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二十三話 千年日記【16】

 二十三話目です。投稿が遅くなり、申し訳ありません。よろしくお願いいたします。

 ユルバンはゆっくり目を開けるとくあぁ、と大きな欠伸(あくび)をしてから、伸びをしようとして気がついた。

(縛られてる)

 寝起きでぼんやりとした視界で辺りを見回し、ここがどういう所かは理解した。

(どっかの塔だ)

 煉瓦造りであることから、おそらく島に建っている星見塔だろう。塔内部の全体構造を把握することは難しいが、おそらく二層もしくは三層構造になっている。ユルバンの目線の先に階段があり、そして海老反りになって背後を確認すると上に行く階段がある。丁度ユルバンが縛られて放置されている所はだだっ広い踊り場といったところか。

 姿勢を元に戻すと、ユルバンは両肩の関節を当たり前のように外して拘束から逃れた。

(師匠は痛いの嫌だからあんまりやらないんだよな)

 ゴキ、ゴキ、と音を立てながら関節を元に戻す。

 ユルバンはこめかみに人さし指を当ててう〜ん、と唸りながら、己に起きたことを確認するように記憶を辿る。

(確か、トネリコとかいう魔法使いがエルフは虫垂(ちゅうすい)だ、て言った(ページ)を見つけて、エーアデの所に行こうとして地上に上がったら、気絶したんだよな……何が起きたのかさっぱり思い出せない)

 背骨の辺りに違和感があることから、気絶した際に杖を落としたと思われる。杖がなくとも魔法を使えなくはないが、触媒がない状態では誤作動を起こしかねないためやりたくない。簡単な魔法ならどうにかなるが、高度な魔法ともなると暴発してうっかり術者の記憶が吹っ飛んだなんてのはよく聞く話だ。

(触媒なしに奇跡が起こせるのは、神様クラスだよ)

 ユルバンは耳をすませ、匂いを嗅いで周囲に生き物がいないか確認したが、どうやら自分がいる空間と階下には誰もいないようだ。

(と、なると残るは上か)

 今ユルバンがいる所より更に上の階に何者かの気配を感じる。誰かまでは特定できないが、エルフであることに間違いはないだろう。

 ユルバンは臆することなく階段を上がると、目の前の光景に驚いた。建物の最上階は屋上になっており、美しい星空がユルバンの視界いっぱいに広がった。

 星見塔というだけあって、星空全体を見渡せるように遮蔽物はなく、また星との距離を近く感じるような構造になっている。

 エルフは星を読み、星と共にある種族だ。だからこそ、空から堕ちた星であるルシファーのことを忌避(きひ)しているのだろう。彼がモテるからとか、悪魔の首魁だとか、理由は他にもあるとは思うが根底にあるのは彼らの宗教観なのだろう。それは、誰もとやかく言うことはできない。だからルシファーは必要以上にエルフに関わらないようにしている。

(エルフにとって、堕ちてしまった星は不吉以外の何ものでもないのかもしれない)

 そんなことを考えながら辺りを見回していると、ユルバンは屋上の中央にうずくまる人影を見つけた。後ろ姿で顔は見えないが、女性のようだった。おそらく祈りを捧げているのだろう。

 終わるまで待っていようかとも思ったが、いつまでかかるかわからないので、ユルバンは申し訳ないと思いつつも声をかけることにした。

「あの〜……ちょっといいですか?」

 いきなり声をかけられて驚いたのか、その人物は物凄い形相と勢いで振り返った。

「………ミルヒシュトラーセ、さん?」

 ユルバンはよく呼び捨てで相手を呼ぶことがあり、その度にルシファーに注意されていたことを思い出して、ぎこちないながらも敬称をつけて呼んだ。

 祈りを捧げていたのは、ミルヒシュトラーセだった。

(………つまり、彼女が俺を監禁した、てこと?)

 現状で推理する限り、そうなる。

 よく自分よりも大きな男を運べたなと思ったが、魔法が使えるのなら浮遊魔法を使えば大怪獣だって運べるから、運搬に関する問題はクリアだ。

 あの、とユルバンが事情を聞こうと一歩彼女に歩み寄ると、ミルヒシュトラーセはバッと立ち上がって臨戦体制に入った。

(何故────!?)

 ただ声をかけただけなのに、何故最大限の警戒をされなければならないのか、まったくもってわからない。

 ユルバンは戸惑いつつも、何とか話し合いに持っていこうと努めた。

「あ、あの!俺は戦いたいんじゃなくて────」

「貴方を気絶させて拘束したことは謝ります!でも、あたくしはあの日記に関する全てを消さなくてはいけないの!」

(凄い。俺が何も訊いてないのに自供もして、これからやろうとしていることも自分から言ってくれた)

 ありがたいような、申し訳ないような気持ちになったが、ユルバンは敢えてそこにはつっこまずに何とか話し合いに持っていこうと説得を試みることにした。

「忘却の魔法を使うつもりならやめといた方がいい。あれは失敗例が多い魔法だ。過去には偉大な魔法使いが使って暴発して自分の記憶を消し飛ばしたとこがある。もし成功させたいなら悪魔に頼むといいよ」

 但し、対価は必要になると思うが。それでも、自分にも周りにも被害を出したくないのなら、専門家に頼むべきである。

 ミルヒシュトラーセは両手を前方に突き出し、魔法を発動させる構えを取る。

「問答無用です!」

 そう言うと、ミルヒシュトラーセは自身の周囲に結界を張った。彼女が本気なのを察し、ユルバンも身構える。

(エルフの結界は強固だという。杖がない状態で何処まで応戦できるか……)

 ミルヒシュトラーセを傷つけるつもりはない。できることなら無傷で終わらせたいが、この状況だとそれも難しい。

(気絶させるしかないな)

 簡単な魔法なら、ユルバンは杖がなくても使える。目眩しの魔法か、猫騙しの魔法を当てることができれば一瞬だけでも怯ませることができる。

 ユルバンはなるべくミルヒシュトラーセを傷つけない手段をいくつか考えていたが、その間ミルヒシュトラーセが攻撃を仕掛けてくることはなかった。ただひたすら結界を張っている。張り続けている。

 どんな大魔法が飛び出すかとユルバン構えていたが、一向に魔法が飛んでこない。

 ユルバンの脳内は警戒よりも、疑問が頭を占めていった。

(何で、動かない……?)

 相変わらずミルヒシュトラーセは覚悟を決めた顔で結界を張り続けているが、そこから動く気配はない。

 ユルバンが何故、と首を傾げてるとそれを読んだように空から声が降ってきた。

「説明しよう!ミルヒシュトラーセは今は珍しい特化型の魔法使いなのだぁ!」

 その声にユルバンははっとして空を仰いだ。星空の間から、三毛のフワフワとした毛玉が落ちてきたので、咄嗟にそれをユルバンは両手でキャッチした。

「マギアさん!?」

 ユルバンの腕の中で、マギアは親指に相当するであろう指をグッと立ててニヤリと笑った。


 二十三話目を読んでくださり、ありがとうございます。最近、中々更新に追いつかず焦っています。私は夏休みの宿題は割と後半からガーガーゴーゴーやるタイプでした。

 私とは正反対にそつなく何でもこなせる妹はきっとこんなことはないんだろうと思っていたのですが、ある年の夏休みの終わりに彼女の宿題がえらい溜まっていることが発覚し、家族総出で取り組んだことがあります。その時の大変さと、妹のパニック状態は今でも忘れません。

 コツコツ、書いていきますのでご縁がありましたら次回もよろしくお願いいたします。

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