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第17話 刀と魔力

 天海の目に広がった光景は、戦国や明治を舞台にした作品に出てきそうな武器、武器、武器。ひと昔前の銃や短剣、刀、さらには見たこともないような作りの装備まで。そう、この倉庫は武器庫だったのである。


「スゲェじゃん!なんで今までこんなところがあるって教えてくれなかったんだよ!てかコレ全部先生の!?」


 興奮が止まらない天海は、次々と皇城に早口で質問を投げかける。


「まぁ、そうだな。この中から悠斗が使う武器を決めるぞ……って」


 皇城が説明を終えるよりもずっと前に、天海は武器の山に駆け出していた。勿論、山と言っても無造作に積み上げられているわけではなく、壁にある突起のようなところにそれぞれの武器がかけられているのだが。


 まず天海が目に付けたは銃火器である。本来、天海は(漫画の描写的な観点から)飛び道具がそこまで好きではないのだが、自分を殺そうとしてくる魔族てきと戦い、自分の身を守る武器となれば話は別である。相手とある程度の距離を取りながら強力な弾丸を打ち込める銃は、さぞ魅力的である。いくら格好いいモノに目がない彼でも、さすがにそういった分別はついていた。


「さぁ~って、何が良いかな~っと……」


 そう呟きながら天海が手に取ったのは、見た目にも古めかしく、重厚感のある銃だった。それは、明治時代末期に使われていたと思われるリボルバー式の拳銃で、銀色のボディに細かい彫刻が施されている美しい一品。彼はこの銃を手に取り、重りを感じながらも、目を輝かせる。


「へぇ、カッケェじゃん。これ、ホントに使えんの?」天海は半信半疑ながらも皇城に問いかける。それに対し皇城は、


「あぁ、もちろん使えるんだが……、ここにあるすべての武器には魔力が宿っていない。元から魔力やスキルの付与された装備アイテムを使うと、本人の魔力操作が疎かになるからな。でも、飛び道具は魔力を込めるのが難しいから初心者向けじゃないな。俺はオススメしない。あと、普通にそれ古すぎ」


「ちぇ~、じゃあ弓矢とかもダメかぁ」


 反対する皇城に対し天海は頬を膨らませながら、銀色の銃を渋々と元あった場所に戻した。その後、ナイフ・短剣・斧・十文字ヤリ・両刃の剣などなど……。様々な武具を試すが、両者の意見が合致するモノには出会えなかった。


「じゃあやっぱり……」と皇城が呟くと、


「「“アレ”だな」」


二人は口を揃えた。薄暗く埃っぽい武器庫の中で足並み揃えて向かった先にあるのは、刀であった。薄暗い倉庫の中、軽く埃を被った棚の上に鞘に収められた刀が静かに横たえられている。この刀は、特に長い年月を経ているわけでもなく、また、目立つ特徴があるわけでもない。


 しかし、その質感と形状からは職人の手による丁寧な作業が感じ取れる。鞘は質素ながらも滑らかな仕上がりで、手に取るとその重みが心地よい。淡い木目が照明に反射して微かに輝き、使い手の手に馴染むように設計されていることが伺える。そもそも、“刀”という時点でこれといった特徴があろうがなかろうが天海は大歓迎なのである。格好いいモノが好きなだけであって、別に刀に詳しいとかそういうわけでもない。格好良ければなんでも良い、典型的なキッズなのである。


「モノホンは初めて見たなぁ……カッコよ」


 そう言いながら、天海は鞘から刀を引き抜いた。僅かに差し込む天井からの陽光を反射するその銀色の刃は、鋭く鈍い光を放つようにも見える。刀身は完璧に磨かれており、光にかざすと、細やかな研磨の跡が見え隠れする。その輝きは、匠の技術と、刀を作り上げた際の細心の注意をそのまま表現しているようにすら感じる。もう天海キッズは興奮で声も出なかった。


 しばらくの時間が経過したあと、刀を眺めながら皇城に話しかけた。


「……コレにするわ」


     ◇ ◇ ◇


 そんなこんなで、放課後に行うのは刀の素振りである。


「刀は折れやすいからな」と皇城は諭す。


「縦からの力には強いが横から叩けばすぐに割れる。それくらい繊細なものだ。刀には力をまっすぐ乗せること。刃の向きと力を込める向きは全く同じじゃなきゃダメだ」


「おっけ」


 軽い返事で素振りを始めるも、これが本当に難しい。毎日腕がもげそうになるまで素振りをしても満足のいく出来にはならない。


 苦難の道。絶対に今まで通りの生活をしていたほうが楽だと断言できる道。ただ不思議と、この道を選んだことに対して彼は寸分の後悔もしていなかった。


「スポーツすると気分爽やか!的なアレかな」


 また、彼には基礎体力の向上や刀の扱いとは別に、もう一つ向上させなければならない重要なものがあった。それは、魔族と戦ううえで最重要とも言える代物――魔力である。これが無くては身体強化も魔族の討伐もできたものではない。


 ただ天海は他とは違って“スキルなし”。普通の青嶺しょうれい学園志望者ならばスキルの扱いを覚えなければならない分の時間リソースを、体術・剣術・魔力操作に充てることができるため、最低限の時間は確保できていた。まぁ、そもそも本来ならばもっと前々から鍛練を積み重ねておくべきなのだから、彼は他者よりも残された時間は圧倒的に少ないが。


「っても、魔力を体に流すなんてどうやって――」


「ナイトに魔力を流せ」皇城は即答する。


「悠斗に懐いてるから錯覚しがちだが、使い魔とは言え魔族。魔力がエネルギー源だし、ナイトの体には常時魔力が流れてる。まずはナイトに触れることでそれを知覚して、“流れ”を掴むことだな」


(あぁ、あのオーラみたいなやつね)


 自治会館での炎を操る女性やナイトとの遭遇、白根山でのトカゲ型魔族との戦闘で、天海の身体は魔力やスキルに当てられ続け、魔力を“ふよふよしたオーラのようなモノ”として視認できるようにまでなっていたのである。まずはそれをより鮮明に認識し、ナイトに触れることで“魔力が流れる”という感覚を掴む。そしてそれができるようになれば、今度は自分の魔力それを自分の肉体に流し、ナイトに流し、刀に流し。経験則から行うことのできないこの初めての作業は、本当に困難と苛烈を極めた。


 ここから半年経てば、さらに苛烈な入学試験が待っているのである。

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