十三話 千年日記【6】
既出の設定に独自設定を加えた描写があります。
ユルバンとマギアは昇降機の所に戻って来た。どうやら鈴の音は上の階で鳴っているようだ。リンリンリンリンひっきりなしに鳴っており、何だか急かされている気持ちになる。
マギアはユルバンの肩に爪を立てる。
「………うるせぇ」
まあまあ、とユルバンは怒るマギアを宥める。
おそらく鳴らしているのはエーアデだろうが、あの第一印象のんびりエルフがこんな急かすように呼び鈴を鳴らすだろうか?それとも、実はかなりせっかちな性格なのだろうか?
兎に角、呼ばれていることに違いはないのだから上がらない訳にはいかない。
ユルバンとマギアは昇降機に乗ると、真ん中のスイッチを足で踏んで起動させた。
あのさ、とユルバンはマギアに声をかける。
「もしかしなくても、この地下空間を造ったのって師匠だったりする?」
ユルバンの質問にマギアはゆっくりと魚眼を閉じる。
「だろうな。この型の昇降機は王城にもいくつかあるし。設計したのはルゥだろうが、造ったのはオーク達だろうよ。あいつら、ドワーフと同じ位物作り得意だから」
流石に犬猿の仲のドワーフを島に入れたりはしないか。オークもエルフとは不仲な種族だが、彼らはルシファー直属の種族軍隊だから指揮官であるルシファーが島に上陸するとなれば、必然的に一緒に上げざるを得なくなる。
そういえば、とユルバンはあることを思い出す。
(星見塔もここと似たような造りだったな。もしかして、あの星見塔も?)
可能性はなくもないが、エルフにとって星見は命と同じ位大事なものだ。それを敵対────一方的にだが────するルシファーに造らせるだろうか?
(どうでもいいか。書類整理とは関係ないし)
ユルバンは顔の前でぱっ、ぱっ、と埃を払うような仕草をして今まで考えていたことを消した。それを見ていたマギアが怪訝な表情を浮かべる。
「虫でもいたか?」
「いや。憶測を消しただけ」
はあ、とマギアは気の抜けた返事をした。
それにしても長い昇降機である。部屋の拡張は魔法だとしても、この昇降機まで魔法で延長させているのかと思う程長い。
(次乗る時に時間を計ってみよう)
ユルバンはそう決めた。
「────にしても長ぇ。不思議の国の兎穴より長ぇ」
マギアはユルバンの肩の上でだらんと垂れながら文句を並べ始める。
「いくら地下深くっつっても、ここまで潜るなんて誰も思わないだろうが〜。あの地下部屋のみならず、この昇降機内もスマホ圏外だから、暇潰しにゲームもできやしねぇ。仲良い奴と一緒に乗っても、話のネタ尽きちまうよ〜」
マギアは項垂れながらユルバンにスマートフォンの画面を見せる。真っ暗な中で液晶画面が煌々とユルバンの顔を照らす。確かに、圏外だ。
ユルバンもスマートフォンを持っているが、それ程頻繁に見ることはないので圏外になっていることに気がつかなかった。
ただ、一つわかったことがある。この昇降機の異常な長さは魔法で伸ばしている訳ではなく、本当に深い地下まで潜っているのだ。
ユルバンは落ち込むマギアを余所に、思考を巡らせる。
(地下何メートルかはわからないけれど、相当深く掘ったんだなぁ。深く隠すような重要な内容があの日記に記されているのだろうか?悪口ばっかりだけれど……)
そもそも、ここは誰が長の時に造られたのだろう?日記の筆者たるエーアデの高祖父はルシファーと真っ向からぶつかったとマギアは言っていた。故に彼は論外。地下空間の設計や建設にルシファーが関わっているとしたら、敵対していた彼が頼む筈がない。
(だとすると、エーアデの祖父か父親、エーアデ本人ということになるか)
エーアデとは少ししか話していないが、彼はルシファーに悪い印象は持っていないように見える。好意的かどうかはさておき、敵対の意思はなさそうだったので事情を聞くならエーアデが無難だろう。
