あの者は〜ロワクレス視点〜
「もーーー!!なんだよ、あれ!!我侭ばっかり言ってーーー!!腹が立つ!!」
「同感だが落ち着けリュカ」
召喚によりやってきた『精霊の愛し子』であるメアリー。
ピンク色のドレスを見に纏い茶色の髪が可愛らしい少女だったのは最初のうちだけだった。
最初は大人しい少女だったが、城の歓待ぶりに慣れたのか、召喚から一週間ほどで『王子様に世話してもらいたい』と我儘を言い始めた。
我儘を聞かなければ、「精霊に言いつけるわよ!この国がどうなってもいいの!」とくる。
「さすが王子ね。みんな美形だわ。ねぇ私、王子達にもてなして貰いたいわ」
弾んだような話し方。
まるで、獣に舌なめずりされたような怖気が走る。
陛下には4人の子供がいる。しかも全員男。その王子殿下に接待しろと言っているのだ。
召喚をした後ろめたさもあり、出来る限り要望には応えようとしているが、これはあまりにも……。
万が一の事を考え、王太子である第一王子、第二王子はメアリーとの接触を控える事とし、私と弟のリュカで対応する事となったが…。
国王からの命令で仕方なく付き合っているが、リュカは我慢の限界を迎えており、とてもご立腹らしく、「ムカつく!」と叫びながら地団太を踏んで苛立ちをぶつけている。物にやつ当たりするわけでもなく、声はうるさいけど、まだ大人しい方ではないだろうか。
大声で憂さを晴らしていたのだろう、ひとしきり叫んだ後はゼーゼーと息を切らしてしゃがみ込んでしまった。
そんなリュカの側で私は、眉間に皺を寄せながら静かに佇んでいるが怒りのオーラは隠せていない。
「すまないなリュカ。ロワクレスも」
息を切らしながらしゃがみ込んだリュカに声をかけたのは、ハーシェル王国国王シルディオス・ハーシェル。
「リュカもロワクレスも、とりあえず椅子に座りなさい」
すべて押し付けてしまった事に後ろめたさを感じながらも、着座を勧めているのは王太子である第一王子エルシュオン・ハーシェル。
「……で、そのメアリー嬢は本当に愛し子様なの?」
全員が集まったので本題に早く入ろうとするのは兄弟の中で1番の知能派である第二王子のリオルド・ハーシェル。
「愛し子ねぇ」
「どう見ても精霊が逃げてるよな」
召喚を行った際にこの王城付近の精霊が一斉に目覚めた。召喚用魔法陣を中心に一斉に。王家の血筋の者は精霊視の力を持つ者も多く、召喚の場にいた者でその光景を見た者は多い。
だからこそ、愛し子を守らねばと召喚の間にいた者達はメアリーを庇うように動いてしまった。
しかし、あの化け物を部屋から追い出した途端に精霊は一斉に消えてしまった。
まるで王城を避けるように寄り付かなくなってしまった。
精霊は自由きままに漂っているが、こんなにも避けるようにされた事はないと聞く。19歳のわたしと14歳のリュカには精霊の記憶はあまりないが、それでも異常だとわかる程の精霊達の行動。まるで、精霊避けの香でも炊いているかのように寄りつかない。
ーーー 我々は、何か間違ったのではないだろうか。
「騎士団長から報告が入った。王城から北の方角の精霊が目覚めていると」
「北…ですか?」
「あぁ。あの化け物と呼んだ者、あの者を追い出したのが、そもそも間違いだったかもしれんな」
「そうですね。あと、あの者の動きも…」
王と第一・第二王子の言葉に、私は思わず溜息が漏れる。
あの見た目だぞ?魔物と同じ見目で愛し子はないだろう。殺されなかっただけマシだろう。
それでも、すぐに異変に気づき追いかけたが、王城の何処にも姿がないとは予想外だったが。
「ふむ……ロワクレス、影とともに秘密裏にあの者を探し出してきてくれないか?おそらく北にいるだろう」
「まだ生きていますかね?」
「精霊の愛し子ならば、精霊が守護しているだろうからそう簡単にやられはせん。あ、同意の上でだぞ。強制的に無理矢理連れてくるなどないようにな。精霊の怒りなど買いたくはない」
王から下された指令。たとえ化け物の捕獲とはいえ、この城から、メアリーから逃げ出せるならまぁいいか。
「兄上ではなく、俺が……」
「道中魔物も出る。お前では無理だ。化け物捕獲は私が行くからリュカはメアリー嬢の相手をしてろ」
「兄さんズルい!」
戦闘能力、特に魔力量は兄弟の中で一番高い。髪が黒に近いほど魔力量が多いため、魔力総量の多い王族は皆紫色の髪をしている。特に俺は濃紫だ。しかも王族でありながら騎士団に所属しており、腕試しも兼ねて冒険者登録もしている。道中野営をする可能性もあるため、兄弟の中では確かに私が適任だ。
それに目的はどうあれ、あの馬鹿女の相手をしなくて良いのはいいな。
「いいか、ロワクレス、無理矢理はダメだぞって、やはり心配だな。よし、サマンサを連れて行け。サマンサなら安心だ」
ーーー なぜ?
信頼されてない自分に思わず気分が下がる。そんな時、
「……ロワクレス」
部屋の隅で私たちのやり取りを静かに聞いていた第二王子が私を呼んだ。
「もしかしたら見た目が違うかもしれない。探しに行くならそれも踏まえて行けよ」
その顔は沈痛な色が深い。
どうしてそんな顔をするのだろうか。
「手が…召喚の時に見たあの者の手は俺達と同じ手だった。もしかしたら、顔を変えていたのかもしれない」
「顔を?なぜ?」
「わからない。そもそも、召喚した時に召喚者がどんな状況だったのかもわからない……ん?そういえば……」
「リオルド?どうした?」
リオルドの紅茶を飲む手が止まっている。
「ねぇ、俺、思うんだけど・・・」