リリアンの誕生日⑤
「よし! いくわよ、リリアン。」
「はい、ユミアナさん!」
リリアンが見守る中、ユミアナは息を整え深呼吸をすると、けもの族の毛並みを思わせるファー生地でできたサコッシュへ手を入れた。
「エニシダの箒!」
そう唱えたユミアナがサコッシュから慎重に手を抜くと、手には棒がしっかりと握られており、するすると引き出された棒の先にはエニシダの枝が束になってくくりつけてあった。
「やったー! 成功よ!」
ユミアナとリリアンはぴょんぴょんと飛び上がった。
「ちょっと、リリアン、これは予想以上の出来栄えよ。」
「本当ですね。それに、思っていたより簡単でしたね。」
リリアンにしてみたら、ユミアナによって魔法を施された布をまじないをかけるタイミングに合わせていつものように縫い合わせただけなので、魔法のアイテムを作ったという感覚もない。
秋中、グイユェンのマダム達のためにせっせと編んでいた腹巻きの方がよほど難易度が高かったくらいだ。
しかし、
「何言ってるのよ。縫い合わせる順番とか、糸の間隔とか、針を運ぶリズムとかで出来栄えは全然違ってくるのよ。」
ユミアナは興奮して膨らんだ尻尾をぴょこぴょこさせた。
「リリアンがリーチュアンで買ってきてくれたフェイクファーの布のおかげで見た目も可愛いし、こんなの絶対にグイユェンじゃ買えないわ。リーチュアン市のアイテム屋でも相当ふっかけられるわよ。ありがとう、リリアン!」
「私は何にも。」
お友達と頭をくっつけて大好きなお裁縫をするのが子供の頃からの儚い夢だったリリアンにとっては、お礼を言われる程の事は何もしていない。
「ユミアナさんの丁寧な魔法のおかげです。」
「だから、魔法だけじゃダメなんだってば。」
幾度となく自作を試み、その度に腐ったトマトやもっと閲覧注意なモノをサコッシュから取り出すハメになっていたユミアナはさらに力強く言う。
「リリアンの仕立て物はお値段のわりにとっても出来栄えが良いって前から評判だものね。独立して街で店を構えてもおかしくないくらいなのに。」
「そんな……。」
それは、以前ヤンセンにも言われた事があるが、一緒に薬草園を抜け出すための方便だと思っていた。
「薬草園に留まっているのは……。」
ユミアナは部屋に二人しか居ないにも関わらず、思わせぶりに声をひそめた。
「やっぱり、『あの人』の側にいたいから?」
「ひゃっ? あ、あの人⁉︎」
「そう。ヤンセンさんの結婚式の時もあの人と一緒だったでしょう?」
「み、み、見てたんですか? ユミアナさん。」
まさか、リカルドと回転木馬に乗っていたのを見られていたとは! みんなヤンセンのブーケしか見ていないと思っていた。
「当たり前でしょ。新郎、新婦に負けじとあんなにラブラブなところを見せつけて。ユリなんか、尻尾を三倍にして羨ましがっていたわよ。」
「ラブラブ? 見せつけ⁉︎ そ、そんなつもりは……!」
リリアンが靴を汚してしまい、リカルドにお姫様抱っこをしてもらった上に、リリアンの前に跪いて靴をきれいにしてもらったのだ。
事情を知らない人から見れば、ラブラブと見られても不思議はない。
「いいってば。みんなびっくりしてたけど、お似合いだって言ってたわよ。」
「ひゃっ。お似合い……!」
「でも、まさかリリアンが勝負服のペチコートまで用意する程の大人の関係だったとは気がつかなかったわ。」
「ぶにゃーっ! ち、ち、違います! これは、これは、あの、あの……!」
リリアンは慌ててスカートの裾を押さえた。
「ふふふ。さあ、遅くなるといけないからこの箒で薬草園まで送るわ。きっと、あの人もリリアンの帰りを待っているわよ。」
ユミアナは何もかもお見通しという体で優しく微笑んだ。
みんなの噂どおり、やっぱりリリアンとイーラーはカップルだったのね。ユーリーンだけはなぜか尻尾を三倍にして怒っていたけど、当のリリアンが認めたのだから間違いないわ。
それにしても、先日のヤンセンに続き、歳下のリリアンにまでお相手がいるとは。ブリーズ☆シスターズは人気パーティーの筈なのに浮いた話ひとつ出てこないのは全く不思議だわ。
ユミアナはエニシダの箒を肩に担ぎながら考えた。
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