凛として拒否る
「はぁ?!なに言ってっ…!!」
過剰に反応してしまった。
だって、顔だけ見たらイケメン。キリッとした顔立ちで美形という言葉がよく似合う。そんなイケメンに「お風呂の世話」などされたら、死ぬ。鼻血出して出血多量で死ぬ。私、恋愛経験ゼロです!
よくよく考えたら、この人王子様だ。いつも侍女にお世話されたりするのかな?私は無理です。
「え……?メアリーの風呂の世話も……?」
メアリー、そこまで王子にさせてたの?!震える私に一瞬だけロワクレスが眉間に皺を寄せた。
「いや、メアリー嬢には頼まれたが侍女に任せた。しかし、ここは城ではないから私がするしかないだろう。やったことはないが、風呂くらいなんとかなるだろう。ただ、嫁入り前の娘だからな……まぁ、私が責任をとるか」
「は?責任??」
それって結婚?また言ってる。いやいや、王子様って婚約者とかいるんじゃないの?それって日本のアニメだけの話?
それでも、このイケメンさんに責任とらせるなんてしたら、貴族令嬢からの猛攻撃にあうことは想像に容易い。
王家御用達であろう極上のふわふわタオルを持つロワクレスに、それはさすがに勘弁してほしいとほぼ半泣きで訴えた。この王子様の目の前だというのも忘れ、精霊に「精霊さん、お願い!洗浄の魔法をかけて!」とお願いしてしまった。
「本当に精霊が言うことを聞くんだな……」
あなたが風呂の世話なんて言わなかったら頼まなかったよ!
「あ……そもそもこの宿にお風呂なんてなかった」
「風呂がない……?」
そうだった。風呂がないから風呂の世話など無理だ。ま、私は精霊達の洗浄魔法によって、私も衣服も綺麗さっぱりしたし良かった良かった。
よし、これでもう何もないだろうと、ふふんっとロワクレスの顔を見上げると、
「では、次はこちらだな。髪に香油をつけよう」
終わりじゃなかった。ロワクレスの手には香油の瓶と櫛が握られている。
もう抵抗する気力も起きない。ぐったりと椅子に座る私の背後に立ち、花のような良い香りのする香油を髪に塗っていく。
髪をといたあと、首筋から頭にかけて優しく揉みほぐされる。久しぶりに満腹になるまで食べて、マッサージされ、緊張していた糸が切れたのか、精神的疲労がピークを達したのか目も開けていられない状態になっていた。
「気持ちいいのか?」
「ふっ…あ、はい…」
ふわふわとした思考でなんとか返事をする。
顳顬から耳の後ろをゆっくりと揉まれ、ピクリと身体が震える。
(何してるんだろう、私)
あれだけ逃げ回っていたのに、今マッサージを受けているなんて。どんな状況だよ。そんな考えも過ったが、だんだん思考が定まらなくなってきて、私は限界をむかえ目を閉じた。
考えることを放棄したと言っていい。
いくら精霊の愛し子とはいえ、こんな風に王子様に奉仕されることが不思議でならなかった。
この世界は、私をどうしたいんだ。