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第07話 救済

「えぇ…俺が触ったから…それだけ…?」


 天海は最後まで意味不明な“卵”の発言に動揺しながらも、孵化の行方を見守る。またも神々しさすら感じる光を放ちながら、はじけ飛んだ殻の中に居たのは――青い蛇であった。いや、蛇ではあるのだが、蛇ではない。フォルムはほぼ蛇のソレには、小さいもののコウモリのような翼が2枚、爪の付いた前足が2本。ついでに言うならば、眼は蛇と違い、何かをめ付けるような、いやらしい縦長の形状をしていない。一見蛇っぽいフォルムのソレは、よく見ると蛇とはまったく違うのかもしれない。


「…」


 天海は意外にも驚かず、ノーコメントのようだ。


(いやー…確かにこんな生き物見たことないんだよ? 凄いことだと思うよ? 学会か何かに報告すれば大発見かもしれないよ? でもさぁ…)


 天海は小さなため息をつく。


(あれだけ「私は如何にも威厳な生き物の卵です!」感出しといて、オマケに喋ってたのにさぁ…生まれたのが蛇っぽい何かじゃなぁ…)


 なるほど、確かに先ほどまで“卵”から滲み出ていた荘厳さに比べると、割と一般的で可愛らしい外見の“蛇”では格落ち感は否めないかもしれない。


「あなた達……さっきから何をブツブツ喋ってるのよ……」


 天海は女のことをすっかり忘れていた。“卵”が女のスキルを奪い、無力化してから、まったく女は動く気配が無かったからである。最初に対峙したときに女から感じた異質さも消え失せていた。恐らく天海が感じた違和感は、“卵”の言っていた魔力というエネルギーだったのだろう。


 一時的ではあろうが、“卵”が魔力の捻出を不可能にしたことで女はただの動けない一般人とも言える状態になってしまっていたのである。しかし、デバフスキルの持続時間が切れたか、はたまた孵化したことでスキルの効力が失われたか…。女は再び立ち上がり、強い憎しみの表情を天海と“蛇”に向ける。


「いくら魔力を燃やしても、私の体から火が出なくなったわ……。さっきの気持ち悪い卵のせいね…!許さない……許さない!」


 女は無造作にも2人(1人と1匹)に殴りかかってきた。“蛇”は小さな翼で必死そうにパタパタとはためき、女の拳を躱す。しかし天海には一切の防御および回避の手段がない。一発目の拳は何とかぎりぎりで避けるも、それを待っていたかのように振りかざされる2発目を顔面に食らう。


(顔にモロに……!)


 天海は5~6メートル先まで殴り飛ばされる 。“卵”が女のスキルを奪い、デバフをしてくれていたからであろう。床の火はほとんど鎮火しかけており、天海が倒れ込んだ床は非常に熱くはあったものの、またもや特に外傷は及ぼさなかった。しかしその安堵以上に、天海は女の身体能力に目を見張る。


(痛ェ……!コイツのパンチ…尋常じゃねぇぞ…強いだけじゃなく速い!プロボクサーか空手家か何かなのか?)


 殴られた鼻づらは打ちどころが良かったのか何とか折れずに形を保っているが、直接拳をもらったわけではない頬もズキズキと痛む。女が元格闘家であるなど、この打撃の強力さの原因になり得る可能性を頭の中に羅列していく。が、どれも腑に落ちないに決まっている。天海が最終的に辿り着いた結論はこうだ。


(多分、魔力ってので拳を強化してるんだろうな。殴られる直前、何かフヨフヨのオーラみたいなのが拳から出てた気がするし。魔力で物理攻撃ってイメージあんまないけどな)


 そんなことを考えている間にも、女は天海にじりじりと迫ってくる。その顔はまるで般若のように歪み、もはや天海がはっきりと目視できるほどに全身から負のオーラが立ち昇っている。二度目の窮地に立たされた天海は、これが魔力というものなのだろうと、察しながら走馬灯を見る準備をする。

女に殴殺の構えを取とれた天海が死を覚悟したとき、背後から声がした。


「何をしてるんだ、悠斗」


「!!先生!!」


 背後からの重々しさを感じるその声が、天海には絶望から希望への転換を告げる鐘の音にすら聞こえた。声の主はギリシャ神話を思わせるかのごとく筋骨隆々、威風堂々とした壮年の男性。身長190cmに届くかというほどの巨躯を誇る。


 女は自分の復讐がまたもや邪魔されたことに苛立って仕方がないという表情を見せる。


「何なのよあなた。まとめて殺して欲しいのかしら!」


 魔力を纏った拳で天海と男のいる方向に突進する。その瞬間――文字通り瞬きする間に、女の目の前に男が立っていた。


「えっ……」


 女は動揺の色を隠せないようだ。2人に殴りかかることも忘れ、腕をだらんとする女。その腕がぶら下がりきる前――もうひとつ瞬きする間に、女の首からトッという男がした。途端に女は白目を向き、その場に倒れ込む。男が女の首元に手刀を叩き込んで気絶させたのだと気付いたのは、女が倒れて5秒ほど経過した後だった。

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