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リリアンの誕生日④


 ユミアナに会うためおめかしをしたリリアンを見送り、ひとり薬草園の台所に残されたリカルドは椅子に腰掛け、ほっと一息ついた。


 お気に入りの黒のドレスの上に真っ白なふわふわのローブを着て、リカルドの作った饅頭をたくさん詰めた籠を下げ、いつもの猫のぬいぐるみをつけたリリアンは、リカルドには御伽の国の女の子のように見えた。


 おまけにスカートの裾から贅沢なペチコートが見え隠れする度にリカルドの目はチカチカと火花が飛びそうだった。



 以前はそんな彼女を見ると、あまりにも違う世界を生きてきた自分との差に苦しんだ事もあったが、こんなふうに他愛のない会話を交わし、何でもない日々を共に過ごしていると、まるで本当の家族のように思えてくる。


 どちらかと言えば、夫婦と言うよりも娘を養っているおじさんと言った体だが、そうだったとしても、可愛い自慢の娘だ。


 しかし、イーラーの気前の良さに甘えズルズルとスローライフを送ってしまっているが、こんな平和な、かつ、ときめきまくりの生活に慣れてしまったら、これまでのような賞金稼ぎやキャラバンの護衛のような生活に戻るのは大変かも知れない。


「ま、そんな事考えても仕方ないか。」


 リカルドは立ち上がり昼食の片付けに取りかかった。


 


 ユミアナの家にお呼ばれしたリリアンは、まずはユミアナが朝早くから並んでもらった整理券で買ってきてくれた、有名なお菓子屋さんのラムレーズンとバタークリームをたっぷりはさんだバターサンドクッキーをストロベリーキャラメルフレーバーティーと共に振る舞われた。


 リリアンの持参した叉焼まんやタロイモのあんまんはユミアナの持っているポップな色使いの食器には少しだけミスマッチだったものの、薬草園のおじさんの噂の叉焼まんはユミアナの心を虜にしたようで、自分が苦労して買ってきたバターサンドクッキーそっちのけでいくつもおかわりしてくれたので、リリアンも誇らしさに胸が躍った。


「今日はエミリアさんはお出かけなんですか?」


 グループ行動の大好きなこの双子の姉妹はいつも一緒のイメージだから、前にいるのがユミアナひとりだと何だか不自然な感じがする。


「エミはお昼からユリとキムと三人でどっか行っちゃったわ。いつも四人一緒って訳じゃないわ。」


 エミリアは早口でそう答え、


「もうひとつだけ、いただいちゃお。」


 タロイモのあんまんに手を伸ばした。


「ああ、おいしい。この餡はどうやって作るのかしら? 普通のタロイモなんでしょう?」


 何だか、これ以上その話題には触れたくないようだ。


「どうしたの? リリアン?」


 バターサンドクッキーを食べる手が止まっているリリアンにユミアナが声をかけた。


 もしかして、エミリアは自分みたいなつまらない子と一緒に過ごすのが嫌で出かけてしまったのだろうか?


 それとも、ユミアナは三人に誘われたのに、リリアンとの約束のせいで渋々別行動をする事になったのだろうか?


 リリアンはいつもの癖でそんな風に悪い方へ考えてしまう。


 しかし、続いて発せられたユミアナの言葉は思いがけないものだった。

 

「もしかして、エミや他の子達がいなくてガッカリしちゃった?」


「えっ。」


 ユミアナは耳を少しだけ寝かせて、かじりかけのあんまんをふにふにしながらきまり悪そうに呟いた。


「あたしはエミの妹ってだけでB☆Sに入れてもらってるへっぽこ魔法使いだから。」


「へっぽこだなんて、そんな事ありません!」


「そんな風に言ってくれるのはリリアンだけよ。」


「そんな事ありません! 」


 リリアンは思わず語気を強めた。


「イーラーさんも、ガードナーの坊っちゃまも、ユミアナさんは小さい子達のお手本になる良い魔法使いだって言ってます! リカルド様も……。」


 そう言えばリカルドは何にも言ってなかった。


 しかし、おっさんがノーコメントでもユミアナは気にしないだろう。


「私も、ユミアナさんは良い魔法使いだと思います。それに、おしゃれで可愛くて憧れちゃいます。今日だって、ユミアナさんにお呼ばれしていただいてとっても嬉しかったんです。ユミアナさんが人気者のパーティーのメンバーだからじゃなくて、私とお裁縫したいって言ってくれたのが嬉しくて、お気に入りのドレスに、ユミアナさんがそんなところまで見るわけないのに勝負服のペチコートまで着てきたんです!」


「ふふふっ。ありがとう。」


 リリアンの嘘のない一生懸命な言葉にユミアナの顔にも笑顔が戻った。


「だから、アイテムが沢山入るサコッシュを作ってもっとみんなの役に立ちたくて、リリアンに手伝ってもらいたいの。」


「私で良ければ何でもお手伝いします。」


 リリアンは張り切って持参した裁縫箱を出した。


「念のためにフェルト地やなめし革も持って来ました。いちばん良い素材を研究しましょうね。」


「わあい。ありがとう! でもその前に、お菓子食べちゃいましょうね。」


「はい!」


 ブリーズ☆シスターズの白魔法使いでも、こんな風にネガティブな感情に囚われたりするものなのか。


 もしかしたら、こんな風にキラキラ輝いて見える女の子達も、自分とそんなに変わらないところがあるのかも知れない。


 バターサンドクッキーをかじりながらリリアンは考えた。




 いつもお読みいただきありがとうございます。


 こんな感じでのんびりと続きますので引き続きお楽しみいただけたら嬉しいです。

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