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食事の時間〜ロワクレス視点〜




「マリーはどうすれば私と来てくれるか……。生活面は私が一生保証する。信じてくれ。王城についても私がマリーの世話をする。約束しよう。他もマリーの望む通りにしよう。希望はあるか?」


 城でもう一人の召喚者であるメアリーの世話もしてきた。だからマリーの世話も大丈夫……だというのに、なんだ?その疑いの眼差しは……。


「私の希望は……く~きゅるるる…」


 気の抜ける音がマリー腹から鳴り響く。

 真っ赤な顔をして咄嗟に腹を押さえているが、すでに俺の耳にはっきりと届いてしまった訴えは誤魔化せない。


「なんだ、腹が減っているのか?」


「大丈夫です!今から食事の予定だったので!」


「今から?しかし、この部屋には何もなかったぞ。荷物も持ってなさそうだし…」


 本当に何もない。着替えも何も。あるとしたら、今、マリー自身が肩から下げている草臥れたショルダーバッグくらいか。

 まぁ確かに、何も持たさず城を追い出してしまったが。


「食べ物は…」ボトボトッ


 部屋にある小さなテーブルの上に一握り分の果実。これはケチャの実か。栄養価が高く高級なものではあるが、もしかして精霊が用意した食事?この量が?


「……これが食事か?」


 俺の胸までもない小柄な体で、羞恥に顔を染め睨みつけてくる様は余計に哀れみを誘う。


「……王族の方にはわからないでしょうが、貧乏人には食べれるものがあるだけでもラッキーなんです。実際、これがなければ私は今頃餓死してますよ」


「……餓死」


「さぁ、私は今から食事です。早く出て行って下さい」


 背後で必死に何かしているが、私を追い出そうとしているのか?気軽に王族の体に触れる者などいないが、これが異世界人との常識の齟齬か。

 こんなにも感情を表し素直に接してくる者などいなかったな。なんだか不思議な気分だ。


「よし、まずは食事からか」


「へ?」


 椅子に座らせるために持ち上げるが……軽いな。


「少し待ってろよ」


 ポンポンと頭を撫でると、ポカンとした表情でこっちを見ている。口が閉じていないマヌケな表情に思わず口角があがる。


 ドアを開け、外で待機していた影に消化の良い物を頼む。


「そう警戒するな」


 振り返ると、我に返ったのか唇を尖らせ睨みつけてくる焦茶色の瞳。これは抱き上げて座らせたのがいけなかったのか、恥ずかしがっている顔だな。感情を素直に表してくれるから、わかりやすいな。

 さて、食事が来るまで時間を潰すか…。


「マリーは何歳だ?」


「…………15歳です」


 本当に15歳か…?この表情は嘘は言ってないな。そうか、異世界人は小柄なのか。


「15歳か。まだ若いマリーに大変な苦労をかけてしまった。あの時見抜けなかった己の不甲斐なさに怒りすら覚える。これからマリーの事を知っていきたい。気にかけたいし理解したいと思っている」


「………………は」


 胡乱げな表情でこちらを見てくる。本当に素直な性格なんだな。感情が全て顔に出るなど。貴族社会では生きていけないが、何を考えているかわからない貴族の表情より…無表情な私の表情より好ましくは思う。


「あなたの立場で気軽に言って良い言葉ではないでしょう。聞かなかった事にしとくので、どうぞ出て行ってください」


「……所詮王族が何を言っても信じられないか?」


「……そうですね」


 まぁ、確かにそうだろう。それだけの事をしたのは私だ。これから信頼回復をはかっていかなくてはいけないが。


「私はこれから、私の覚悟を見せていくつもりだ。マリーに手放させてしまったものを、かけた苦労を補うように」


 召喚によってこの子が手放したものはなんだったのだろうか。召喚され捨てられた絶望は。私は…私達は償わなくてはいけない。


「マリー、お前に私の全てを預けてもいい」


「…………はぁ?」


 信じてもらえないのは仕方ない。少し時間をかけて…。だが、念のため確認はしておかないとな。


「マリーはこの街に好いた男でもいるのか?」


「…………」


 おいおい、女が眉間に皺を寄せて睨みつけてくるの初めての経験だな。まぁ、そんな相手いないだろうと思いながらも聞いた私も悪いが。だが、少女とはいえ私が優しく接しても、こうも靡かない女も初めてだ。思わず本音が出る。


