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一話 ルシファーとユルバン【1】

 この物語は悪魔や魔物を中心に書いています。現代を舞台としていますが、一部現実と異なる地理等の表現が登場します。

 ル・リエ王国────その国が発見されるまでは絶海と呼ばれていた海域にある小さな大陸程の島国は、中世時代にはヨーロッパで悪魔の王国と囁かれ、アジアでは古来より鬼が棲まう伝説の島と伝わっていた。

 大戦の折、ある国の戦艦が嵐に見舞われて王国に漂着したことにより、幻想だった国が実在のものとなって世間に広くその存在を知られることとなった。

 ル・リエ王国は悪魔の首魁ルシファーと半竜の妃グウィネヴィアによって創造された国であり、悪魔の国と揶揄される一方、神秘が色濃く残る魔法の国としての側面もあり、神秘との出会いを求めて訪れる観光客は年々増加傾向にある。

 

 ル・リエ王国は国土の東側に王都があり、都を中心に四つの領土に分けられ、それら全てに初代国王ルシファーの血を継ぐ子孫が代々領主として土地を治めている。

 さて、その首都に聳える王城を早朝散歩する小さな影が一つ。まだ薄暗い王城の空中庭園を鼻歌を歌いながら歩くその人物は白金色の長髪を風に(なび)かせ、真っ青な瞳で朝を迎える国土を見つめる。朝日を浴びる肌は病的なまでに白く、美しい顔立ちをしているが顔の左半分を分厚い前髪で隠しており、その髪の間からは棘のような物がぴょこ、と顔を出していた。

 一見、子供のような見た目のこの人物こそ、ル・リエ王国建国者であり、初代国王でもある魔王ルシファーその人だった。

 大理石を敷き詰めた庭を裸足でペッタペタとリズミカルに歩きながらご機嫌で朝の散歩を楽しんでいる。

 早朝の散歩は彼の楽しみの一つであり、王城の背後から昇る日を浴びる己の国を見渡すのが日課だった。

 国を一望できる庭から日の出を迎え、王城の正門側に回る────それがルシファーの散歩コースだった。

 王城内部へと続く大扉の前にルシファーが差し掛かった時だった。彼はぴたりと足を止め、じっと大扉を見つめる。正確にはその大扉の前で守衛を務めているゴーレムを凝視した。常ならば、守衛のゴーレムは大扉を挟んで左右に一体ずつ配置されているのだが、今は片方しかいない。

 ルシファーがはてな、と首を傾げていると後ろから声がかかった。

「あら。おはようございます、()()()

 振り返ると柔和な笑みを浮かべた女性がルシファーに歩み寄って来た。無造作に肩にかけた黄金色の長髪は、毛先に向かって緑色のグラデーションカラーになっており、毛先同様翡翠色の澄んだ瞳をした美女だった。

「ヨハンナ君!おはよう」

 ヨハンナと呼ばれた女性は、ルシファーの前まで来て立ち止まると、彼とその後ろで大扉を守っているゴーレムの片割れを見比べる。

「もしかして、守衛ゴーレムの片割れをお探し?」

「行方を知っているのか!?」

 ルシファーが詰め寄ると、ヨハンナはふふっ、と笑いながら答えた。

「今朝日が昇る前に、()()()()()()が運んで行きましたよ。私、近くで見ていたから間違いありません」

 ヨハンナの証言にルシファーはえっ、と驚いて飛び上がる。

「見ていたのなら何故止めない!?」

 ルシファーの疑問にヨハンナはきょとんと目を丸くする。

「あら。だってニルがとても楽しそうだったから。私、殺し以外だったらあの子が何をやっても見守ることにしていますの」

 うふっ、とヨハンナは満面の笑みを浮かべたが、ルシファーはわなわなと震える。

「其方の弟愛はよぅくわかった!だが、盗みも時にはよくない!弟を想うのであれば、止めよ!」

 ルシファーの叱責に、ヨハンナは肩を竦めてみせる。

「あら。私は何処かの木から生まれた坊やを諭すコオロギではなくてよ?私はニルの良心ではなく、姉なのですから」

 ムキィ、とルシファーは地団駄を踏んで怒った。

「其方ら姉弟(きょうだい)はぁぁっ────もういい!責任を取って()()に同行せよ!」

 ルシファーが手でついて来るよう命令すると、ヨハンナはふふっ、と笑いながら返事をした。

「はぁい!」

 楽しそうで、反省など微塵もしていないような彼女の態度にルシファーは溜息を吐いて呆れた。

(あ〜……暖簾(のれん)に腕押しとは、こういうことを言うのだな……)

