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第15話 慧可④

「うわぁ痛ェ……。ベリベリハードすぎるぅ……」


 天海とナイトがトカゲ型の魔族を討伐した翌日。天海は全身を襲う痛みと眠気に悶えていた。昨夜は初めての戦闘で多くの怪我と未だかつてない筋肉痛をその身に刻まれたうえ、家に着いたときにはすでに24時を回っていた。


 そこからヘトヘトの状態で怪我の応急処置をしたりシャワーを浴びたりして、すぐにベッドに倒れ込み泥のように眠った。就寝時間は深夜の2時くらいである。普段は夜更かしもそこまでせず、どんなに遅くとも24時前までには床に就く天海にとって、疲労と睡眠不足のコンボは壮絶なものであった。


「眠すぎるのに痛くて眠れない……。でも起きないとぉ……」


 今は朝10時。今日は日曜日なので、昼間で寝ていても問題はないのだが、変なところは律儀である。ギシギシと軋む足運びで寝室からリビングルームへ向かい、とりあえず朝食を食べることにする。とは言え今朝は食欲がそこまでないので、食パンを1枚齧る程度だが。そこで天海はあることに気付いた。


(あぁ……何しても痛いな……)


 オーブントースターの扉を開けたり、焼けたパンにジャムを塗ったり、パンを口元に運んだり。朝食ひとつを取っても様々な場面で痛みを伴うことに気付いた天海は、普段の自分が何気なくこなす数多の動作に人知れず感謝するのであった。


「やっと起きたんか」


 皇城がリビングルームに顔を出し、天海に話しかける。


「おはよう……マジで全身痛いな」


「あの程度で音を上げるなよ。C~Dランク程度の雑魚だぞ」


「辛辣だなぁ。てか、CとかDとか何? ランクって?」


 痛みを訴えるも一蹴されたことに不満を覚えつつも、たびたび皇城が口にする魔族の“ランク”について質問を投げかける。すると皇城はニヤリを笑った。


「いい質問ですねぇ。ということで猿でもわかるように教えてやる。魔族、人間、装備アイテム。このすべてに、D~Sの等級ランクがあるんだよ。順に説明するぞ。


Dランク。雑魚の極み。恐らく今の悠斗よりも弱い。

Cランク。金属バット持ったヤンキーがリンチすればまぁ安心。

Bランク。結構厄介だが、拳銃があれば無問題モーマンタイ

Aランク。アサルトライフルか機関銃あたりでギリ。

Sランク。戦車5台でトントン。


ざっとまぁこんなところだな。Bランク以上の魔族にはスキルを持つものも多い。中にはSSランクなんてのもいるが、それは滅多にいないし遭遇したらまず助からないから諦めような。あ、今の指標は通常兵器が有効だと仮定した場合の話で、魔族は一般人には見えないし、魔力のこもった攻撃じゃないと倒せないぞ」


「うえぇ……マジか……」


 天海は皇城の説明を聞きながら、戦いの世界の厳しさを改めて実感していた。彼が戦った魔族がD~Cランクと聞いて、自分の未熟さとこれから直面するであろう挑戦の大きさに圧倒された感覚になる。


「てかさ、そもそも魔族って何? 今までニュースとかでも見たことないし、戦っても何なのかよくわかんないんだけど」


 天海の質問に対し、やっぱ気になるよなぁ、とため息をついて再度解説を始める皇城。


「この前、魔力は個体の感情から捻出されるエネルギーだって言ったよな。人々から捻出された感情、例えば喜び、怒り、悲しみ、恐怖……。その魔力が集積して人に危害を加えるようになったのが、魔族だ。まぁ厳密にはちょっと違うけどな。魔力が体を構成する重要な因子だから、力の源である核を破壊されれば死ぬ。当然、魔力を使った攻撃しかしてこないから、Dランクの雑魚魔族でも大人一人殺せるくらいの力を持つことだってある。


 次に魔族の情報がメディアをはじめとしたニュースで見ない理由だけど、昨夜の魔族は何もないところから急に出てきただろ? あんな感じで、魔族が地上に出てくることは滅多にないからだな。加えて、死んだら直後にチリとなって消えるから死体が発見されない」


「ほえー、大体わかったわ」


 痛む肩をグルグルと回しながら応答する。


「……ということで」


 皇城は再びニヤリと不敵な笑みを浮かべて言った。


「今の悠斗は超~貧弱だから、徹底的に鍛えるぞ。まずは基礎的な魔力操作を覚えてもらう。そうすりゃおのずとBランク魔族くらいは倒せるようになってくるぞ」


 皇城のトレーニング宣言に対し、天海の心中は複雑だった。彼の内心にわずかに残る冒険への期待はほんの一握りで、圧倒的に多いのは「ええ…」といった感じの重いため息と、これからの苦難への憂鬱感だ。自分が戦った魔族がD~Cランクであることを知り、その未熟さと、これからの厳しい訓練、そして未知なる敵との戦いに対する不安が大きくのしかかる。


「基礎的な魔力操作、ねェ……」


 天海はぼんやりと思う。その表情には、これからの訓練に対する躊躇いと、わずかながらの決意が交錯していた。内心では、今の自分にそんな能力が身につくのか、本当にBランクの魔物に立ち向かえるようになるのか、という疑問が渦巻いている。


 しかし、天海は深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。この道を選んだ以上、前に進むしかない。皇城からの指導のもと、一歩ずつ確実に力をつけていくことを心に決めた。その表情はまだ不安を隠しきれていないが、少しずつ成長していく自分を想像しようと努力している。


「……分かった。やってみるよ」


 天海は静かに言い、これから始まる厳しい道のりに踏み出す決意を固めた。その目には、不安と期待が入り混じりながらも、新たな自分への一歩を踏み出す勇気が宿っていた。

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