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第18話 試験開始

今回は、少し書き方を変えています。読みづらくなければ良いのですが……。

2023年 2月 東京都郊外


――――― 天海視点 ―――――


 率直に言うぞ、先生の鍛錬はとんでもなくスパルタだった。走り込みに、腕立て伏せに、上体起こしに……。毎日毎日ハードすぎる運動をとんでもない回数やらされて。もう最初のほうとか筋肉痛がキツすぎて動かそうと思っても身体が動かなかったんだからな……。あ、でも、刀の素振り。アレは楽しかったなぁ。刀ってなんか良くない? マンガとかアニメでシュビビビってさ、すんごいカッコイイよな。ガキのころ(今もガキだけど)よく遊んでたゲームで勇者が使う武器はみんな剣だったけどさ、よく考えてみたら日本刀のほうが良いかも。


 あ、そうそう。勇者と言えば、魔族を倒す人たちって「討伐者スレイヤー」っていうらしい。つまりだ、ガキのころ憧れだった勇者みたいなモンに、俺もなれるかもしれないってわけだ。しかも剣よりもカッコイイ日本刀で、だ。


 でも討伐者スレイヤーになるためには、青嶺しょうれい学園ってところの入学試験に合格して、魔族と戦うためのアレコレを身につけなきゃいけないらしい。でもまぁ頑張ったし、あとはやるだけよね。


 そんなことを考えつつ、俺は先生と一緒に青嶺学園へ続くらしい道を歩いてる。んだけど、車を降りてかれこれ30分近く郊外の古くさい道を歩き続けてるのに(ここホントに東京?)全然それらしき建物は見当たらず。先生は車を降りてからはほとんど口を開かないし、「話しかけないほうがいい」みたいな気を発しているので話しかけないことにしました。たぶん先生も緊張してるんだろうな。と思っていたら先生はおもむろに口を開いて、


「着いたぞ」と言った。


「ウェ?」


 あーあ、この爺さんもモーロクしちゃったかな。そんなことを考えているのを見透かすように、フゥ、とため息を吐く先生。


「フゥじゃなくてさ、マジでなんもな――ウェ!?」


 言いかけて、俺は目を見開き奇声を発した。そりゃそうだよ。木々が立ち並んでるだけでほかには何もなかったこの風景が、いきなり歪み始めたんだから。歪んだ風景はみるみるうちにゆらゆらと煙のように揺らいで、そこにはでっかい建物が現れた。


「これが結界。重要機関である青嶺学園を無関係な人々の目から隠すために展開されてんの」


 いや、結界……? ここまでトンデモなもんなの……? 確かに今までも炎を出す女の人がいたり、虫なのかトカゲなのかよくわからないバケモノに会ったり、先生の魔族討伐に付き添って色んなヤベーやつを見てきたりしたけど、こーんなスッゴい仕組みは初めてだぞ……。


「ささ、中入るぞ」


 驚きで腰を抜かしかけていた俺は、先生に背中を押されて慌てて気を取り直した。おそるおそる足を進めてみる。けど、何歩進んでもおかしなことはない。結界っていうくらいだからバチィンって弾かれて入れないとか、特別なバリアが張ってあるとか想像したけど、特にそんなことはないみたいだ。普段隠されてるだけでそれ以外は普通らしい(つまり何も普通じゃない)。


 そんなこんなで、少しこじんまりとしている校舎の中に入っていく俺。中は全体的に狭めな感じはするけど、壁とか廊下とかは意外と普通の学校と似たような感じだし、正直「こんなので討伐者スレイヤーなんて育てられるのか」とか思ってしまった。壁には「一挙入魂」とか「限界を超えろ!」とか書いてあって、こういう教訓が「ザ・戦闘員ゆうしゃ養成所」って印象を受ける。逆に俺が通ってる中学校の壁に貼ってあるような、地域のイベント情報とか芸術コンクールのビラとかはほとんどない。中学と高校じゃ色々違うのか? いや、この学校を「普通の高校」と同じように考えちゃダメだな。