 ヨハンナとニルの姉弟は、ルシファーの養子として王家に迎え入れられた。出自が王族ではないため王位継承権を与えることはできない代わりに、不自由のない生活をさせているつもりだ。

 初めこそ緊張していた二人だったが、徐々に環境にも慣れていき、今ではルシファーとグウィネヴィアのことを父と母と呼び慕ってくれている。

 ただ、二人の生活に於いてルシファーはなるべく会わせたくない人物が一人いた。その人物は王城の裏の森にひっそりと佇む館に暮らしており、森の先に広がる漁村の統治を任命されている────名を、ユルバンという魔法使いだ。

 ルシファーとヨハンナは王城の裏手から森に下り、館を目指した。王城の影と、鬱蒼と生い茂った木々が太陽の光を遮り、森は昼間であっても暗い。更に森にはキノコ(びと)が徘徊しており、決して安全という訳ではない。ルシファーは後ろからついて来るヨハンナを気にかけながら森を進んだ。意外にもヨハンナは運動神経が良いようで、難なくルシファーについて来ている。獣道を嬉々として歩くヨハンナをちらりと振り返り、ルシファーは小さく溜息を吐いた。

(ニル君は好奇心旺盛だからな。王城の裏手にある館に興味を示すのも時間の問題だったが……)

 ユルバンは危険人物ではないが、少々難ありな人物で所謂変人と呼ばれるタイプの人物だ。日々、魔法と魔法薬の研究に没頭しており、時々フィールドワークで館の外に出ることもある。

 ぐぬぅ、とルシファーは奥歯を噛み締める。

(好奇心旺盛なニル君が変人のユルバン君に興味を示さない訳ないじゃないかっ!)

 ルシファーは常々妻グウィネヴィアから口酸っぱく言われていたことが二つある。一つはヨハンナとニルに実子同様の愛情を注ぐこと、二つ目は二人に危ないことをさせないこと。

 ぐあぁっ、とルシファーは頭を抱えながら森を駆け抜けた。その姿を見てヨハンナは首を傾げる。

「お父様、どうなさったの?」

「どうもこうもないわ……其方らに何かあったら、おぬがグウィネヴィアに怒られる」

 あら〜、とヨハンナは困り顔を作る。

「それは大変ですね」

 きっ、とルシファーは後ろからついて来るヨハンナを睨みつける。

「他人事みたいに言いおって!」

「他人事ですから」

 確かにグウィネヴィアからお叱りを受けるのはルシファーであって、ヨハンナ達ではない。今回のことも何かあれば監督不行届として、ルシファーは妻から罰を受けることになるだろう。

 グウィネヴィアはこの姉弟にとても甘いのだ。ヨハンナとニルもそれをよく理解しており、それ故の危険行為も多い。少しは叱られる方の身にもなってほしいが、ルシファーが叱った所で二人には響かない。

 ルシファーが莫迦(ばか)にされている訳でもなければ、グウィネヴィアが上手いこと利用されている訳でもない。少々────いや、かなり甘え過ぎな所があるが、根は悪い子達ではないのだ。

(まぁ、おぬも最初の頃甘やかしていたからなぁ。グウィネヴィアばかりを責められん)

 実の子同然に育てたつもりだったが、些か蝶よ花よと育て過ぎたかもしれない。

 自身の子育てを猛省していると、その館は二人の目の前に突然現れた。

 

 

 

 こんにちは。ユズ・ボウと申します。この度は私の小説を読んでくださり、ありがとうございます。

 私は小さい頃から物語を作るのが好きで、いくつか紙に書き溜めていたことがあるのですが、今はこんな素晴らしい投稿サイトがあることを知り、小説家になろう様にて執筆と投稿を始めました。

 ただ、書き始めてみると中々上手くいかないもので、以前三作程投稿したのですが、途中で設定が合わなくなってきてしまい、削除したことがありました。投稿している作家さん方は凄い、と感服しました。

 今度こそは自分の作品を書くぞ、と設定をあれこれ練り直して執筆したのが今回の作品です。よろしくお願いします。

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