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幸福サブスクリプション

きっと楽しいことも辛いことも、現実には平等に存在しているんだろう。ありていな結論はやっぱりありていなだけに的を射ている。そしてその平等なイベントに、私たちは首を突っ込んだり引っ込めたり、または引きずり込まれたりするんだろう。


 だからこそ問題は、そんなイベントをどう解釈するか、に尽きるんだ。ブルーバードよろしく、完全無欠の“幸福”そのものなんて、絶対に存在しないから。童話の兄妹が、青い鳥を「幸福」だと見立てたように、私はこの状態を、妹はあの状態を、とりあえずの「幸福」に仕立て上げた。それだけだから。


 ——そうなら、やっぱりここらで大概にして、打ち止めにしちゃいたい。


疲れた——んじゃない。厳密には……そう、くだらなくなった。ああ凄い。本当にくだらなくなった。


たとえ次の「幸福」が身近なところにあったとしても、こんな世界のどこかにあったとしても、よりにもよってこんな日常の中でそれを探さなくてはならないこと自体が、わざわざコストをかけて嫌な思いをしてまで考えなくちゃいけないこと自体が、もはや馬鹿げている。


くだらない。


やっていられない。


いやでいやでしょうがない。


何度も何度も、痺れる全身に確かめる。






 そうして私は産毛を剃る時と全く同じ、解説にも及ばない心情で、太ももの内側、深い深いところを摺り上げた。






********


『やっほ。生きてる?』


突然携帯が震えて、通知が表示された。久しぶりに見る名前だ。懐かしい。


『うん。生きてるよ』


ボーっとはしているけれど、意識はある。ていうか、めちゃくちゃ痛い。


『そっちは?』


『おお。毎日死んでるわ』


なんだそれ。冗談じゃない。


自分の笑い声が、つけたばかりの切り傷を、一層ヒリヒリ震わせた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 痛く辛い描写が多いのに、目が離さずに最後まで読ませて頂きました。 思えば生きていると痛く辛いことなんていくらでもあるのかも。それでも、楽しく嬉しいこともあるから私は今日も生きてるのかなと思い…
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