高貴なる決意の暴挙
冒険者ギルドに行き、依頼ボードには目もくれず、いつも通り受付カウンターで片手を挙げて挨拶してくるメイサさんの元へと向かう。
「おはよう、今日は遅かったのね。厩舎の清掃依頼があるけど行く?糞尿の匂いがキツイかもしれないけどね」
「厩舎かぁ………でも、我儘言ってる状況じゃないし…やります」
「そう。じゃ、カード」
ギルドカードを受付で出した所にもう一つのカードが差し出された。
私の番なのに、なんて無頼な輩だとカードを見て驚いた。
ギルドカードはランクごとに色が違う。私が最低ランクFの白色のカードに対して最高ランクSの真っ黒のカードが今、私の隣に差し出されている。
ぎょっとして、差し出された腕を辿り、視線を上に上げると見知った美麗な顔があった。
「げ…王子…」
「私と一緒ならもっと上の依頼受付が可能だが、その依頼でいいのか?そもそも依頼ボードも見なかったようだが、討伐でもなんでも好きなものを選んで良いぞ。まぁ当然、厩舎の清掃活動でも良いが」
「は?」
いやいや、王族でSランク冒険者に清掃活動はさせられないんじゃね?唖然としている私を他所にロワクレスは受付に清掃とはどのようにすれば良いのかと尋ねている。いつも卒のない態度のメイサの顔が真っ青になり、首を横に振りながらこっちを見ている。やっぱりこれはダメなんだと諦めの溜息が出る。
「メイサさん、やっぱり今日は依頼受けるのやめとくね」
受付カウンターに陣取っているロワクレスの腕を掴み、ギルドの外へと連れ出す。
「??? 依頼はいいのか?」
「いいから!早くこっち!」
ほっとした顔で小さく手を振るメイサを横目に「どうしてこうなる?!」と涙目になりながらもロワクレスの腕をがっしり掴み引っ張っりながらギルドを出る。
「依頼は良かったのか?」
「王子様に厩舎の清掃させれません。依頼者も卒倒しちゃいますよ!」
今日何度目かの溜息を吐きながら、腕を掴んでいた手を離す。
「王子様じゃなく、ロワクレスと呼んでくれ」
「長いし不敬になりそうだからダメです」
「私が許してるのだから、不敬にはならない。長いのなら、ロワとでも呼んでくれ」
「嫌です」
「呼んでくれ」
「嫌です」
「じゃ、呼んでくれるまで手を繋いでいようか。マリーはすぐどこかに行こうとするし」
「は?いやいや、それは……」
「薬草採取に行くのか?なら森へ行くか」
ちょっと待って。そういくら止めてもロワクレスは聞く耳を持たず、そのまま街の外まで出てしまった。くっ、どうしてギルドの建物は外門近くに建っているんだ。
最初は私がギルドから連れ出すために拘束・連行していたつもりだが、いつの間にか手を繋ぎいつもの採取場所へと連行されて行く。
私は今、どんな顔をしているんだろう。
なんであなたは、いつもの無表情ながらも笑っているように見えるのだろう。
ーーー くそっ!むかつく!
「そういえば、依頼ボードも見なかったが良かったのか?
はぁ…。思わず溜息を吐き、森へと歩を進めながらも答えた。
「こっちの世界の字が読めないんです。だから、受付のメイサさんオススメの依頼しか……」
突然、ロワクレスが立ち止まるから腕が突っ張ってガクンとなる。
「???」
「………元の世界では読み書きできたのか?」
……これは、馬鹿にしているわけではなく、本当の疑問だな。
「義務教育と言って国民全員が15歳まで学校という学び場に行っていました。その後3年間ほとんどの人が引き続き学校で学びます。つまり、国民のほとんどが18歳までは仕事せずに勉強をします。18歳以降は再び学校で学ぶ人、就職する人半々くらいでしょうか。だから、読み書きなんてみんな出来ますよ」
「そうか。そんなに学びの時間が持てるとは、豊かな国だったのだろうな」
「そうですね。少なくともこの世界のような命の危機はなかったです。武器も持った事ないですし」
さぁ、進もうと手を軽く引っ張ったつもりが、逆に手を引っ張っられた。
「だからこんなに細い指なのだな」
キスする?!キスをしそうなくらい自分の口元へと私の手を持ち上げたロワクレス。
少し憂いを帯びた端正な顔にドギマギする。
「は、早く行きますよ!」
早く早くと手を引いて、森の中へと連れていくが、精霊に薬草を採ってきてもらう姿を見て、ロワクレスが若干引き気味だったのは笑えた。