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二十話 千年日記【13】

 二十話目です。よろしくお願いいたします。いつもより若干長い話になっています。

 ピピピ、とけたたましく鳴るタイマーを止めると、マギアはカップ麺の蓋を慎重に剥がした。

 前脚で器用に箸を持ち、それで麺とスープと具を軽く混ぜてから熱い麺をフゥフゥ冷ましてから啜り、よく噛んで飲み込むと、今度は両前脚で器を持ってグビリとスープを飲んだ。

「ふはぁ〜」

 トン、と器をテーブルに置き、再び麺を啜る。

 ストレスが溜まり過ぎると、こういうコッテリしたものが食べたくなる。本当は次郎系ラーメンを食べに行きたい所だが、この島にそんなものはない。

 マギアは食べ終わったカップ麺の器と箸を片付けると、ソファの上で仰向けになった。

(とはいえ、このままずっとここに籠城する訳にはいかないもんなぁ。いい加減な所で作業に戻らねぇと)

 ユルバンの魔法の鞄に籠ってそれなりの時間は経った。動かなければと思いつつも身体は動かない。マギアは魚眼をゆっくり閉じると、そのまま深い眠りに落ちた。


「君の傍にいる」

 そう言って見せた新しい身体に、()()()()は驚いていた。そして、やや顔をしかめると、

「莫迦なことを。あのまま人としての生を終えていればよかったのだ。そうすれば、これから降りかかる災難に見舞われることもなかっただろうに」

 と、ひどく怒った。

 珍獣はぱちくりとまばたきをすると、潤んだ魚眼で()()()()を見つめる。

()は君に降りかかる災難を払いたいのだ」

 そのためには人の身では、人の寿命では難しい。だから、悠久の時を生きられる器に魂を定着させたのだ。

 人間の生を捨て、民を捨て、国を捨て、それでも何を犠牲にしてでも守りたいものがある。

 彼は────()()()は誓った。大勢の命を犠牲にしてでも、()()()()を守る、と。()()()()の願いを聞き届けよう、と。

 にん、とマギアは笑った。

「契約は続行でいいな?」


 マギアは目を開けた。寝起きだからか、視界がぼんやりしている。

(……懐かしい(もん)を見たなぁ)

 今何時かとスマホを取り出して確認すると、日付が変わっていた。

「あー……そろそろ作業に戻るかぁ……あ!?」

 起きようと姿勢を変えると、そのままドテンとソファから落下した。

 腹は強打したが、スマホは高々と掲げていたので無事だった。これは何としてでも死守したい。

「あ、危ねぇ……」

 万が一に備えて定期的にバックアップは取っているが、できることなら面倒な作業は避けたい。それに、心血注いでプレイしてきたソシャゲのデータが飛んでしまったらと思うと、マギアはぞっとした。

 彼はゆっくり身を起こすとスマホを腹部の袋にしまった。スマホの画面に表示されていた時刻は深夜の十二時を回っていた。

 ポテポテとマギアは階段を上がると、コンコンコンと数回ノックした。耳をすませてみるが、ユルバンが鞄を開けてくれる気配はない。もう一度、今度は強めにノックをしてみるが、応答はない。

 怪訝に思ったマギアは、なるべく物音を立てずに魔法の鞄を内側から開けた。マギアがいつでも出られるように配慮してくれていたようで、幸い鍵は開いていた。

 魚眼で地下空間を見回すが、ユルバンの姿は見当たらない。

(静かだが、危険はなさそうだな)

 マギアは鞄からノソノソと這い出た。

 地下空間には整理された日記の山がいつくか点在していたが、その中に生き物の気配は感じられなかった。

「ユルバンの奴、出掛けたのか?」

 マギアはポテポテときれいに片付けられた机に近づいてよじ登った。

 机の上には何枚かの日記が散らばっており、つい先程までユルバンが目を通していたのが窺える。

 ざっと見た日記の内容だと、日付や場面は違えどもトネリコという魔法使いについて書かれているようだった。

 マギアは、ははぁ、と頷いた。

「エルフのルーツが虫垂だ、て言ったのはこのトネリコだな。んで、ユルバンは(くだん)の日記を見つけて地下空間を飛び出したんだ。ということは、あいつが向かう先は────」

 ルシファーの所に直行したか、それとも見つかったことを一応報告するためにエーアデの所に立ち寄るか。

「………多分、エーアデの所だろうな」

 マギアはうんうん、と頷くと机からコロリンと転がり下りて昇降機に向かった。

 ユルバンはルシファーの弟子なのかと疑ってしまう位、師よりも礼儀正しい。物事の順序や優先順位をよく理解しており、色々すっ飛ばしていくルシファーとは真逆の性格といえる。そのユルバンが、マギアを置いてルシファーの所は飛ぶ筈はないし、依頼主であるエーアデを差し置いて師に例の日記を献上するとも思えない。

