リリアンの誕生日⑦
「誕生日? 私の……?」
「えへへ。黙っててごめんね。リリアン。」
ユミアナがリリアンに腕を絡ませた。
「せっかくだからサプライズにしようってことになって。サコッシュを手伝って欲しかったのは本当なんだけど。」
「私の……パーティー……。」
空想好きなリリアンがいつも想像しているサプライズの誕生日パーティーよりもずっと素敵なパーティーに、これが現実なのか、自分の空想の中の出来事なのかわからなくなった。
けれど、ユミアナが腕を引っ張る感覚はちゃんとあるし、さっき箒に乗った時の足の間のヒリヒリはまだ残っている。やっぱり現実なんだ!
「あの素敵なサコッシュのお礼がバターサンドクッキーだけなわけないでしょ。ほら、これ、見てよ!」
ユミアナはテーブルの真ん中に飾られているケーキを指差した。
リリアンがいつもかぶっている猫のぬいぐるみを模したその大きなケーキは、仕立て物の採寸をする時にみんなが噂している有名店のお誕生日ケーキで、何ヶ月も前に予約しないととても買えないものだと言う。
「それじゃ、何ヶ月も前から用意してくれたんですか?」
感激のあまりリリアンの声はつい震えてしまう。
「ヤンセンとリリアンがリーチュアンから戻った時にね、ヤンセンが何かお礼がしたいって言うものだから。キンバリー達の提案で。」
イーラーの言葉に、いつもシラけて世の中を斜に構えているようなもの言いしかしないヤンセンが真っ赤になり、手にしていたマリーゴールドのリースを振り回した。
「なっ、ちょっ、ばっ、余計なこと……じゃない、違うわよ! 私は別に!」
「ヤンセン、人妻のツンデレなんて全然、萌えんぞ。」
ロイが冷ややかに言った。
「オタクは黙ってて!」
ヤンセンが鋭く言い返す。
(狭い町のセレブ同士、二人は小さな頃からの馴染みなのだ。)
「勘違いしないでよね! 別に私は……きゃっ。」
「ありがとうございます!」
早口で捲し立てるヤンセンにリリアンが抱きついた。
プレゼントはケーキだけではない。テーブルにはご馳走の他にも乗りきらないほどの沢山のプレゼントがぎっしり並んでいる。
皆に促され、リリアンはひとつ、ひとつ、プレゼントを開けた。
キンバリー達B☆Sのメンバーは、ミス・フランシスの人気小説、『悪役令嬢と七人の貴公子シリーズ』の最新刊をプレゼントした。
ちょうどリリアンが洞窟でレンリーと出会った時に書かれていた本だ。
「先週出たばかりよ。貸本だと順番はまだまだ回って来ないからね。」
キンバリーがしっぽをふりふり言う。
「皆さんはまだ読んでないのですか?」
「当たり前でしょ。あなたの為に買った本なんだから。」
心外だという顔でユーリーンが言った。
「ありがとうございます。読んだらすぐにお貸しますね。」
リリアンは大事そうに本を胸に抱いた。小説を所有するなんて、貴族のお嬢様になった気分だ。
大都会サンイン市で発売された最新の刺繍の図案集はイーラーが友人に頼んで取り寄せたものだ。
「わあ、すごい。こんなパターン見たの初めて。」
「召喚魔法の魔法陣より複雑じゃない。こんなのが本当に作れるの?」
リリアンと一緒に図案集を開いたB☆Sのメンバーが歓声を上げた。
「大変そうだけど、ひとつひとつ順を追っていけば作れると思います。」
「すごーい。」
ユミアナ、エミリア、キンバリー、それにユーリーンまでが尊敬の眼差しでリリアンを見た。
ヤンセンからは、独身時代にリーチュアンで作らせた贅沢なドレスから作った色とりどりの絹のはぎれを贈られた。
絹の布などとても買うことはできない庶民のリリアンには、古着の布でさえ貴重な品だ。
ヤンセンは今度は照れたりしないできちんとリリアンを向いた。
「イーラー先生の図案集とこれを使ってまた何か作れば飛ぶように売れるわ。私のせいであのレースがおじ……リカルドさんのエプロンになっちゃってごめんね。」
「ヤンセンお嬢さん……。」
リリアンはもう一度ヤンセンに抱きついた。
みんなが自分の誕生日を覚えてくれていたばかりか、こうしてパーティーを開いて、プレゼントまで用意してくれるなんて。
リリアンの事を考えて、リリアンの好きなもの、喜びそうなものを選んでくれるなんて。
今までで最高の誕生日だわ。
……いいえ、人生最高の幸せな日だわ……。
ぬいぐるみの下の目から涙が沢山溢れて来るので、リリアンはそれ以上何も考える事ができなかった。
いつもありがとうございます。
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