表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/30

第19話 異変

今回は天海くん視点と観戦席での三人称視点、どちらも織り交ぜています。

読みづらい箇所があれば申し訳ありません。それではどうぞ。

 おぞましい断末魔を上げながら貫かれた魔族の頭部からは、砕かれた殻と一緒に赤い光がほとばしった。これは、俺の魔力。……だと思う。カニ汁だったら嫌だな、すごく。


「またつまらぬものを斬ってしまった……」


――――― 観戦席 ―――――


「「「ダッッッッサ」」」


「んふっ……」


 新門 智美のスキルで、新門オリジナルゲート内の様子をモニターに映して観戦していた全員が一斉に声を上げる。普段から生真面目に自分の職務を全うし、業務中の私語は控えている新門本人ですら吹き出してしまった。別のゲート内の様子を見守っていた者すらも、あまりにも自信満々で稚拙な技名を叫ぶ天海に思わず自分たちが観ていたモニターから目を逸らして上記の感想を上げてしまう有様である。それは勿論、皇城蒼空も例外ではない。


(いくら何でも馬鹿すぎんだろ……)


 がしかし、彼は「そんなことはどうでもいい」と言わんばかりにすぐに顔をしかめた。まるで、別の心配事でもあるような様である。


――――― 天海視点 ―――――


 ふぅ、とりあえず討伐完了!……とは言っても、まだまだいるんだろな。次のはいつ来るんだか……。


「お」さっきまでエビが立ってた空間に、急にノイズみたいにどす黒いモヤが出始めた。その中からぬるりと出てきたのは、


「ぽぃんとぉカアドはおもっちっちちっ……」


 爪が異様に長くて鋭い、やせ細った人型の魔族だった。地面まで付きそうな爪の付いた腕を振り回しながら、こっちに向かってくる。とは言っても、距離が2メートルくらいしかないからすぐに来られちゃったけど。さっきまでの俺ならコイツに反応しきれなくてヤバかったかもしれない。だけど、今日の俺はもう“掴んでる”。いける!


「必殺!『ハイパーライトニングラッシュアタック』!」全身と刀に魔力を流して、首筋に向かって横なぎ!


「またぁおごじくだざぁっ……!」またもや不気味な断末魔を上げて、魔族の体はボロボロと崩れていった。


 これで二体目!先生が言うには、試験で戦う魔族の数は2~3体くらいのことが多いらしい。つまり、次で最後!このままラスト一体も倒して、つよつよ討伐者スレイヤーになっちゃいますか~。


「さぁー来い!」


 なんて言っていると、最後の一体と思われる魔族が出てきた。……いや、出てきたんだけど、黒いモヤからズルズルと出てくるソレは、いつまで経っても身体の端っこが見えない。でかすぎる。十何秒も経ってようやく全身を現したその魔族は、体の長さは10メートル、高さは3メートルくらいあろうかという巨大なワニのような姿をしている。魔族とかそういうの関係ない。デカい猛獣と出くわしたときの、「あ、逃げなきゃ」って感じの恐さが頭の中でぐるぐる。


 ちなみに、そのワニ型魔族の大きく細長い口の目と鼻の先に……俺、天海悠斗は立ってます。こんにちは。詰みました。


 バグン!


 次の瞬間、俺はさっきよりさらに暗くて狭い空間の中に閉じ込められていた。なんだここ、足元はぶよぶよ、なんか周りもベタベタしてるし、何なら変な悪臭がするしで、ぎぼぢばぶい……。でも、そんな気持ち悪さを感じてるヒマなんてすぐにないってことを俺は察した。ここ……


「口の中だ……うわっ、響いた」


 あーあ、俺、魔族に食われちゃったのか。あれ? このまま人生終了? あちゃー終わり!さよなら!死にたくないよーお疲れ様でした!!


「……待てよ?」


 声を魔族の口の中で響かせながら俺は考える。もうワニ魔族は口を動かして俺を噛み砕こうとしてて、もう時間なんてないけど考える。魔族唯一の急所である核は、人体で言う首か、脳に位置する場所のどちらかに多いらしい。今まで戦った魔族の急所かくは全部首だったけど……今回のワニの場合は脳みそなのでは? そう考える理由は1つ!俺の頭の上…つまりこの魔族の脳らへんに、なんか強そうな気配を感じるから!時間はマジでない。もう魔族の鋭い歯が俺に刺さりかけてて結構痛いし、口をガチガチに閉じようとしてくるからもう少しで刀すら振れなくなると思う。そうなる前にやるしかないのだ!


「必殺!……まあいいや!」


 技名なし!思いつきで刀を突き上げる!


アアアアアアアア!!!


 ビンゴ!ワニは血しぶきと断末魔(断末魔が何のことなのかはよくわからない)を上げる。俺の刀と体にも、大量のどす黒い血液がびちゃびちゃと降りかかる。なんか、生暖かくて気持ち悪い……。魔族はボロボロと黒いチリになって消えてしまった。俺が入っていた大きな口が急に消えたから、地面に降りるときバランス崩しかけちゃった。危ない危ない。あ、ちなみにさっき俺の体を汚しまくった魔族の血はもう乾きました。たぶん、魔族の肉体がすぐに消えるのと同じ原理? 原理って言葉なんかカッコ良さそうに見えるよね、アイ・アム・インテリジェンス!


「おしまーーーい!」


 これでたぶん終わり!よっしゃ、大したケガもないし結構いいんじゃない!? よく考えたら俺、みんなと違ってスキル使えなかったのにコレだよ、スゴくない!? ふうー、圧倒的な勝利の余韻を噛みしめて……ダメだ、次の言葉が思い浮かばない。あーあ、なーんか毎回締まらねーの。


 そんなことを2~3分考えてたら、俺はあることに気付いてしまった。いつまで経ってもお迎えが来ないよー。もしかして自分で帰ってきてください、とか? えー、開き方なんて知らないけどどうしたらいいんだ? 初めに入ってきたゲートはもう消えてるし、帰りようがないよね。


 途方に暮れ……ている余裕はなかった。後ろからなんかとんでもないモノを感じる!俺は反射でかがんだ。俺の頭の上で、黒くていかにもヤバそうな何かが通過した。慌てて振り返ると、そこにいたのは……別の魔族だった。


――――― 観戦席 ―――――


 観戦席は混乱の渦であった。。それもそのはず、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からである。新門は、あらかじめ学園側の人間が捕縛および無力化させておいた複数体(今年は一ゲートにつき3体)の魔族を配置していたにすぎない。ゆえに、新たな――それも、初級者には攻略することなどほぼ不可能な――魔族の出現は、まず有り得ないことであった。だがしかし、こんな時に何の手も打たず指を咥えて眺めているほど、新門智美は甘くない。彼女のスキル『新門オリジナルゲート』は、遠隔からでも入口を再度開けることが可能である。今すぐゲートの入口を開け、あの魔族と同じくAランクである自身が天海悠斗を救出し、異分子を屠り一件落着……の、はずだった。


「なっ、なんで――」


(なんでゲートが開かないのよ……?)


 新たにゲートを増設するならまだしも、すでに開けており尚且つ現存するゲートを制御できないことなど、彼女のスキルの仕様上有り得るはずもない。これには新門や皇城のみならず、他の学園関係者も出動せざるを得ない。混乱に次ぐ混乱、想定外に次ぐ想定外。モニター越しに映る天海の焦燥と、虚ろな目をした魔族。最早、彼自身がこのAランク相当の魔族を倒すほか、打開策はない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