表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/25

北へ旅立ち〜ロワクレス視点〜




 影と呼ばれる隠密の仕事を受け持つ者達がいる。その影の中に精霊視の力を持つ者がいたため、その者を中心にメンバーを集めて北へと向かう。


「騎士団長や侯爵達が言っていた通り、北へ向かって精霊が目覚めているな」


 北の方角に真っ直ぐ、愛し子が空を飛んで移動したかのように、精霊達が煌びやかな燐光の川を形作っている。

 それはまるで道のように私に行き先を示してくれる。


「私達は街道を進むしかないが、これなら迷わずにすみそうだ」




 いくつかの町や村を経由し、辿り着いたのは北端の街。資源豊富な森と精霊が目覚めた今、魔物と強い霊鬼が出現しているため冒険者の街と言われているマグレイブ。

 通り名のとおり、街の側には広大な森が広がっているが、その森は冒険者という勇ましい者達とは似つかわしくない静かな森だった。葉を揺らす風も可愛い鳥の鳴き声も、若葉の隙間を潜り抜け差し込む日差しも穏やかな森を形作っている。


 そして何よりも精霊達が森の中を楽しそうに漂っている。


「……………綺麗だ」


 精霊が眠りにつく前の世界の記憶はないが、こんな世界だったんだな。



 

 マグレイブの街は確かシートン伯爵が治める領地だ。

 そしてこの北の街を管理しているのは、シートン伯爵家次女エカテリーナ・シートン。

 その名前は嫌な記憶と共に脳裏に刻まれている。

 伯爵家の末娘で甘やかされて育った典型的な貴族の娘。

 手に入れたい物は何としてでも手に入れようとする貪欲さと執念深さは吐き気すら覚える。


 ーーー 夜会で纏わりつかれたのは嫌な思い出だな。


 だが、そこまで知能も才能もないため、この街でエカテリーナの力は弱く、冒険者ギルドが幅を利かせている。


(確か、いまだ婚約者もいなかったはず。余計なトラブルに巻き込まれないためにも、気づかれずにいた方が良いか)


 私も独身・婚約者ナシのため、この街への訪問がバレたら公務の予定など関係なく、擦り寄り邪魔してきそうだ。


「フードで髪色を隠しておくか…」



 マグレイブの街の門へと向かう。冒険者が帰ってくるにはまだ早い時間。門は空いている。


「おや?マグレイブは初めてかな?身分証明書はあるか?なければ通行料をもらう」


 マグレイブの門番2人が俺へと声をかけてくる。フードを被った見慣れぬ男のせいか、暇だからかわからないが、2人がかりで対応してくれるようだ。


 被っていたフードをずらし、髪色と顔を見せ名を名乗る。王族とわかってからの動きも良い。治めている貴族がアレだから心配していたが、騎士達を束ねている者が優秀なのか。


「一つ聞きたい。ここ数ヶ月程で変わった者は来なかったか?」


「変わった者、ですか?」


「あぁ、マリーの事でしょうか?」


「マリー?」


 変わった者ですぐに名が上がる『マリー』とは何者なのか。やはりあの……。


「マリーは変わった者というか……。ただ知識が偏りすぎてて今までどうやって生きてきたのか疑問に思う所はありますが」


「ほぅ…その者の見た目はどうだった?」


 化け物か?それとも人間か?


「小柄な少女です。本人は15歳だと言っておりましたが、11~12歳くらいの見た目です。一番の特徴は黒髪でしょうか」


「黒髪?」


「はい。本人は髪色の意味を理解していないようでした。こちらのペールが帽子を渡して今は隠していますが。服装も変わったデザインでしたね。女の子なのに男みたいな服装でした」


「なるほど」


 黒髪は魔力総量の多さを表す。化け物ではなく少女ときたか…。これはリオルド兄上の言っていたとおり、見た目が違うのかもしれないな。


「ペールといったか、そなたの渡した帽子は何色だ?」


「茶色のキャスケットです」


「ふむ、そのマリーの住んでいる場所はわかるか?」


 私のその一言に、2人はなぜか顔を見合わせて言い淀んでいる。なんだ?


 すると、ペールがすぐ近く、箱が積まれた場所を指差した。


「この間までは、そこの箱の上で生活していました。でも、冒険者ギルドの採取依頼を受けて小銭を稼いだようで、先日やっと安宿を借りる事ができたと言って、そこに移っていきました」


 箱の上?


 そうか……。異世界に飛ばされ、金も物資も渡さず、着の身着のまま追い出したから。

 それは………申し訳ない事をしたな。


「殿下、発言をお許しください」


「ん?なんだ?許す。申せ」

 

「マリーは…良い子です。1人陰で泣きながらもずっと努力し、悪事に手は染めず自身の力で頑張っています。殿下が誰をどんな目的で探しているのかはわかりませんが、それだけはお伝えさせてください」


 1人陰で泣きながら?精霊の守護を受けている者が?よくわからないが、これからは城に迎えて手厚く歓迎するようにしよう。女相手ならばドレスや宝飾品を渡して甘い言葉でも囁けば着いてくるだろう。


「わかった。安心しろ。悪いようにはしない」


 門番達には私がここに来た事について箝口令を敷き、門番へと馬を預け徒歩でマリーという者がいる森の場所へと向かう事にした。



 城から追い出したのが化け物だったのに、まさか少女とは……。今、城で我儘三昧のもう1人の召喚者メアリーの事を思い出す。


「行きたくないな……」


 独り言は空気に溶けて、消えた。

 ロワクレスにしては弱気な言葉に、返事をしてくれるものは誰もいない。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