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【間話】滲む苦悩〜ロワクレス視点〜





「……眠ったのか?」


「はい。手足のマッサージをしている最中に」


 サマンサは今回同行した影の1人。私が風呂に入っている間、マリーへの対応を頼んでいたのだ。


 普通なら、王族である私の接待を受けると遠慮しながらも満更でもない態度を取る女性が多いがマリーはどうやら違うようだ。

 王族…というよりも異性という事に反応しているようだからサマンサに頼んだが、正解だったようだな。


 それにしても無防備な寝顔だ。色気は感じないが可愛いとは思う。妹がいたらこんな感じなのだろうか。まだあどけなさの残るその顔に、この子に一人で野宿させていたのかと考え罪悪感が湧く。


 それにしても、


『相手が王子だろうと貴族だろうと民間人だろうと、私にとっては同じ命だ』


『全ての人間にとって自分が特別などと、自惚れた考え方なら私は理解できない』


 マリーの一言一言が、私の心に良い意味で引っかかる。異世界人だからこその発想。王族を敬うこの世界の人間にはない発想だ。



 感じるのは期待か天啓か。



「この子が愛し子で良かった」


 私の胸を希望で疼かせてくれるこの子が、堂々と王城で『精霊の愛し子』と名乗れる日が来るのを望まずにはいられない。



「ふふっ」


「どうした?サマンサ?」


「いえ、ロワクレス様が楽しそうで良かったなと」


 サマンサは母の警護をしており、私が小さい頃から側にいた。私が家族以外で気を許せる数少ない女性の一人だ。


「ロワクレス様、気づいてますか?自分からマリー様に触れている事に」


「それは…世話をしないといけないからな」


「何を言ってるんですかロワクレス様。もう分かってらっしゃるんでしょう。現実逃避も大概になさい」


 小さい頃から見守られていたからか、母のようなサマンサにいつも頭が上がらない。


 いいですか、といつの間にかサマンサがお説教モードに切り替わっている。


「ロワクレス様。ロワクレス様がご自分から女性の手を握ったのは、お母上以外にいらっしゃいますか?」


 首を傾げながらも考える。そもそも、私は王族だ。安易に手を握るなど………したな。マリーに。


「過去の事件がきっかけで女性だけでなく男性も……他人に触れることは避けておられましたよねぇ」


 サマンサ言葉に、思わず顔を顰める。確かに昔はそんなこともあったが。


「手を触れるどころか、他人との最短距離はいいとこ1メートル」


 ふぅ…とサマンサが顳顬に手を当て、わざとらしく顔を振った。


 いやいや、何度も誘拐されかけたら、他人と距離をはかるようになるだろう。反撃可能な距離はやはり欲しい。


「そもそも、そうしろと教えたのはお前たちだろう?」


そう言い返せば「まさか成人するまでとはねぇ」とサマンサが溜息混じりに呟いた。


「マリーは愛し子だ。城へ連れ帰るために仕方なく…」


「仕方ないと言うわりにガッツリ口説いてますよね。マリー様は拒絶されているにもかかわらず、食事も食べさせてあげて」


 ぐぅ。

 口説いている意識などなかった。本当だ。ただ可愛くて可愛くて…してやれる事は何でもしてやろうと思っただけだ。


 マリーが私の前で気を許す姿が嬉しかった。

 なかなか甘えてくれないマリーから甘えられると、もっと甘やかしたくなった。


「……マリーは私達の我儘で強制的にこの世界に連れてこられ、私によって城からも追い出してしまった。苦労させた分、甘やかしてやりたいと思ったんだ」


「ロワクレス様は幼い頃から他人と線を引いていらっしゃいました。年齢に見合わぬ才気とは裏腹に、控えめと言うにはあまりにも頑なに目立つことを避けておられました。他人に踏み込まない、踏み込ませないロワクレス様の態度に、今までどれほどのご令嬢方が涙を飲んだことか」


 いや、そんなこと言われても…


「ロワクレス様は何でも卒なくこなしますけど、愛情方面の情緒だけはご家族様も心配していましたよ。家族に対しても表情が変わらず寂しいと」


 我ながらひどい言われようだ。うまくやってきたはずが、他者からはそんな風に見えていたのか。


「頭脳明晰、容姿端麗、勇猛無比と評判高いロワクレス様なら、どんなご令嬢でも選び放題でしょうに……マリー様以外なら」


 マリー相手に空回っているのは理解している。思わず口元を抑え小声でそう告げれば、サマンサが至極真面目な顔で私を見下ろしてきた。


「全力で手に入れなさいませ。我ら影も総力をもって支援するよう手配いたします。今のロワクレス様、とても良い表情していますよ」


 サマンサがニヤリと笑って言葉を続けた。


「いざとなれば幾らでも手はあります。財力でも権力でも…」


 なぜ嬉しそうに好戦的な目で笑ってるんだサマンサ。


 私自身だって戸惑っているんだ。マリーは手を繋いだ時も嫌がっていたし、色々無理矢理…私に嫌悪感が……。


「あのですねロワクレス様。嫌悪感があったら手を繋いだ段階で蹴飛ばされてますよ」


 私ならそうしますね、とサマンサが肩をすくめる。

 声に出してしまっていたのか。蹴飛ばすなんてサマンサくらいなのでは……。


「とにかく、ロワクレス様は今のままお過ごしくださいませ。サポートはいたしますわ」


 うちの影は有能だな!まったく……。










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