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第16話 地獄の鍛練

 天海は惰性で戦いの道を歩んでいくことを決めてしまったわけだが、これは即ち青嶺しょうれい学園高校への進学を本格的に検討することに他ならない。


 青嶺学園は、東京都の郊外――そこからさらに秘匿された未知の領域、“結界”の内側に存在する高等学校だ。結界を通過して校内に入ることのできる者は、学生・教師・およびその他の関係者のみ。「強く聡い生徒を育成すること」を教育理念に掲げ、基礎的な魔力操作やスキル行使の授業、課外授業として実戦経験を積ませるなど様々な教育スタイルで魔物の討伐に特化した戦闘員――「討伐者スレイヤー」を養成する。他にも魔族出現時における戦闘員の斡旋、日本国内で起きた不可解な事件の調査など、この界隈の要となる存在だ。


 魔族との戦闘を想定した授業や、実戦があるとなると、入学試験も当然それに沿った内容になる。入学試験は「魔族との戦闘」だ。これの結果により青嶺学園への合否が決まり、倒した魔族の数や活躍に応じてS~Dのランクが割り当てられる。一応、魔族との戦闘には勝てなくとも、スキルの所持など最低限の素質が認められれば入学自体は可能なシステムとなっている。


 しかし、より高い結果を残して高いランクを割り当てられたほうが良いのは違いない。となると、青嶺学園の入試まで半年を切った今の天海に求められているのは、より強くなることである。ナイトという使い魔がいるとは言え、スキルを所持していない彼は他の志願者と比べ不利要因ディスアドバンテージが目立つ。そんな彼が手っ取り早く強くなる方法は――


「「フィジカルだな」」


 天海と皇城の両者は声を揃える。皇城曰く、魔族との戦闘で最終的に勝敗を決めるのは肉体の強度であることも多いらしい。


「今の悠斗に必要なのは基礎的な魔力操作とフィジカル。魔力はエネルギーだから、魔力を体に纏わせればフィジカルも強化される。栃木の白根山で魔族と戦ったときの悠斗は……、ハッキリ言って雑魚、いや雑魚ナメクジブロッコリー。体育の通知表が5だっただけあって運動神経は高かったけど、ほぼそれ頼み。筋肉なんてあったもんじゃなかったから、徹底的にシゴくぞ」


「えぇ……」


 “雑魚ナメクジブロッコリー”とかいう謎すぎるセンスの悪口に加え、面倒の一言に尽きるトレーニング。天海は思わず、困惑の混じったため息をこぼしてしまうのであった。


 翌日から地獄の筋トレ生活が始まった。まずは体力づくり。天海はいつもより一時間早い6時に起床し、走り込みをすることに。眠気で垂れ下がる眼をこすりながらジャージに着替えるのだが、そんな眠気もいざ走ると吹っ飛ぶことになる。中学校の授業で行われた長距離走のときは上の下くらいの成績を維持していた天海だが、皇城コーチが指導するランニングはその比ではなかった。皇城家の近くにあるグラウンドは一周200メートルのトラックになるよう白線が引かれているが、それを20周……つまり4000メートルである。地方トップクラスの強豪校とか全国大会出場とか、ガチガチの運動部ならそんなことくらい普通にやっているところもあるかもしれないが、あいにく天海は部活動に加入していないのである。それが祟って持久力を鍛える機会がなかったため、持ち前の運動神経に頼りっきりになってしまっていた。ゆえに、このトレーニングは彼にとってかなり堪える。加えて天海にはもう一つ。


(まぁ、別にツラいのはまだ良いとしてさぁ……)


 天海は息切れして歪む顔を横に向け、キッと睨みつける。その先にいるのは――


「頑張れ~~、あと7周」


「こんにゃろおおおおおおおお!先生ェも、ちったぁ走れェ!」


 皇城であった。体力づくりをしなければならないのは天海だけなので、鍛える必要性のない皇城が走らないというのは別に間違ったことではないのだが……。ヒョロヒョロの自分が全身から悲鳴を上げながら走っている横目で、オッサンが最低限の声援を送るだけという状況が少しムカつくのは仕方のないことかもしれない。


 そんなこんなで持久走ランニングは終わるが……これで終わりなわけではない。まだまだ鍛えるべきことは多いというのも勿論そうだが、それ以前に天海かれは中学生である。持久走が終わるのが大体7時、その後はいつも通り朝食を済ませて支度をし、学校に向かい、勉強したり友達とダベったりする。


 ここでも重労働トレーニングの弊害が出る。1時間早く起床し、さらにはその時間をハードな運動に充てているせいで、特に授業中などは彼の瞼はとんでもなく重くなっているのだ。そんな睡魔に襲われた状況で先生に「ハイ、天海!ここの答えは?」などと当てられたら詰みである。少しの間しどろもどろした後に出てくる言葉は「わかんないッス」。周りの生徒からは笑われ、先生には呆れられる始末。


 学校から帰ればまた鍛練トレーニング。ただ、これは朝の持久走や昼間の睡魔と比較するとそこまで苦ではなかった。その理由は彼の厨二心にあった。


     ◇ ◇ ◇


鍛練1日目 某所


 少し遡って、鍛錬を始めた日の放課後。天海は皇城の運転する車の助手席に揺られ、どこかもわからないようなド田舎に連れてこられていた。ナイトは留守番である。皇城曰く2~3時間で帰ることができるらしく、魔族ということもあり置いてきてしまったが、人間であれば乳児くらいの歳であろう彼のことを思うと少し申し訳ないな、と天海は思う。


「着いたぞ」


「えっ、ココ?」


 皇城が車を停めた場所は、駐車場でも誰かの庭のような場所でもない、全く開けていない田舎道だった。天海のツッコミにも似た疑問も束の間。皇城が車から降りてしまったので、仕方なく天海も車から降り、彼に続いて歩き始めた。


「なぁ、何ココ? てか、どこに行こうとしてんの?」田舎にありがちな林道を歩きながら、皇城に疑問を投げかける天海。それに対し皇城は、


悠斗オマエの好きそうな場所」少し口角を上げながら、天海のほうは向かずに答えた。


 しばらく歩くと、到着したのは倉庫。


「古い家とかにありそうだなぁ」


 天海が呟く通り、瓦の屋根や石の壁など、偏見で言ってしまえば――そう、江戸時代に米俵こめだわらなどが敷き詰められていそうな倉庫が2人の前には鎮座していた。倉庫の周りには生い茂る草木は、ところどころ倉庫に到達し、一部を覆い隠していた。屋根や壁にはシミができていたりコケが生えていたりと、古風かつ威厳は出ているもののお世辞にも「綺麗」「整っている」とは言えないものであった。そんな倉庫に歩み寄った皇城はズボンのポケットから大きな鍵を取り出し、ガチャガチャと音を立てて扉を開錠する。


「開けていいぞ」と皇城は天海に言う。


(大丈夫かなぁ……)


 そう思いながら倉庫の扉に手を掛ける。長らく使われていなかったためか、元々思い扉はさらに固くなっていたので、天海は両手でグッと力を入れ、目を強く瞑って扉を押した。


 ギィィ……


 重厚な音を立てて扉が開いたことを感じた天海は、そっと目を開けた。埃っぽい空気を気にする間もなく、目を見開く。「ほぇ」と思わず変な声が出てしまったが、その直後には驚愕のこもった声で再び叫ぶ。


「うおおおおおおおおお!スゲェ!」


 そこには目を見張る光景が広がっていた。

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