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十四話 千年日記【7】

 差別的な表現があります。

 ユルバンとマギアは何故かエルフ達の食事に招かれた。扱いとしては客人なのだろうが、彼らが心の底からもてなしてくれているとは言い難い。

 結界魔法の使い手であるフォルモントを始め、旧文明時代から生きるエルフはかなり冷ややかな視線をユルバンとマギアに向けている。

 (おさ)のエーアデが上座に座り、フォルモント、エクリプセ、ミルヒシュトラーセ、ノイモーントが着席し、ユルバンとマギアも席に案内された。

 大理石から造られた長テーブルに次々と料理が運ばれてくるが、緑一色と言っていい程目に良さそうな色合いをしている。唯一、メインディッシュの魚だけが緑ではなかったが、香辛料等の香りがしないのでおそらく塩を振って焼いただけなのだろう。

 エルフの食事は文献や人伝に聞いた話でしか知らなかったが、こうして本物を目の前にするとドワーフが文句を言うのも頷ける。

(色も味も薄っすいんだな)

 ユルバンは料理をしげしげと眺める。マギアはというと、盛りつけられた野菜と野菜の間を覗き込んでいる。多分、肉を探しているのだ。

 それにしてもやはり場違いだ、とユルバンは改めて思った。この場に集まっているのは位の高いエルフ達ばかりで、中には数多の戦場を駆け抜けた猛者や、賢者と呼ばれている者も同席している。

 ユルバンは身を縮めた。招待されたからには参加しない訳にもいかないのだが、やはり自分達はここにいてはいけない気がしてならなかった。

 チラリ、とユルバンはエーアデを見やる。相変わらずスン、と澄ました顔で何を考えているのかわからない。ただ、ルシファーが一目置いていることは間違いない。

 全員着席したところで、エーアデが姿勢を正すと部屋全体に緊張が走った。

 エーアデは全員の顔を見渡し、静かに唇を動かした。

「星々の導きと(えにし)に乾杯」

 エーアデがグラスを持ち上げたので、ユルバンとマギアも持ち上げると乾杯に加わった。ドワーフのような豪快な宴の開始ではなく、厳かな始まりだった。

 ユルバンは飲み物を一口飲んだ。フルーティーな味が口いっぱいに広がり、鼻から抜ける香りは文書整理で疲弊した脳を程よく蕩けさせた。

 隣のユルバンの様子を見てからマギアも口に含むと、甘い果実の香りに思わず表情筋が緩んだ。

 ユルバンはさりげなく匂いを嗅いだ。味はさっぱりしているのだが、香りがとても濃厚な酒で匂いだけでも酔ってしまいそうだった。

(よく漬け込まれた果実酒だなぁ)

 この無人島は作物が育ちにくい。おそらく、ルシファーが農作用の設備も贈って、それを使って作ったのだろう。

 ユルバンとマギアはグラスをテーブルに置くと、揃って魚料理に手をつけた。────が、一人と一匹は顔を見合わせて俯く。

(味が……あんまりしない……)

 ほぼ無味と言っていい程で、少〜しばかり塩味を感じる程度だった。素材の味はとても感じるが、それ以上のものが欲しい。せめてバターを絡めてムニエルにしてほしかったとは、言いたくても言えない。

 不味い訳ではないので、ユルバンは何とか飲み込むことはできたが、隣のマギアは試練に直面しているような表情で食べ物を口に運んでは果実酒で流し込みながら食べ続けていた。

 魚料理の他に生野菜のサラダ、これもドレッシングが欲しかったし、スープもあったが案の定あっさりめでほぼ白湯に近い。

 エルフ達は黙々とそれらを食べ続けている。食事中に会話をするという文化がないのか、誰一人喋らなかった。ユルバンとマギアも彼らに倣い、ひたすら食べ続けた。

 食べながらユルバンはエルフが外界で生きていくのは相当難しいと感じた。中には郷を飛び出す者もいるだろうが、ほぼ無味の薄味に慣れ親しんだ彼らに外界のジャンクフードが口に合うとは到底思えない。

 世界中何処を探しても、こんなにあっさりしたほぼ無味の料理はないだろう。薄味とかそういうレベルではない。

(無味だ。圧倒的無味だ……)

 料理の味つけに衝撃を受けていると、ユルバンの頭に脳内ルシファーが現れた。

「これはこれで伝統的な調理法なんだよ」

(そういう問題じゃねぇ……)

