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二十四話 千年日記【17】

 二十四話目の投稿です。投稿が遅くなってしまい、申し訳ありません。よろしくお願いいたします。

「ミルヒシュトラーセは特化型魔法使いなのだぁ!」

 そんなようなことを叫びながらユルバンの腕の中に落下したマギアは、身を起こしてミルヒシュトラーセと対峙する。

「お前が忘却の魔法を使おうとしていることは、まるっとお見通しだ!そして、とんでもない魔法音痴であることも!」

 魔法音痴────初めて聞く言葉だ。おそらく、マギアが即席で作った造語だろう。

 ミルヒシュトラーセは相変わらず結界を張り続けている。見る者が見ればわかる、とても強固な結界だ。多分、ルシファーの突進を一回は防ぐことができる程の。それをずっと維持し続けているのを見るに、彼女は決して魔法音痴などではない。

 特化型、結界を張ったっきり攻撃を仕掛けてこないことを考えると、他の魔法も使えるけれど結界魔法程上手く使いこなせないのだろう。

(成る程。魔法音痴)

 ユルバンは無言で大きく頷いた。合ってるちゃ合ってる。

「ミルヒシュトラーセ様!」

 背後から大声が発せられ、ユルバンとマギアはビクゥッ、と驚いて身を縮めた。

 どうやら先程ユルバンが上がって来た階段を使って、ゾンネとモーントが主を止めに来たようだ。

 二人ははユルバンの横に並ぶと、必死でミルヒシュトラーセの説得にかかった。

「この鼠が言ったように、本当に忘却の魔法を使うおつもりですか!?もし万が一暴発したら、島全体のエルフの記憶が飛ぶんですよ?」

「百パー暴発するだろうな」

 ゾンネの力説に、マギアがポソッとぼやいた。

 ミルヒシュトラーセはキッ、と一同を睨みつける。

「構いません!というか、それこそ本望!(みな)の記憶から日記の存在自体が消えるのならば、それはそれでよし!」

「こんの阿保エルフ!終わりよければみたいに決めたんじゃねぇぞ!」

 マギアが牙と爪を剥き出しにしてミルヒシュトラーセに怒鳴るが、いいえとミルヒシュトラーセは首を横に振って否定する。

「あの日記にエルフの起源が書かれていることは皆が知っています。処分した所で、彼らの記憶から日記の存在が消えることはありません。ならば、最初からそんな物などなかったことにしてしまえばいい」

(ぼ……)

 ユルバンはミルヒシュトラーセのあまりにも短絡的な思考に呆れてしまった。

(暴論だ────!)

 ユルバンは百年近く生きているが、これまで彼が出会った人々の中で最も短絡的な考え方をするのがルシファーだった。昔、彼は()()()()()()()()。何か問題があると、すぐに食べていた。流石に彼女が彼以上に短絡的ではなさそうだが、近しいものはある。

(寿命が長い生き物程短絡的なのか?いや、多分性格だろうな……)

 少なくともユルバンは全員の記憶を消せば終わりとか、食べちゃえばいいじゃんという思考になったことはない。荒っぽいドワーフだってそんなことは考えない。

 兎にも角にも、今は暴走ミルヒシュトラーセを止めることが先決だ。

 とはいえ、あちらは鉄壁ともいえる結界を張っている。攻撃はしてこなかったものの、結界を張りながら他の魔法が使えるのかは不明である。本人は魔法を暴発させる気満々なので、もし万が一結界内で忘却の魔法を使われたらもうどうしようもない。

(なら残る手は一つ────)

 ユルバンはマギアを優しく地面に降ろした。

 何をしようとしているのか察したのか、マギアは腹部の袋からユルバンの杖を取り出すと、無言で渡した。

「ありがとう。マギアさん」

 礼を言って杖を受け取ると、ユルバンは構えた。

「いいってことよ。オレも一応は魔法の準備をしてつから、ユルバンがぽかしても問題ないぞ」

 そう言うとマギアはクイクイ、と指で夜空をさした。

 ユルバンはふっ、と笑った。

「助かるよ」

「おい」

 身構えるユルバンの後ろから、ゾンネが声をかけた。

「殺すなよ」

「殺さないよ」

 ユルバンの言葉を信じたのかどうかはわからないが、ゾンネとモーントは一歩下がった。マギアだけはその場に留まり、ミルヒシュトラーセの様子を窺っていた。

(相手は結界魔法に特化している。だったら────)

