リリアンの誕生日⑥
リリアンはユミアナの箒に乗せてもらい薬草園へ向かった。
そう言えば、イーラーは箒の飛行が大の苦手だし、箒に乗るのは初めての経験だ。
しかも、友達と二人乗りなんて、リリアンが子供の頃に幾度となく憧れた光景だった。
(人生で最高のお誕生日だわ。)
ユミアナの尻尾に捕まりながらリリアンは考えた。
イーラーは見た目はリリアンよりも幼いが、あまりにも歳が違いすぎるのでどうしても友達というよりも保護者のようになってしまう。
イーラーの事は大好きなリリアンだが、やはり、同世代の友達と呼べる相手とこうして一緒に行動する楽しさはまた別のものだった。
それにしても……。
「リリアン、モゾモゾ動いたらバランスを崩しちゃうわ。」
「ひゃっ! す、すみません!」
前にまたがるユミアナに指摘されたリリアンは背筋をぴんと伸ばした。
「でも、何だか初めてだから慣れなくて……ユミアナさんは何ともないんですか?」
「何ともないって、どこか痛いの?」
「その、あの、えっと……。」
「なあに? お腹? クッキー食べ過ぎちゃったかな? もしかして空を飛ぶのが怖い?」
「い、いえ、違います。なっ、何でもありません……。」
「そ? なら、遅くなっちゃうから飛ばすわよー。」
ユミアナがさっと尻尾を振ると、箒は激しく振動しながらスピードを上げた。
「ひにゃんっ! にゃっ! にゃっ!」
「いたーい! リリアン、尻尾引っ張らないで!」
ユミアナが悲鳴を上げた。
「しゅ、しゅいま、しぇん……。」
(き、き、今日はっ……い、い、今までに……けっ、経験した……事の……ない……刺激的な……お誕生日だ……に……にゃーっ………!!)
リリアンはユミアナの尻尾と箒にしがみつきながら意識が遠のきそうになるのを必死で堪えた。
さて、そんな二人が薬草園の前庭へ下りると
「あら? ヤンセンお嬢さん?」
もう夕暮れ時も近いと言うのにヤンセンが店先のベンチに座っているのが見えた。
ヤンセンがこの薬草園に訪れたのは、中秋の夜会でカルロスと騒ぎを起こし、母親に引きずられて連れて来られて以来である。
ヤンセンは退屈そうに籠に山のように盛られたマリーゴールドの花を数珠つなぎにしていた。
「こんな時間にどうしたのですか? 羊肉が待ちきれなくて取りに来たんですか?」
「は? リリアンたら何言ってんの? 」
ヤンセンは相変わらず横柄なもの言いで、手にしていたマリーゴールドのリースを振り回した。
「って言うか、二人とも遅いわよ。」
「遅い? 何がですか?」
リリアンは首を傾げた。
確かに日は傾き始めているが、仕事終わりの汽笛が鳴るような時間ではない。
「そう言えば、イーラーさんはヤンセンお嬢さんのお宅へ行ってるはずですけど、もう戻っているんです……きゃっ。」
ふいにリリアンの目の前が暗くなった。
「はい、ちょっとごめんね。」
どうやらユミアナに目隠しの魔法をかけられたようだ。
「こっちよ、リリアン。」
「ゆ、ユミアナさん? ヤンセンお嬢さん?」
ユミアナとヤンセンに手を引かれ、目隠しをされたままリリアンは店の中へ進み、台所を抜けて中庭に出た。
いつもの静かな中庭とは違い、そわそわした気配に薬草の香りに混じってチーズを溶かしたような芳醇な香りが漂っている。
(あっ、この匂い……!)
リリアンはぬいぐるみの下の鼻をひくひくさせた。
そして、
「さあ、良いわよ。」
ユミアナの魔法が解かれた。
中庭はまるで中秋の夜会のように、ランタンやマリーゴールドの花数珠で飾られ、真ん中に出されたテーブルにはたくさんのご馳走が並んでおり、その周りには……
「リリアン、お誕生日おめでとう!」
イーラー、キンバリー、エミリアにユーリーン、ロイまでが拍手をしてリリアンを迎えていた。
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