 先生の後ろにくっついて歩いてる途中、二階に続く階段もあったけどそれはスルー。先生によると、この廊下をさらに進んだ先にある校庭で試験は行われるらしいから。


 そんなこんなでついに廊下の端っこまで到達した先生と俺。目の前に立ちはだかるのは、校庭へと続く扉。


「……ここに立ちはだかる扉を開けば、禁断の校庭が解き放たれて……俺は……俺は……」


 うーん、ちょっとそれっぽいことを言ってみたかったのだが、言葉が続かない。いや、冷静に考えて何? 禁断の校庭って。この扉だって立ちはだかるってほど大きくも豪華でもないし、何ならガラスの部分からちょっと外が見えてるし。雰囲気なんてあったもんじゃないじゃん。


「ほら、開けて」


 俺のことはガンスルーで催促する先生。


「へーい……俺言葉詰まっちゃって結構恥ずかしかったんだよ? 拾ってくれてもいいじゃん」


「言葉が詰まってなくても禁断の校庭とか何とか恥ずかしすぎるが」


「ごもっともですね」


 ということで、俺は意を決して(もちろんこんな会話の後なので意など決せていない)、校庭へと続く扉に力を込めた。


 ギギィ、という音がして扉が開く。そして目の前に広がる光景に、俺は息をのんだ。


「広っ」


 この一言。この校庭、とてつもなく広い。テレビの特集で紹介されるなら間違いなく「東京ドーム〇個分」って言われるくらいにはデカい。校舎がこじんまりとしてたからさ、学校全体こんなもんなのかな、とか思っちゃってました、すみませんでした。そこから先生に連れられて校庭を歩いている間も、俺は校庭内を見渡しっぱなしだ。見渡している最中、奥に人が何人か集まってるのを見た。たぶん、あれが試験会場か何かなんだろうな。


 だだっ広い校庭を歩くこと数分、先生と俺はさっき見た人の集まりに到着。円を囲むようにして立っている人たちはみんな同じくらいの年齢に見える。この人たちも受験者なのかな? たぶんそうだな。


 みんなの中心に立っているのは、スーツにメガネの真面目そうな若い女の人。


「全員集まったようですね、それでは始めます」甲高く、それでいてどこか野太いような、キビキビとした声が響いた。……っていうか、俺が最後だったのか、うわ恥ずかし……そして申し訳な……。


「私の名前は新門しんもん 智美さとみ。本校の入学試験の試験監督を務めさせていただきます。よろしくお願いします」よろしくお願いしまーす、と小声で返しながらお辞儀。


「早速ですが試験内容をお伝えします。皆さんご存じだと思いますが、試験内容は魔族との戦闘。これにより皆さんのランクが決まりますので、心して臨むように。なお、試験は私のスキルの中で行うこととします」


 “私のスキルの中”? 何を言ってるんだこの女の人……じゃない、新門さん。こういう雰囲気だし、先生に聞くのもな……などと思っていたら、新門さんはパチン、と指を鳴らした。すると


「お?」


 瞬く間に、何もなかった目の前の風景に複数の四角い穴が開いた。穴は虹色のような白色のような光を放っていて、中を見ることはできない。こんなスキルもあるのか……と思いながら、予想外のことに慣れすぎた自分のリアクションが薄くなっていくのを実感してしまう。


「これが私のスキル、“新門オリジナルゲート”。中の様子は私が外から見ることができますし、急に閉じたりすることもないのでご安心を。皆さんそれぞれに1つずつゲートは用意していますから、指定されたゲートに入るようにしてください。はい、アナタはこちらに」


 新門さんはそう言いながら俺に小さな紙切れを渡してきた。でも、どんなに透かして見ても紙切れには何も書いてない。てっきり番号でも振られてるのかと思ったけど、そんなこともない。


