異世界生活3ヶ月
今日ものんびり採取活動。
マグレイブの街に来て約3ヶ月。ぼっち冒険者として今日も真面目に頑張ってます。
ぼっち冒険者と言うけれど、私の目の前では小さな体で一生懸命薬草を運んできてくれる精霊達がいる。
私の目にはあちこちに精霊は存在しているんだけど、他の人には見えていないらしい。こんなにいろんなところをフヨフヨ浮いてるのに変な感じ。これが精霊の愛し子?の力?なのかな。でも、だからどうしたって感じだ。街を歩けばあちらこちらにいる精霊が嬉しそうに私についてくるし、街は厳つい人達が多いが、冒険とグルメの街として賑わっている。
今も青々とした草木が生い茂る森の中、やっぱりこの世界が異世界から『精霊の愛し子』を召喚しないといけない危機的状況だなんてちっとも理解出来ない。
おっと、物思いに耽っている時間は私にはない。最近やっと屋根のある部屋で寝れるようになったが、次は衣類を買わなくてはいけない。この世界にも四季があるらしく、冬が来たら今の服装では凍死する。金、とにかく金がいる。
この街は冒険者が多いせいか、みんなとにかくガタイがいい。155センチの、日本人では普通の体格の私には服が大きい。古着の子供服を1着買い、元々の服と交互に着ている。次は防具と護身用の武器も買わなきゃ。
元の世界の服は大事にしよう。そう思った時期もあったが、帰ろうにも方法はわからないし、生きるのに精一杯で『物を大事に』なんて考えはすぐに捨てた。着潰している。
服を大事にしている余裕はない。今、必要なものがたくさんある。だからとにかく、お金がいる。
この世界には魔物がいて、冒険者の仕事は主に魔物討伐と素材採取。魔物討伐は怖いし、字が読めない私は冒険者ギルドの依頼ボードに貼られた依頼内容がわからない。だから受付のメイサさんに「これを取ってきなさい」と見せられた薬草をひたすら集めている。
メイサさんにはお世話になったなぁ。いま、薬草を取るために使っている小さなナイフも「私が事務作業に使ってたものだけどあげる」とくれたし、薬草図鑑も見せてくれて、この辺で取れる薬草・取り方も教えてくれた。
めっちゃクールビューティーだけど優しい面倒見の良いお姉さん。メイサさんいなかったら、私は無職だったな。
採取作業は精霊の力があればレアな薬草だったり鉱石だったりが手に入る。まあ、精霊達の体が小さいから、集まる量も少ないが。それをメイサさんのところに持って行き、買取してもらう。そうしてコツコツお金を貯め、今やっとホームレスからボロ宿住民へとランクアップした。
それにしても精霊の力は素晴らしい。今日の食料だって精霊が森から探し出してくれている。助かるなぁ。ただ、この間のカエルはどうかと思うよ。精霊が追い込んで私の元へと連れてきたカエル。でっかいカエル。私の握り拳より大きなカエル。精霊達のジェスチャーで食料にしろと言ってるんだとわかったけど、あれは泣いた。カエル苦手なのに空腹には勝てず、泣きながら捌いて、泣きながら焼いて、泣きながら食べた。ササミみたいで美味しかった。
日本では共稼ぎの親のために台所へ立つことも多かった。普通は母親から学ぶべき家事スキルについては、共稼ぎで留守がちな親よりも5つ上の兄に鍛えられたが。
そこで培った家事という、スキルもあり、自分の事は自分でできるようにしているため、自炊はできる。台所と材料さえあれば。目指せ台所付きマイホーム!焼いただけカエル生活は卒業したい。
気晴らしに市場を除くとマグレイブは調味料が豊富で日本のものと大差ないものが多い。
肉、魚、野菜、どれもこの地で販売されているし、一人で暮らしても問題なく自炊は出来るだろう。金さえあれば。
このマグレイブには色んな所に精霊が居て、私が通りがかる度にキスをしてくる。頬だったり額だったり。最初、親愛の印かなと思っていたけど、ある日手を切った時に冗談で「精霊さん、痛いの痛いの飛んでけーってして」ってお願いしたらチュッてキスしてくれて治った。傷跡もなく治った。精霊って回復魔法も使えるんだって事に気づいた。もしかしてキスって回復してくれてたのかな?
街のいたるところに精霊が居るから、この街は精霊に愛されているんだろうな。精霊が私をこの街に連れてきたのも納得できた。精霊に愛されてる街か。精霊には助けられているから感謝はしているけど、親の支えもなく、コンビニも電化製品もない生活は辛い。日本の生活がどれだけ豊かだったかと思い知らされた。
ちょっとしんみりして、小さく一つ溜息を零した。
ーーー 同時刻、マグレイブの門前にて。
「精霊がたくさんいる……」