引きこもり娘とおっさん戦士は婚約中。
晴れて両想いとなったおっさんとリリアンのその後。
「リリアンさん、歩きにくいよ。」
「リカルド様、私はもうリカルド様の婚約者なんですからリリアンと読んで下さい。」
グイユェン市から薬草園を目指し、冬の寒いのにシャツに腹巻き姿の残念なおっさんと、猫のぬいぐるみをかぶった女の子が一緒に歩いていた。
女の子の腕はおっさんの腕に蔓草のように絡みついている。
俺の歩きにくいと言う申し出は簡単にスルーされてしまった。
おっさんは嬉しさの中に若干の気恥ずかしさを抱きつつ考えた。
墓場まで持って行く事になりそうだと確信していたリリアンへの秘めたる想いが成就し、こうして恋人として傍らに立つ事ができる喜びは計り知れるものではない。
しかし、歳のせいなのか、元々そういうことに疎いのか、若い女の子の行動はおっさんには理解しかねる事がままある。
リリアンは二人きりの時や、ルームメイトのイーラーが見ている前では恥ずかしがって側にも寄って来ないのに、不特定多数の衆人の目につく公共の場ではこんなふうにぴったりと身体を寄せてくるのだ。
むろん、悪い気はしない。
しかし、さすがに良い歳であるから人前でいちゃいちゃするのは恥ずかしいと思っている。
むしろ、おっさんとしては二人きりの時こそ、この若い恋人といつまでもひっついていたいと思っているのだが。
愛しいリリアンのためならばどんな試練も厭わぬつもりでいるものの、孤独なおっさんとして生きてきた余りに長い年月が常識という呪縛でもっておっさんを苦しめ、罰当たりなことと思いつつ、鍛えられた傷だらけの自身の腕から優しくリリアンの腕をほどいた。
「ヤンセンお嬢さんとマルセルさんはみんなの前でも気にしないで抱き合ったり、キスしたりしていますよ。」
猫のぬいぐるみのせいで顔は見えないが、リリアンの声色や仕草から察するに、どうやら機嫌を損ねてしまったようだ。
「そ、それは、あいつらはもう結婚してるし。」
「そんな事ありません! ご結婚前からひっつき虫みたいにずーっと、ずーっと、くっついていましたよ!」
そして、リリアンは何かというと新婚のヤンセンとマルセルを引き合いに出しておっさんを言い負かしにかかる。
「むう。確かに。」
おっさんはおっさんで簡単に論破される。
「はい。」
こうして、おっさんは仕方なく腕を差し出す。
「うふふ。」
二人はまた腕を組んで歩き出すのだった。
ところで、
と、おっさんは考える。
俺はいつ婚約したのだろうか。
俺はいつの間にかリリアンにプロポーズをしたことになっていた。
上官で親友の美青年カルロス・アレクサンドロの元にはたまに勘違い女が詰め寄って来ることはあるが、この俺に限っては、恋愛とか、そういうのとは無縁で不器用な人間だと思っていた。
しかし、なかなかどうして知らないところで数多の女性を勘違いさせて泣かせていたのではないだろうか?
気をつけなければならない。
恋愛経験のほぼ皆無なおっさんは、世間では少し変わっていると思われているたったひとりの女の子に「モテた」だけで、そんな余計な心配までしているのだった。
お読みいただきありがとうございます。
数ある小説の中からこのお話を見つけて下さり、ここまで読んで下さって本当にありがとうございます。
本編でははしょってしまったエピソードや、後日譚をのんびりと更新してしていきますので引き続きよろしくお願いします。