 マギアは昇降機に乗り込もうとして、はたと足を止めた。昇降機の中央、丁度スイッチ付近に見たことのある杖が落ちていた。

 恐る恐るマギアは杖に近づいて右前脚をかざすと、カッと魚眼を見開いた。

「オブジェクト・リーディング」

 物体に残った思念を読み取る魔法で、例えば持ち主を探の行方がわからなくなった時、持ち主に何が起きたのかを断片的に視ることができる。ただ、残留思念という薄っすらとした情報を読み取るので、あまりにも昔のことだと映像が不鮮明だったりするのが難点な魔法でもある。

 ただ、マギアは千里眼を持っているため、それと併用することで太古の記憶であってもより鮮明に映像として視ることができるのだ。

 マギアは一番新しい杖の記憶まで遡ってみた。

 ユルバンが一枚の紙を手に、小躍りしているのがまず視えた。おそらく、虫垂(ちゅうすい)について書かれている日記を見つけたのだろう。

(遡り過ぎた。もう少し進めてみるか)

 ユルバンが昇降機で地上に上がった所まで杖の記憶を進める。地上に繋がる扉が開き、そこに立っていたのは────

 マギアははたと記憶を読むのをやめる。

「ミルヒシュトラーセ……ルゥよりは遥かに年下だが、その実力は神の領域に届くと()()()()()()

 言われている、とマギアは小声でもう一度繰り返した。そういう話があるというだけで、本当に彼女の力がそこまでの域に達しているのかは誰にもわからない。

 基本、エルフに関する逸話はあくまでそう()()()()()()だけであって、根拠がないのが殆どだ。

 杖の最後の記憶は、無表情のミルヒシュトラーセがユルバンに向けて何か魔法を放った場面だった。とてつもない光だったが、目眩(めくらま)しの魔法か、それとも気絶させる魔法か。どちらにせよ、ユルバンが襲撃されたことに変わりはない。

 マギアはユルバンの杖を腹部の袋にしまうと、昇降機を起動させた。

(それにしても、ミルヒシュトラーセはどうやってユルバンが件の日記を見つけた、てわかったんだ?何か仕込んでいたとか?)

 使い魔を使って監視する場合や、術者の魔力を対象者の体内に潜ませたりして動向を探ることはできる。

(考えられるとすれば、あの果実酒に魔力を仕込んでいたか……)

 ユルバンもマギアもあの果実酒を飲み干していたので、考えられなくはない。だが問題はどのグラスが誰の所に置かれるかが誰にも予測できない点だ。

(何か、サスペンスみたいになってきたぞ……!?)

 昇降機が地上に向けて上昇している最中でも、マギアは決して思考を止めなかった。危機的な状況の時こそ、考え続けなければいけない────そう、ルシファーが言っていた。

 マギアはブンブン、と首を横に振った。

(ハウダニットはこの際後回しだ!考えるべきはホワイダニット────何故ユルバンを連れ去ったか。日記の処分だけなら無理矢理奪うか、その場で燃やしてしまえばいい。けれど、そうはせずにユルバンを気絶させて連れて行った。何故?)

 ミルヒシュトラーセはエルフがルシファーの虫垂から派生したことを隠したがっている様子だった。だから、父親の日記の山からそのことに関する記述を探し出してもらいたかった。

(あん?待てよ……)

 マギアはふとあることを思い出した。

 事の発端はルシファー拉致未遂事件だ。これは、ルシファーに例の日記を探してもらおうとしてエルフが拉致を計画したものだ。そして、それに失敗した上にグウィネヴィアがルシファーの期間限定の外出禁止令を出してしまったがために、ユルバンとマギアが赴くことになったのだ。

(そもそも、拉致計画自体が杜撰(ずさん)なんだよな。ルゥを連れて行って探させたとして、見つけた後の口止めはどうするつもりだったんだ?ルゥは口が硬いから周りにペラペラ風聴したりはしないだろうけれど、エルフ側としてはいつ暴露されるかとヒヤヒヤするだろうに────はっ!?)

 マギアはあることに気づいてはっとした。同時にガゴン、と音を立てて昇降機が地上に着いた。

「ま、まさか……あいつら……」

 マギアは両前脚で頭を抱えた。

「あいつら、忘却の魔法を使う気だな!?」

 


 二十話目を読んでいただき、ありがとうございます。自分の中ではよく二十個も話が書けたな、と我ながら感心しています。はい。

 所々、拙い文章もありますが、もしご縁がありましたら次回もよろしくお願いいたします。

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