ふとユルバンが見上げると、ボヤァとした明かりが見えてきた。長かった暗闇を抜けると、そこは地上だった。
ガゴン、と音を立てて昇降機が止まるとマギアはもそ、と顔を上げてスマートフォンを見る。
「電波が立った」
ぼそっ、と呟くとマギアはスマートフォンを腹部の袋にしまった。
ユルバンが昇降機から降りると、音を立てて扉が開いた。てっきりエーアデがいないと開かないものと思っていたが、内側からなら誰でも開けることができるようだ。
ユルバンとマギアが円柱の建物から出ると、外は既に真っ暗だった。
マギアは怪訝な顔でスマートフォンを取り出して、ただでさえ大きな魚眼をギョッ、と更に大きく見開いた。
「電波しか見てなかったけれど、もう夜!?」
「どうりでお腹がすく訳だ……」
ユルバンはお腹をさすりながら頷く。出かける前にクッキーを食べたきり、一人と一匹は何も食べていない。
マギアは再びだらぁん、とユルバンの肩の上で項垂れた。
「マギアさん。今日はエーアデに経過報告をして部屋に戻ろう。それで、鞄の中で夕飯を作って食べよう」
魔法の鞄の中には風呂、台所完備の部屋もある。食料の備蓄も十分なので、二人分の食事を用意することは可能だ。元々、食事は自分達でどうにかするつもりだったので、想定内ではある。
「たんぱく質!たんぱく質を食わせろ〜!」
マギアはスマートフォンを腹部の袋にしまうと、うおぉ、と両前脚を天高く掲げてユルバンに注文を出した。
はいはい、とユルバンが頷きながら一歩踏み出すと前方に人の気配を感じたのでとどまった。
あの昇降機内部もそうだが、この円柱の建物に続く廊下は昼でも鬱蒼としているうえに、明かりがないため夜になると月明かりでもない限り本当の闇が広がる。流石のユルバンでも目が慣れるのに時間がかかりそうだ。
ユルバンが目を凝らして闇を見つめていると、マギアの魚眼がボヤァ、と青白く光った。
(千里眼か)
過去、現在、未来、己が見たいと思ったものを視ることができる瞳。元々は魔王ルシファーの権能の一つだったのだが、無用の長物とルシファーから譲渡されて今はマギアのものになった。
マギアは暫く闇を凝視してから、スゥ、と瞼を閉じてゆっくり開いた。
「ユルバン、ユルバン。めっちゃ眩しい魔法で照らして」
マギアはコソコソ、と小声でユルバンにそう催促してきた。藪から棒に何をとユルバンは怪訝に思ったが、杖を取り出して高く掲げた。
「擬似展開・エクスカリバー」
杖の先から光の剣を顕現させると、それはカッ、と目も眩むような光を周囲に放った。
エクスカリバーはアーサー王物語に登場する剣である。この剣は千本の松明を集めた位の輝きを放つという逸話があり、ユルバンは魔法でそれを再現することに成功した。これがかなり有効で、目眩しにもなるし、光に弱い魔物には大変効果がある。
マギアは発動直前に腹部の袋にからサングラスを取り出して素早くかけた。術者であるユルバンは眩しいことは眩しいが、目があぁ、と絶叫する程ではなかったので裸眼でも問題はない。
「ギャアァァァァァァァッ!?」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
闇の中で二人の悲鳴と耳元でゲラゲラ笑うマギアの声が大合唱した。
十三話を読んでくださり、ありがとうございます。
デジタルで小説の資料等を保存していたのですが、ページの開いて閉じてというのが大変で、いっそアナログでまとめてみては?と、思いノートに書き始めたところこれがとても便利で。成る程、だから世の中から手帳がなくならないんだな、と納得した出来事がありました。
次回もご縁がありましたら、よろしくお願いいたします。