 ユルバンが隣を見ると、マギアが遠い目をしながら葉物を咀嚼しているところだった。どうやら無心になって食べ進めるに作戦に変えたらしい。

 ユルバンは魚と葉物を交互に口に運ぶも、どちらも味がしないため口直しにもならなかった。

 作業期間中はこの料理をずっと食べ続けるのかと、ユルバンがいらぬ心配をしていると、ふと扉の近くに二人のエルフがそれぞれ扉の左右に立って真っ直ぐ正面を見据えているのが目に入った。片方はキリッ、ともう一方は無表情だった。

 二人は先程暗闇でユルバン達を待ち構えていたエルフ達で、更に情報をつけ加えるのであれば先日ユルバンが行動不能にしたエルフ達だ。つまり、ルシファー誘拐事件の実行犯ということだ。石化に目眩しと二度もユルバンは二人を戦闘不能に追い込んだ話はすぐにエルフ達に広がるだろう。

 キリッ、とした方がゾンネ、無表情がモーントと言い、若いエルフの戦士でエーアデの側近兼護衛らしい。

 ユルバンは当初、二人共男性だと思っていたのだがゾンネは女性だということを先程本人から聞かされて驚きを隠せなかった。気性の荒さ故、男性に見られることには慣れっこなのだとか。

 二人から視線を逸らすとユルバンは果実酒を飲んだ。

(エルフって、若い時は男なのか女なのかわからないよなぁ)

 天使や悪魔は正真正銘の不老だが、エルフや吸血鬼は老化が(いちじる)しく緩慢(かんまん)になっているだけであって歳は取る。人間から見れば不老に見えるためエルフは老いない種族とされてきて現在に至る。

 ユルバンは静かに果実酒が入っていたグラスをテーブルに置いた。

(そりゃ気に入らないよなぁ。自分達が見下していた人間(おれ)がまさか悪魔の血を受け入れて、自分達が持っていない不老不死を手に入れちゃったんだから)

 エルフとて、できることなら世間で言われている不老の肉体を手に入れたいと考えている。彼らがルシファーを敵対視するのは神の仇敵というだけでなく、そういった羨望(せんぼう)の思いもあるのだろう。そして、それをちゃっかり────ユルバン本人からすれば過酷だったのだが────手に入れた様子のことはルシファー以上によく思っていない。

 そんなことを考えながら、ユルバンは何とか出された料理を完食した。

(味はさておき、お腹は膨れたなぁ)

 ユルバンが隣を見ると、相変わらず遠くを見つめているがマギアも何とか食べ終えたところだった。

 一心不乱になって食べていたので周りの様子をあまり気にしていなかったが、ふと見回すと既にエルフ達は食べ終わって隣の席同士で歓談していた。

(声が小さくて話しているなんてわからなかったな)

 もう少し大きな声で話してもいいのに、とユルバンは思ったが時折チラリとこちらを見ては逸らすという動作を繰り返しているので、おそらくルシファー勢(こちら)に聞かれたくない内容なのだろう。

 じゃあ今話すなよ、とつっこみたくなったが要は嫌がらせなのだ。

(なんてさもしい人達なんだ。俺も師匠も陰口なんか気にしないのに)

 ユルバンはふぅ、と静かに鼻から息を吐いた。

 ルシファーは大昔町を歩いていただけで集団に石飛礫(いしつぶて)を投げられたことが何度かあったし、ユルバンも大勢から罵倒されながら人間としての生涯を終えている。そんな二人が陰口で傷つくということは滅多になく、聞こえたとしてもまた何か言っている位の認識だった。

(ここはひとつ────)

 ユルバンはス、とテーブルの上に先程の小さな木箱を置いた。途端にエルフ達は陰口をやめて木箱を凝視する。その反応を見てユルバンはニヤ、と悪戯な笑みを浮かべて静かに蓋を開けた。

 エルフ達はこぞって木箱を覗く。中には席を立ってまで中身を確認する者もいた。

 ユルバンはほんの少しだけ木箱を前に押し出した。

「こちらは、()()です」

 刹那、エルフ達がはっと息を呑んだ。






 十四話目を読んでいただき、ありがとうございます。

 以前投稿した作品を最近読み返してみたら、確認をした筈なのに誤字脱字を見つけてしまいショックでした。今回のも読み返して確認はしましたが、もしかしたら誤字脱字があるかもしれません。

 次のお話もご縁がありましたら、よろしくお願いします。

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