日には学校内ストーカーの完成だ、絶対に教えるわけにはいかない。俺はこれ以上対象者を増やさないために日々奮闘しているのだが、まだ注意しなければいけない人物が一人いる。


「さあ、これからテストを返却する。お前ら並べー」

担任の岸川(きしかわ)先生だ。担当教科は保健体育、女子バスケ部の顧問でもある。黒髪ポニーテールにつり目の強気な女性だ。今日は保健のテストの返却日、俺の番がまわってきた。

「明、ここ空白じゃないか」

「いや、そこは……」

「なんだ、恥ずかしくて答えを書けなかったのか? この私が直々に実践授業でもしてあげたほうがいいか?」

「違います、ただ分からなかっただけですよ。勘違いしないでください」

岸川先生はこんな感じで、ナチュラルにセクハラをしてくる面倒くさい教師だ。しかも俺にだけ言ってくるという点もかなり面倒くさい。

「遠慮しなくていいんだぞ? 私はいつでも実践授業は大歓迎だ」

「ちなみに実践って何するんですか」

「そりゃあ、あんなことやこんなことをだな……」

「聞いた俺が間違ってましたよ……」

本当に俺とのワンチャンを狙っていそうで怖い。いや、俺の体質のせいで本当に狙っているのかもしれない。

「そうか、こういうお誘いは夜のほうがもえるか?」

「そういうことじゃないです」

「年上は初めてか? それともまだ……」

「もう早くテスト返してください!」

だめだ、この人とは話が通じない。体力の消耗が激しすぎる。やっとテストを返してもらえた俺は速やかに自分の席に戻った。


こんな調子で忙しいラブコメ展開満載の一日が過ぎていくわけだ。これを回避するために俺は魔法で相殺し続けているのだが、どうも俺には魔法使いの才能はないらしい。親にも嘆かれたほどに、魔法に関しては普通以下の、役に立たないレベルだ。

「お兄ちゃん、おかえり」

「ただいま、美雨。結局学校行かなかったのか」

「行かなかったんじゃなくて、行けなかったの! いいから、今日も魔法の練習するんでしょ?」

「ああ、そうだけど、お前には関係ないだろ」

「お兄ちゃんひどい! 私のおかげで少しは魔法使えるようになったくせに」

それは誤解だ。かろうじて基礎的な魔法は使える。まあ、火を出したり、突風を出したり、微量の電気を発したり、俺の体質を相殺するぐらいの洗脳は出来る。俺の今の目標は、この体質を完全に消し去る魔法を使えるようになることだ。

「バカ言うなよ、少しぐらいは使える」

「私には勝てないけどね」

もちろん、義母、義妹も魔法使いの家系だ。両親が俺たち以外の子供を作るかどうかは知らないが、できた場合は確実に強い魔法使いが生まれるだろう。それぐらい、俺たち父子より、美雨たち母子のほうが能力が高いのだ。

「俺だって努力はしてる、ただ、才能がないだけで……」

「そうだね、魔法使いはほとんどが才能だもん。だから私には勝てないもんねー」

こいつ、本当にムカつく。まあ、言っていることは事実だから反論は出来ない。もし体質相殺の魔法をかけられたとしても、美雨なら簡単に打ち破ってしまうだろう。

「じゃあ、今日はお前が実験台になるんだ」

「え、何、セクハラ?」

「違う! 洗脳の魔法をかけるから、どこまで打ち破れるのかやってみてくれ」

「そんなの簡単だよー、お兄ちゃんの魔法よわよわだもん」

くそ、絶対に美雨から俺への恋愛感情をなくしてやる。後悔させてやるからな……!


「今に見てろ」

「望むところだよ」

俺は美雨の頭に手を乗せ、心の中で魔法を唱える。

「どうだ?」

「あれ、魔法かけた? 何も感じないけど」

無意識のうちに魔法を解いてやがる。次はもう少し集中して、魔力を手に……。

「もう一回。いくぞ」

「はーい」

俺は再び美雨の頭を撫でる。美雨の魔法耐性は凄まじい、手がはじかれそうだ。

「これでどうだ」

「ふむふむ、まあ、かかってるなーって感じ。はい、これで元通り!」

解除が早すぎる。やばい、もう魔力が……。

「すまん、少し休憩させてくれ」

「もう? お兄ちゃん、魔力も少ないし体力もないもんね」

言われるのはもちろん悔しいが仕方ない。魔法使いのくせに、魔法って難しいとつくづく思う。そもそも現代に魔法を使う場面などないに等しい。それでも、せっかくつないできた魔法という歴史を俺の代で途絶えさせるのも申し訳ないのだ。

「俺にも才能があればなあ」

「別に得ばかりじゃないと思うけどね」

本人が言うと重みが違うな。きっと美雨は美雨なりに苦労しているのだと思う。

「ああ、美雨はよく頑張ってると思うぞ」

「じゃあ、私と付き合ってくれる?」

「それはまた別の話だ」

「えー、ケチ」

ケチとかの話ではない。俺の気持ちも考えてくれ。

「もっといい男がいるさ」

「結局お兄ちゃんは誰が好きなの?」

確かに考えたこともなかった。こういう体質でありながら恋愛経験はゼロだ。妹はそもそも恋愛対象ではないし、幼馴染は友達という感じで接してきたし、先生に関しては法的にアウトだ。俺は結局、誰と結ばれたいのだろう。

「さあな、気長に見つけるよ」

「つまんないの、私にすればいいのに」

「体質のせいでおかしくなってるだけだ。現実を見ろよ」

「それは、どうだろうね」

やけに意味深な感じだ。俺にこんな体質がなかったら、もっと純粋に恋愛を楽しめていたのだろうか。いや、魔法使いという時点でそれは無理かもしれないな。

「とりあえず俺はこの体質をなくす。それが恋愛の始まりだよ」

俺のラブコメ展開回避はまだまだ続きそうだ。

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