第10話 戦いの道
「うるさい」
皇城がやれやれ、と言った様子で天海を諭す。天海は自分でも尋常ではないほどにテンションが上がっているのを自覚しているらしい。蹴り飛ばした椅子を元の場所に戻し座り直してなお、今にも立ち上がってしまいそうな勢いだ。
「お、お、お、餅つけ」
「落ち着け」
茶番を繰り広げ終えても、依然として天海は興奮状態である。
「スキル使えないのに魔力は使えるなんてことあんのか」
「ある。まぁ普通は無いけど」
興奮と疑問が入り交じる表情の天海を前に、皇城は説明を始める。
「そもそも魔力というのはどんなエネルギーかというとだね」
長ったらしく皇城の話を聞いた結果、天海は魔力について一通りの知識を得ることができた。魔力というのは一個体が感情を変換して生まれるエネルギーであること。感情を材料にするゆえに、高度な知能を持つ人類と魔族しかできないということ。スキルの行使には、魔力の消費が必須であることなどなど。理科がてんでダメな天海にとって、エネルギーに関する話はそれなりに難しいものがあったらしく、延々と話を聞かされるうちに先ほどまでの興奮は薄れかけている。
「……とまぁ、大体こんな感じ。で、卵ナイトとあの女の魔力に当てられて、今まで一般人だった悠斗もスキルと魔力が発現したってわけだ。スキルを持つ人間は限られてるから、悠斗には才能はあったけどそれを開花させる機会が今まで無かったってこと」
「ほーん」
「悠斗はその後すぐにナイトにスキルを盗られた。ただ魔力まで盗られたわけじゃねぇから、魔力は使えるけどスキルは使えない人間になった。こんなの前代未聞だな」
「なんか難しい話ね」
正直なところ、天海は話を理解しつつも、それが自分のことであるという実感は一切湧いていない。そんな天海の様子を見て、皇城は当然だ、と思う。しかし、天海にはできれば戦いの世界へ身を投じる……とまでは言わなくとも、せめて自分の身を守れる程度には強くなってほしい、というのが皇城の意見だ。先日の火事で、スキル使いである女性に天海は襲われている。
(加えてあのこともある……。悠斗には身を守れるだけの力を付けてもらわないと)
「要は、悠斗は最低限に戦えるだけの潜在能力は持ってるんだ。そういう人達が集う高校で、鍛えるべきだと思う」
「でもさぁ、俺の身体には何もねーぞ?」
「それは訓練を何もしてないからだ。まぁ実際スキルを持たないとなると他の人間には劣るかもしれないからな……。刀か何か使うか」
「ちょっかっ刀ァ!?」
再び天海は立ち上がり、椅子を蹴り飛ばしそうになって――皇城が制止した。慌てて天海は座り直す。
「お、お、お、餅つけ」
「一生餅ついとけ」
異能力や不思議な力といった言葉に反応する、The 男子な趣味をしている天海。同様にアニメや漫画、ゲームなどに出てきがちな刀な剣といった武器にも激しい興奮を見せた。
「行く行く!超行く!」
「……決まりだな」
かくして、少年……天海悠斗は、戦いの道を歩んで行くことになるのであった。“かっこいいから”という、まるで小学生のような理由で。