第06話 換胎奪骨
「マジで言ってんのかオマエ…。俺のスキルを盗ったってことか…」
「はい」
淡々と説明する“卵”に対して、天海は落胆の色を隠す気配もない。
「俺もビーム飛ばしたり火ィ吹いたりしたかったのに…」
しおらしくする様子もなく、“卵”はひたすらに淡々と謝罪の言葉を述べる。
「申し訳ございません。しかしご主人を守るためには仕方なかったのです」
「えぇ…? 俺もスキル持ってるなら使えるんじゃないの…?」
もうすっかり萎えきって気力を無くしている天海。よほど異能力で活躍したかったらしいが、“卵”は慈悲をかけることなく淡々と続ける。
「いいえ、ご主人はスキルを所持していてもそれを自覚していない型のスキル所持者だったようです。使い方がわからないのに咄嗟に発動する、というほど扱いが簡単なものでもありません。それにご主人、先ほどまでそこら中の火で息切れまでしていたのに、すっかり元気でしょう」
「あれ? ホントだ」
立て続けに言葉の弾丸を食らっていた天海だったが、確かに、と気付く。先ほどまで熱気と煙で命の危機に瀕していた彼の身体は嘘のように軽い。心なしか周りの火も勢いが随分と弱まっているように見える。
「ご主人のスキルは、活力を低下させた分だけ、それを他者に分け与えることができる。しかし、それが使用者自身に還元されることはありません。そこで私のスキル『換胎奪骨』でご主人とあの女性、両者のスキルを頂きました。そうしてスキルを持たなくなったあの女性の身体能力や魔力出力などを弱体化させ、その分をご主人に分け与えることで先ほどまでの窮地を脱するよう努めました」
萎えていた天海には冷たかった“卵”は、自分の功績を説明している今は何故か誇らしげだ。勝手なヤツだ、と天海は思いながらも会話を続ける。
「んなるほどねー。てか聞けば聞くほど強いスキルだったんだな」
「そうですね。敵の弱体化と味方へのドーピングを同時に行えるという点では、非常に優秀なスキルでしょう。もう使用できないのが惜しいです」
「えぇ…もう使えなくなっちゃったの…?」
天海はもはや驚くことを諦めたが、それでも落胆はぬぐいきれまい。
「はい。私のスキル『換胎奪骨』はただスキルを奪うだけのものではなく、それを“孵化”へのエネルギーに変換するのです。ほとんどを孵化への魔力に使ってしまったため、あの女性に使った一度きりでスキルの備蓄は消えてしまいました。ほら、もうすぐ孵化します」
卵なのだから孵化をするのは当然か、と天海は納得する。納得できるほうが意味不明な状況ではあるのだが。自分の中では一応あらかたの疑問は解消したので、情報整理に勤しむことにする。すると、
「お」
“卵”はパキパキと音を立ててひび割れていく。中から魔力と思われる光が差してくる情景は何とも言えない、神秘的なものを天海の心に訴えかけてくる。そこで何かを思い出したように、あ、最後に1つだけ、と“卵”に話しかける。
「オマエは何で俺の使い魔?になったの?」
「最初に私に触れたのがご主人だったから、ただそれだけですよ」
そう紫色の不気味な唇を震わせると、“卵”の殻ははじけ飛んだ。