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二十五話 千年日記【18】

 二十五話目です。よろしくお願いします。

 ゴォッ、という音と共に真っ赤な光がミルヒシュトラーセを照らした。彼女が音の方に顔を向けると、燃え盛る槍が見えた。否、炎が槍を模っているのだ。

(こんな武器、見たことない……)

 実体のない武器だ。こんな物で結界を破ろうというのだろうか。

 ミルヒシュトラーセはすぐに結界を重ねがけした。あの炎の槍で結界を破れるとは思えないが、万が一ということもある。

(あたくしの結界は、誰にも破れない!誰も、あたくしに触れることはできない!)

 勝った、とミルヒシュトラーセが心の底から己の勝利を確信した刹那、真紅の槍は易々と二重結界を裁断した。硝子のように粉々に砕けるでも、シャボン玉が弾けるように割れるでもなく、二重結界はまるで紙のようにさっくりと斬られてしまったのだ。

 ミルヒシュトラーセがきょとんとしていると、ユルバンが空中で身体を捻って回転をかけ、今度は真紅の槍で彼女を斬った。

 斬られた、と死を覚悟したがどういう訳か痛みはない。ミルヒシュトラーセは呆然と己の首から下を見下ろす。出血はない。ちゃんと立っている。

 何が起きたのかさっぱりわからず、ミルヒシュトラーセはただただ首を傾げるばかりだった。

()()は神秘を斬る火だ。全てという訳じゃないが、この世にある魔法やそれに類似するものを無効化することができる。術者を斬れば一時的に彼らは魔法が使えなくなる。でも安心しなよ。明日には使えるようになっているだろうから」

 ユルバンは眉間に皺を寄せて膝をさすりながら、ミルヒシュトラーセに説明をした。多分、着地した時に膝から着地したから痛いのだろう。

 そんな魔法があるのか、とミルヒシュトラーセは感動した。

(────いいえ。おそらく、魔法ではないでしょうね)

 ミルヒシュトラーセは父の言葉を思い出していた。

「我らが一斉に魔法の矢を放った刹那、天から金色(こんじき)の光の柱が降り注ぎ、あの悪魔に当たる前に全ての矢が消えてしまったのだ。おそらく、あれは権能(けんのう)だろうが、出力は相当抑えていたように思う。本来はもっともっと恐ろしいものだろうよ」

 ()()に似ている。ユルバンは光ではなく火だったが、おそらく性質は全く同じものだろう。

 魔法ならば師から弟子に継承することが可能だろうが、もし権能ならば教えることは難しい。何故なら権能は魔法と違って生来のものであり、使いたいからと使えるようなものではない。

 それはさておき────

 ドッ、とミルヒシュトラーセはその場に仰向けに倒れ込んだ。

「うわあぁぁぁぁぁぁぁん!記憶も日記も消せなかったよおぉぉぉぉぉぉ!うわあぁぁぁぁぁん!」

 星空に向かって大泣きする最高齢のエルフに、ユルバンはドン引きした。

「……こいつ、後頭部をめっちゃ打って倒れたけれど、大丈夫か?」

 トテトテ、とマギアはユルバンに歩み寄りながら尋ねた。

「エルフは、人間よりも頑丈だから、多分、大丈夫……な、筈……」

 以前、書庫塔で読んだ古い本にそう書かれていたのをユルバンは思い出したものの、果たしてその記述が事実なのかは自信がなかった。

 ユルバンの説明を聞きながら、マギアはふぅん、と頷いて泣き喚くミルヒシュトラーセに視線を移した。

「オレはエルフの生態についてそんなに詳しくないが、二十四時間は様子見だな。その間に吐いたり、気持ち悪さを訴えたら医者に診せればいいさ」

 それもそうか、と思ったがここまで大泣きされると物凄い罪悪感がある。別にいじめた訳ではないのだが、申し訳なさがユルバンの頭の中を占めていた。

「自分を責めることはない」

 ユルバンの気持ちを察したのか、背後からモーントが声をかけた。

「ミルヒシュトラーセ様は生まれながらの姫君だ。幼少期より何でも己の思うままになっていたこともあり、思い通りにいかないとこうして大泣きするのだ」

「本人は恥ずかしくねぇの?」

 マギアが眉間に皺を寄せて訊くと、モーントとゾンネは揃って首を横に振って答えた。

「全く」

 そうなんだ、とマギアは乾いた笑いと共に頷いた。その傍らでユルバンが申し訳なさそうな表情で佇む。

「後は我らで対応する。明日にはいつも通りのミルヒシュトラーセ様に戻っているだろうから、お前達は一旦部屋に戻れ」

 ゾンネに促され、ユルバンとマギアはわかった、と頷いて塔を後にした。ここは彼らに任せよう。

 部屋に帰る道中、お互い終始無言だったがマギアが口を開いた。

「………あれだ。ポケ◯ンでいたな」

「あんな泣き喚くポケ◯ンなんて見たことないよ」

「いや、そっちじゃなくて、ジムリーダーでいたな、と。確かノーマルタイプの使い手で、こっちが勝つと悔しくて泣き始めちゃって、いくら話しかけても埒があかないから一旦ジムの外に出なきゃいけないんだよ」

 マギアの話を聞きながら、ユルバンはあぁ、と頷いた。

「そういえばいたねぇ。ノーマルタイプだからと意気込んで行ったら、えらい目に遭ったよ」

 苦戦という程ではないが、ユルバンは当時プレイしていたゲームのバージョンを思い出していた。

 出現するモンスターが異なるからと、マギアに勧められたのが最初で、これが中々面白かった。以降は新作が出る度にマギアと対戦をしたり、モンスターを交換したりしている。

 ユルバンは、ははは、と乾いた笑い声を発した。

「……牛乳を飲む度に思い出す程、トラウマだったよ」

「そんなに!?────まぁ、それはさておき。地下に戻るぞ」

 マギアの思いもよらぬ提案に、ユルバンは少し前を歩く彼に不満の声を洩らした。

「えっ!?何で!?」

「嫌ならいいぞ。オレ一人でやるから」

 どうやらマギアは戻ってあの日記を編纂するようだ。(くだん)の日記を見つけたのだからもういいだろうと思うのだが。

 マギアはユルバンを振り返ると、ニヤァ、と不気味な笑みを浮かべた。

「オレらはエーアデから依頼を受けたんだ。奴の依頼は日記の編纂、つまりその作業を終えて依頼主に報告すれば報酬が貰える。つまり、金だ!」

 この契約者にして契約主である。

 ルシファーは本来、人間の金品には興味がないのだが、地上を放浪しながら人の営みに触れたことで金儲けを考えるようになった。如何にして人間から金を巻き上げ、それらを有効活用するのかを考えるのが好きらしい。

 一方のマギアも然程金には興味がなかったが、彼の場合はゲームというものに出会ったことによって、金が必要になった。多くの金を稼げば沢山のゲームが買えるという考えなのだ。

 要するに使い道はどうであれ、ルシファーもマギアも金はいくらあってもいいと思っている。

 正直、ユルバンは報酬はもうどうでもいいと思っているが、マギア一匹に任せておくのも如何なものかと思う。

 ユルバンは空を仰いだ。

(帰りたい……!)

 二十五話目を読んでくださり、ありがとうございます。

 途中で出てきたノーマルタイプ使いの話は、実話です。実際に私は彼女とのバトルで苦戦しました。対策はしたつもりだったんですが、そのバトルがきっかけで以降は手持ちにノーマルタイプを必ず一匹は加えるようになりました。

 もしご縁がありましたら、よろしくお願いいたします。


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