「あの、何も書かれてないんですけど」と質問すると、


「今にわかります」


 そう言いながら新門さんは、再び指をパチン、と鳴らす。するとまたまたビックリ仰天。紙切れから、光る糸が出てきて、少し先にあるゲートへピンと張った。マジか。


「その糸の指し示すゲートに入ってください。中に魔族が複数体出現しますので、それをご自身の力で討伐してください。それでは、試験開始とします。ご武運を」


 ついに始まったか。先生のいる後ろ側へと振り向き、笑いかける。


「じゃあ、行ってくるよ。絶対合格してやっから、待っとけよ」


「……頑張れよ」


 先生が静かに答えたのを確認した俺は、今度こそ意を決して、眩しい(マジで眩しすぎる)ゲートの中に足を踏み入れた。


 先生、なんか冷たい、というか心ここにあらずな感じがしたけど……まあ腹でも減ってんだろ。


     ◇ ◇ ◇


「……よし」


 眩しい光のゲートを抜け出した先は……暗かった。風景を言い表そうとしても、「暗い」以外よくわからないので、説明のしようがない。一応周りのものが見えないわけじゃないんだけど……あ、ほら、あそこになんかある。カニみたいな、エビみたいな。……いや、それにしてはなんかデカくね? しかもこっちに向かって来てね? うん、ヤバいやつだこれ。試験内容の魔族ってやつだ。ぴちゃぴちゃと水が滴るような音を立てながら歩いてきたエビ型魔族は、高さ2メートルはあろうかという高身長だった。


「お……おぉ……」


 うわキッショ!エビが発してきたのは、耳をぞわぞわと撫でつけてくるような気色の悪いダミ声。前に会ったデカいトカゲ(?)が発狂してただけなのと比べると、だいぶ怖さが増すな。部屋が薄暗いのもあって。


 俺は腰に差してある鞘にようやく手をかけ、そしてスルスルと刃を抜いていく。ゆっくりと抜かれた刀の刃は、薄暗い部屋の中でもなぜかギラギラと輝いてくれる。


「よし、試合開始だな!」


 意気込みを入れ、刀をエビ型魔族に向けて臨戦態勢へ。


「お……おめ…と…」


 ん? 何か喋ってる?


「おめでっっっとぉおぉぉぉ!今夜はぁぁカニィ鍋ねぇぇ!!」


 そう叫びながら、魔族は巨大なハサミを振り上げながら走ってきた。俺は慌てて刀で受ける。いやー、キモッ!てか、重っ!コイツのハサミ、マジで硬いな……。頑張って刀で弾いたけど、これにすら一苦労だ。


「おめッでと……今夜……おめ…カにナべ……」


 自分の攻撃を弾かれた後も、ブツブツと虚ろにしゃべる魔族。おぞましい。けど、


「おめでとうおめでとうって……。祝われるのはまだ先なんだわ!」俺は飛び上がり、差し込むようにエビの頭の付け根に刀を突き立てた。


「うぎっィ」


 これまた変なうめき声をあげて、エビはジタバタとハサミを振り回す。俺は突き立てた刀を握ったままの状態でエビの後ろ側に回り込む。おかげで、何とかハサミの攻撃は当たらないで済みそう。コイツの攻撃、当たったら普通にヤバそうだからな。てかホントに硬いな……。さっきからずっと力を押し込んでるのに、殻がギチギチと音を立てるだけで一向にこの魔族のくびには届かないんだけど。


「でもなぁ、」


 ……ふっ。ここまでは想定済み!


「こんな時のために考えてきたスペシャル技があんだよ!」


 俺の身体中から流れる魔力を……、押し込む!


「必殺!『スーパーアルティメットシャイニングビーム』!!」


「んぎいいィいいいいぁっ!」


 俺の体も握ってる刀も、一気に推進力を得て魔族の頭部を貫き砕いた。

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