 ユルバンは杖の先から彗星を飛ばした。光弾を飛ばす基本中の基本ともいえる魔法だが、威力は侮れない。当たればまず無事では済まない魔法だ。

 彗星はミルヒシュトラーセの結界に当たると霧散した。基礎魔法程度では、彼女の結界に傷一つつけることは難しいようだ。

 ならば、とユルバンが杖を大きく横に薙ぐと、彼の背後に複数の魔法陣が現れた。

「流星群」

 ユルバンがそう唱えると、魔法陣から一斉に光弾が射出される。途切れることなく、次から次へと光弾の雨がミルヒシュトラーセに降り注いだ。

 流星群は彗星の強化版だ。術者の魔力量にもよるが、魔力がある限り永遠に打ち続けられる。ユルバンはルシファー同様体内に炉心を持っているため、永久的に魔力を生成することができる。つまり、猛攻が自然に終わることはない。

 けれど、手応えを全く感じなかったため、ユルバンは魔法陣を消すともくもくと上がっている土煙に目をこらした。

「舐められたものですね。基礎魔法の次は、その上位互換ですか。その程度で、あたくしの結界は破れませんよ!」

 大声と共に土煙の中からヒュンヒュン、と音を立てて魔法が飛んできた。ユルバンは咄嗟に防御魔法を展開してそれを相殺した。

(何だ?今の魔法は)

 土煙が晴れると、ミルヒシュトラーセはまだ結界を維持していた。ユルバンはそれを見て確信した。

(成る程。結界を張りながら他の魔法を繰り出すこともできるのか)

 予想はしていたので驚きはしなかったが、厄介なことに変わりはない。

 ミルヒシュトラーセはじっ、とユルバンを見つめ彼の動きを観察する。

(面白い結界魔法────いえ。防御魔法ね。あたくしの結界と違い、当たった魔法を相殺するもの。周囲への被害は少ない。魔法の相殺なんて高度な芸当、あたくしですら創り出せなかった魔法……)

 ミルヒシュトラーセの脳裏にルシファーの影がちらついた。

(流石、ルシファー様のお弟子さん。きちんと師の魔法を継承しているのね)

 ミルヒシュトラーセはふふっ、と静かに笑った。

(魔法使いの悪い癖ね。ついつい試したくなっちゃう)

 次はどんな魔法が出てくるのだろうとワクワクしていると、キラリ、とミルヒシュトラーセの視界で何かが光った。

(何かしら?)

 ふと顔を上げた刹那、突如として光の大爆発が起きた。

 思わず目を閉じたくなるような光の大爆発を間近で見ていたゾンネが慌てた。

「だ、大丈夫なのか!?かなり殺傷力が高そうな魔法を使っていたが……」

 ゾンネの横でモーントがむぅん、と唸って口をきゅっと閉じた。

 心配する二人を尻目にマギアは冷静に魔法の解説を始める。

「ダイヤモンドダスト────氷雪魔法と光魔法の合わせ技で、爆発による広範囲の攻撃が可能だ。まぁ、ミルヒシュトラーセの場合は目眩しにしかならなそうだけれどな」

 マギアの読み通り、あれだけの爆発を受け続けてもミルヒシュトラーセの結界には傷一つついていなかった。

 だがそれを見てマギアはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「それで十分(じゅうぶん)

 ミルヒシュトラーセははっとして周囲を見回した。ユルバンがいない!

(しまった!先程の爆発は目眩しで、次の攻撃への繋ぎだったのか!)

 結界を解いて回避に移行するべきか、それとも結界を強化するべきか。ミルヒシュトラーセが判断に困っていると、ゴォッ、という音が頭上から聞こえた。

 



 


 二十四話目を読んでくださり、ありがとうございます。後六話で三十話と考えると、早いような気がします。

 書き始めた当初はこんなに続くとは思いませんでした。ただ、長く書くとその分登場人物が多くなり、名前と性格を考えるのが大変になってきました。はい。

 次回もご縁がありましたら、よろしくお願いいたします。

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