みんな大好きカルロス隊長①
本編の八十一話、ヤンセンの結婚式の時のおまけのエピソードです。
カルロス・アレクサンドロ中尉は、一応はリーチュアン市の下位貴族ということになっているが、都市国家連合加盟都市の中でもかなり大きな某国の王様の妾腹だという。
系図にも載っていないが、これはかなり有名な話だ。
王族の多くがそうであるように、彼は魔法ネイティブ(生まれつき高い魔法の能力を持つ者をそう呼んでいる)だ。
むろん、ネイティブだからと言って将来誰もが優秀な魔導士になれるわけじゃないが、スタート時の大きなアドバンテージにはなる。
しかしその先はやはり普段の鍛練によるものが大きいから、親の期待を一身に背負って英才教育を受けた平民の魔導士にあっと言う間に抜かれてしまう。
残念だが、王族、貴族にはそんなのが多く、コネで魔導学院を卒業させてもらい、形ばかりの魔導士になるのがオチだ。
しかしながら、カルロスは、剣魔両道なうえ見てのとおりの男前で人気もある。
よくある話で、出来すぎた妾腹なんか変な奴らに担ぎ上げられかねないと早々に出家させられたのだが、同じくらいの速さで破門になってしまった。
何しろ素行が悪すぎる。
貴族の奥方とできるなんて序の口、いっぺん、どっかの国のお妃候補と駆け落ち騒ぎまで起こしたこともあるくらいだ。
そんな訳で都市国家連合の士官学校へ放り込まれた訳だが、軍事作戦部隊でもまあ、やりたい放題というわけで、流れに流れ荒くれ者の集まる掃き溜めみたいな部隊に左遷されたのは前途の通り。
けれども上流階級の奴らも平民も、カルロス・アレクサンドロを本気で嫌っている奴なんている訳がないのだ。
気まぐれな振る舞いは世間の目を欺くためのもので、この男が本気を出せば、世の中を変える事ができると皆に思わせる何かを持っている。
しかし、カルロス・アレクサンドロがそんな野暮なことをする筈もない。
そんな事は皆、百も承知だ。
「こんな立派な貴族様の護衛を仰せつかるとは、なかなかどうして俺も偉くなったものだな。」
収穫祭と同日に催されたヤンセンとマルセルの結婚式当日、グイユェン市長邸にて用意された控え室にて、リーチュアンの有名店のデザイナーが彼の為に特別にあつらえた礼服に袖を通したカルロスを見たリカルドは、誇らし気に呟いた。
カルロスはいつものように口の端だけ歪めてニヤッとした。
しかし、懐に手を入れたカルロスに
「おっと、煙草は吸うなよ。」
リカルドは鋭く言った。
今日はヤンセンとマルセルの婚礼の日。
ヤンセンはローンから譲り受けた双子の赤ちゃんを宿した大切な卵を食べなけれならない。
そんな大事なイベントを控えた市長邸を煙草の煙で汚染する訳にはいかないのだ。
「へいへい。」
実際は広い邸宅の一室でちょっと煙草をふかしたくらい何の影響もないのだが、身内でもないくせに世話焼き婆さんみたいな事を言うリカルドに苦笑しつつ、カルロスは大人しく煙草をポケットに戻した。
「今日はめでたい結婚式だ。特別大サービスでお前にも恋愛成就のまじないをかけてやろうか?」
「はあっ⁉︎」
出し抜けに発せられた友の言葉にリカルドは素っ頓狂な声を上げる。
「俺のまじないは強力だぜ。知ってると思うけど。」
むろん知っている。
ヤンセンとマルセルの恋を実らせたのも彼の力によるものだ。
「ほれ、手出せよ。」
カルロスはいつものように口の端を歪めて手を差し出す。
「…………。」
リカルドもそれにつられて手を上げたが、
「いや、しかし。」
はっと手を引っ込めた。
俺の恋が実ったとして、相手であるリリアンはそれで幸せなのか?
ヤンセンとマルセルは両想いを拗らせていただけだから良かったのだろう。
しかし、好きでもない汚いおっさんを当てがわれたリリアンにとっては、それはただの呪いではないか?
いやいやいや、もしも俺とリリアンが結ばれようものならば、きっと、きっと、この手で幸せにしてみせるから大丈夫だ。
毎日腕によりをかけ美味しいご飯を作ってあげて、掃除洗濯、家畜に加えて将来授かるであろう子供の世話も全て引き受け、リリアンは好きな裁縫だけを思う存分できる。
何だ、今とそんなに変わらない生活じゃないか。よし、大丈夫だ。全然、大丈夫だ。
いやいやいやいや、待て、しかし、
もしもイーラーにバレたらどうする?
今回だって(俺、悪くないのに)相当怒られて、コーデリアおばちゃんが毛糸のパンツで取りなしてくれなければ隊長共々出禁をくらうところだったではないか。
同じ事をリリアンにしたら、怒られて出禁どころでは済まされないだろう。
俺は闇に葬られ、骨は薬の原材料にされ、リリアンは未亡人になってしまう。
いやいやいやいやいや、遅かれ早かれどうせいつかは果てる命だ。孤独死の後、餌をもらえなくてお腹を空かせた名犬サーブのご飯になるくらいなら、例え数秒でもリリアンの夫として散る方が悔いはない。
しかし、いや、しかし、いや、待て、しかし……。
「あ、あのう。クラークソン最上級兵曹長殿……」
「はっ!」
リカルドが我に返り辺りを見回すと、カルロスの姿はなく、市長邸の執事が目に恐怖の色をたたえ、恐る恐るこちらを見上げていた。
「アレクサンドロ卿はもうとっくにお出ましになりましたが……。」
「おっと、すまん、すまん。」
くそ、隊長の奴め、また俺をからかいやがったな。
そんなんだから八百屋から腐った白菜を押し付けられたりするんだぞ!
イーラーだって……、そう言えば、隊長は昔、何でイーラーを怒らせちゃったんだっけ?
まあ、イーラーの場合はどうせ、取るに足りないしょうもない理由で勝手に怒り出したんだな。年取ると怒りっぽくなるのかな。
俺も気をつけよ。
そんな事を考えながら、リカルドはカルロスの後を追った。
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