「普通、第3王子である私が迎えに来て王城へ招待されたら喜び勇んでついてくるだろう。お前と一緒に召喚された少女など、城で我儘し放題だぞ」


「え?精霊を目覚めさせてないのに?」


「あぁ。自分が愛し子で世界の救世主だと言い張ってな。日々王城で遊び暮らしている」


「うわぁ…」


 あの娘の高慢な態度にはイライラさせられたが。


「だからこそ、マリーの言動が不思議なんだ。広い部屋・高級寝具に綺麗なドレスも最高級の料理も提供する。それでは私と共に来る気にはならないか?マリーの好む物をこれからしっかり知っていこう」


 マリーからは「出て行け」としか言われていない。高級な宿・ドレス・侍従、何も望みを言わない。何故だ?


「私の世界には、『タダほど怖いものはない』って言葉があります。ここで私が我儘言って、それの見返りにとんでも無い事要求されたらイヤですからね」


 なるほど、面白い言葉だ。


 コンコン


 ユアと会話していると、ドアがノックされた。影が戻ってきたのだろう。扉を開けて身体を少し外に出すようしに、よく煮込まれたシチューと柔らかそうなパンが乗ったお盆を受け取る。


 「うわぁ……」と思わず漏れ出てしまった声とシチューに釘付けの表情に、餌付けは成功か?と考えたことは内緒にしよう。


 涎を垂らしそうなほどガン見していた顔が、一気に変わり私を睨みつけてきた。


 おや?と思っているうちに、静かにケチャの実に手を伸ばしはじめた。


「こら、それは後で食べろ。まずはこっちの料理だ」


 テーブルに盆を置き、ケチャの実を食べようとした手を押さえる。夜になると肌寒さを覚える季節だ。温かい料理は恋しかっただろう。まだ湯気が出ているシチューと私の顔を交互に見ている。


「まともな食事を取っていないみたいだからな。消化に良さそうな物を用意した。確認してなかったが、嫌いな物とかなかったか?」


「嫌いな物はないけど……」


 くきゅるるる


 表情もお腹も素直な娘だ。本音を隠して生きている王族・貴族ばかりを相手にしている俺にはやはり新鮮で思わず笑ってしまう。


「さぁ、食事をしよう」


 椅子がもうないため、ベッドに腰掛けスプーンを手に取る。シチューを掬いフーフーと冷ましてからユアの口元へと持っていく。


「は?!わ、私、一人で食べられます!」


「しかし、世話をする約束だ」


「世話の範疇を越えてます!」


「遠慮をするな」


「私は子供じゃないです!」


「??? 城にいるもう1人の召喚者はよく『食べさせて』と言ってくるぞ。しかも同じカトラリーで食べさせてもらうのが良いと。女はこんな風に世話をされると喜ぶのではないのか??」


「それはメアリーが特殊なだけです」


 いや、貴族令嬢は皆そんなかんじだぞ。どちらかというと、マリーが特殊だ。


「そうなのか?しかし、カトラリーを1組しか用意しなかったからな。今夜はこれで食事しよう」


 ほら。と再度持っていくと、空腹に耐えられなかったのか諦めたのか、遠慮気味に口を開けたので「良い子だ」と私が目の前に差し出したシチューにマリーが耐えられたのはほんの数秒。ぱくりと食いついたマリーはシチューを口に入れるや、その美味さに目を丸くした。


 カッと目を見開き、私を見てスプーンを見てシチューを見る。よほど美味しかったのか…まぁそうだろうな。調理された物など久しぶりに食べるのだろうからな。

 再びシチューを掬い口元へ持っていくと、目を潤ませながら大人しく口を開けシチューを頬張る。

 それを5回繰り返すとお腹も落ち着いたのか目をウロウロさせ、パンを見つけるとそれを手に取り自分で食べ始めた。


 これはあれだな。猫だな。そうだ猫だ。さっきまで威嚇していたのに、餌を見せた途端に警戒しながらも近づいてくるアレだ。

 柔らかく煮込まれた肉をスプーンに乗せ口元に持っていくと、肉と私を交互に見ながらも口を開けるので食べさせる。


「世話というのも以外と楽しいものだな。初めて知った」


 王城でメアリー相手にしていた事と似たようなものなのに、気分は違う。

 パンを咀嚼し終えたタイミングでシチューを流し込む。合間合間に自分の食事を済ませ、食事を終えた。


「さて、女性の風呂の世話とはどうすれば良い?」










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