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ブルーバード

この会場で発行される行政認可の診断書は、言ってしまえば、“ブルーバード”の無料引き換え券のようなものだ。“ブルーバード”というのは、どこかの非政府組織が開発したサプリメントのことで、なんでもクサイ・エンドリフィンの投与と分泌促進を兼ね備える唯一の代物であるらしい。三十錠で一万円近くするらしい幸せを、診断書があれば、薬局で無償で手に入れることができる。


実際ここ数十年の自殺率は低下傾向にあるようで、私の元カレも「ベンサムの夢が実現したね」とよく分からないことを言いながら、何だか嬉しそうにしていた。少なくとも、社会が良くなっているのは本当のことみたいだ。


―――――――――――――――――――


 「はい、どうぞ」


 カウンセリングの内容に当たり障りはあるけれど、これが手に入るなら、私はそれでいい。薬局によって、ついでにほろよいとか買って、帰ろう。


―――――――――――――――――――


 『ねえ、あのさ』


画面上そこまで打ってから、私はアイツの名前をしばらく口にしていなかったことを思い出した。


『12回目って行った? 今日行ったよ』


『まじ? 俺全然だな。最後に行ったのは大学の頃だ』


つかさ、よりにもよってブルーバードじゃなくてもいいんだよ。何度も言ってるけど、気持ちの問題だし。プラシーボ効果ってやつ。いやまじで副作用とかはないけど、自殺率低下も、これはこれで結果論でしょ。別に相関が根拠で裏付けされてる訳じゃないし——、


『……まあだからさ、お前も過信しないようにな』


『分かってるよ』


『まずは、疑わないと』


だから浮気されたんだろ、とでも言いたいのだろうか。私は画面を閉じて、部屋のベッドに横たわる。


 私も私だ。私は社会を、他人を、自分を疑えない。疑うことがもう辛い。だからかな、この人に見捨てられたのも。その挙句まだ信じて、ストーカーみたく、チャットだけの関係にしがみついている。


きっと、ブルーバードについても同じなんだ。気持ちの問題だからこそ、私は信じることが出来ている。これを続けている限り、不幸にはならないんだって、そう思っている。


 思えている限りは安全なんだ。例えるなら拳銃のセーフティ。このサプリは、私の自殺を食い止めるための金属部品でしかない。でももしもこいつが壊れたなら、その時にはきっと全部が全部暴発して、全部が全部ダメになる。うん。


 これのどこが、幸福なんだろう。

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