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二話 ルシファーとユルバン【2】

 喧嘩の描写があります。また、既存の幻想生物に独自の解釈を加えている表現があります。

 通称、狂人館(きょうじんやかた)────かつて、古竜の秘術の研究をしていた宮廷魔術師が暮らしていた館で、多くの人体実験が行われてきた忌むべき場所。魔術師は王国全土から人々を館に連れて来ては様々な研究を繰り返しており、犠牲者の多くは貧しい者達で、当時の世界基準でいえば捨て置かれる案件だったのだが、魔王ルシファーはそれを見逃さなかった。すぐさま魔術師の犯行を突き止め、民を虐殺したとして魔術師を自らの手で処断。以降、狂人館は無人となっていたのだが、後にルシファーに弟子入りをしたユルバンが暮らすようになった。

 実は館が建つ森の先にある漁村には、狂人の犠牲となった者達がひっそりと暮らしている。彼らは実験の過程で人ならざる者となってしまい、最早人の社会には戻れなくなっていた。そこで、ルシファーが彼らだけの場所を作り、ユルバンには館に住む代わりに彼らを見守ることを命じて今に至る。

 いわくつきの館に住んでいる時点でユルバンも狂人とまではいかないが、変人ではある。というのも本人がこの館に住みたいと言い出したのだから、相当な変わり者と言えよう。

 館に着くとルシファーは館の正面玄関ではなく、真っ直ぐ裏手に回った。その後ろをヨハンナは黙ってついて行く。

 館をぐるっと半周すると、広い庭に出た。魔法薬に使う薬草や花が咲き乱れる庭の奥には畑があり、屈み込んで畑仕事をしている人影があった。

 ルシファーは庭をズンズンと突き進み、人影の前まで来ると仁王立ちになって構えた。対する人影は慌てることなくゆっくりと顔を上げると、ルシファーを見てやや驚いた様子で目を丸くした。

 彼こそが現在の館の主のユルバンだ。黒みがかった茶色の髪に赤い瞳が印象的な青年で、世の女性が(ほう)っておかない位整った顔立ちをしている。

「師匠。どうしてここに?」

 はて心当たりがありません、という風に首を傾げるユルバンにルシファーは呆れて肩を落とした。

「この連続ゴーレム誘拐犯め。無自覚とはたちが悪い」

 師匠に呆れられているにも関わらず、ユルバンは相変わらず自分のペースを崩さずじっくり考え込む。

「ゴーレム誘拐犯?────あぁ。それならあちらに」

 ユルバンが指差す先を見たルシファーは、口をあんぐり開けて驚いた。

 畑の更に奥にゴーレムらしき物体が甲冑を取り払われて腰を下ろし、森から館の庭に流れ込んでくる小さな滝に打たれている。

 ユルバンはニコッ、と微笑む。

「魔法薬に使う苔を育てようと思いまして。守衛ゴーレムは良質な土から作られているから、良い苔が採れるんですよ」

「ゴーレムを苔製造機に……!」

 ルシファーが愕然とする中、ユルバンは気にすることなくのんびりした態度を保つ。

「いつも質の良いゴーレムをありがとうごさいます」

「………どういたしまして……」

 ルシファーは疲れた様子で、しおしおとお辞儀をする。

 王城の守衛ゴーレムはルシファーが世界各地を巡って見つけた良質な土から作られている。初めのうちは(てのひら)サイズなのだが、動き回れるようになった所で王国に放ち、土や岩、木や草を食べさせて成長を促す。ある程度の大きさになるとゴーレムは食べるのをやめるので、そうしたら手元に戻して装備を整え、いくつかの指令をインストールさせれば守衛ゴーレムの完成だ。ルシファーは一体作るのに、最長で十年かけたことがある。

 ちなみに、今回ユルバンが盗んだ個体が十年ゴーレムである。これまでにもユルバンは質が良いという理由で三体のゴーレムを拉致していた常習犯なので、ルシファーが怒るのも無理はない。

「あの大きさのゴーレムに成長させるのに、どれ程の時間がかかると思っているんだ……この野郎!」

 渾身の力を振り絞ってルシファーはバシンッ、とユルバンの頭を叩いた。

 ユルバンはうっ、と小さく呻く程度で暴力を振るったルシファーを怒ったりはしなかったが、代わりにルシファーの脳天にバシンッ、と背後から衝撃が走った。

 驚いてルシファーが振り返ると、そこにはヨハンナではなく、若い男性が立っていた。

 ヨハンナと同じ毛先にかけて緑色のグラデーションカラーの黄金色の髪に、翡翠色の瞳。服装も彼女と全く同じなのだが、一つ違うのはその髪をシニヨンに纏めていることと、端正で中性的な顔立ちではあるが、ややおっかない顔をしていること。彼がヨハンナの弟のニルである。

 ルシファーは激痛に耐えながら、涙目でニルを上目遣いに睨みつけた。

(おのれヨハンナ君め。帰ったな!?)

 ニルは頭を両手で押さえて痛みに耐えるルシファーを見下ろしながらチッ、と舌打ちをした。

(今、舌打ちをしたな……)

 親に向かって、とルシファーはイラッ、としたがここで声を荒げるとすぐにこの姉弟(きょうだい)はグウィネヴィアに告げ口をするため、ここは怒りを抑えて大人の対応をすることにした。

 脳天を二、三回さすると、ルシファーは軽く咳払いをしてニルを真っ直ぐ見上げた。

「この……ゴーレムの誘拐補助をしやがって!コンプライアンスとかどうでもいいわ!地下牢にぶち込んでやる!」

 やはりこの怒りは抑えられないと、ルシファーは激昂してニルを怒鳴りつけた。その様子を見ていたユルバンが慌てて二人の間に入る。

「師匠!悪いのは俺だから!俺が地下牢に入るから。だからニルは許してやってくれよ」

 キッ、とルシファーはユルバンを睨みつける。

「実行犯なんだから貴様が地下牢に入るのは当たり前だ!」

 ルシファーがユルバンに噛み付くと、更にニルは父親の脳天を無言で叩いた。しかも今度はグーで。これには流石のルシファーも掴みかからずにはいられず、人の家の敷地内で取っ組み合いの親子喧嘩が始まった。

 ユルバンは何とか二人を引き離そうとするも、ルシファーの肘鉄を顔面にくらって背中から畑に倒れ込むとそのまま気絶してしまった。

 意識が遠のき、暗転していく世界の中でルシファーの絶叫を聞いた気がした。

 

 二話を読んで頂き、ありがとうございます。

 徐々に登場人物を登場させていく予定ですが、個々の性格、個性、容姿等々、考えることが増えて大変ですが、私が一番苦労したのは登場人物の名前です。その人物を反映させた名前をつけたいな、と思って色々調べるのですが、その度にやはり物語を作るというのは大変だな、と痛感しています。

 名前と同じ位大変なのが、地名です。これもやはり調べるのですが、この文法で合っているのかな?と、悩みながら作っています。やはりこれも、物語を作るのは大変だな、と痛感しています。

 

 

 

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