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最終話 引きこもり娘とおっさん戦士の恋 前編

 最終話といいながら二話構成になってしまいました。


 『ペンネーム・騎士ボナパルト大好きっ子(没にしないで!)さんへ。いつも応援ありがとうございます!「片想い中のカレが毎日炒飯を作ってくれると言ってくれたのですが、これはもしかしてプロポーズですか?」とのご質問ですが、もちろんプロポーズです。嫁入り道具の準備はお早めにね。』


「ひにゃーーーーーっ!!!!」


 朝の一仕事を終え、裏庭のテーブルでリカルドの作ってくれたちょうちょの形の蒸しパンを食べながら、貸本屋のファンクラブの定期会報の『読者の作るコーナー』欄、『ミス・フランシスの恋のお悩み相談室』の記事を読んでいたリリアンは絶叫した。


「お嫁入り道具……リカルド様のお嫁さん……!!」


 永遠に続くと思われた長い長い片想いもいつの間にか終わりを迎えており、リリアンにはいつの間にか婚約者ができていた。


「こうしちゃいられない!」


 リリアンは走って裏庭を出て行った。


「リリアンさん?」


 井戸で洗濯をしていたリカルドは怪訝な顔で見送ったが、ここ数週間共に生活するようになり、リリアンの行動パターンも大体掴めてきた。


 割と思いつきで突拍子もないことを始めて後からイーラーに叱られ、しばらく大人しくしているものの、すぐに懲りずにまた何か始める。


 出会ったばかりの頃は、若い娘がこんな田舎の薬草園に引っ込んで生活して何が楽しいのだろうと思ったものだが、なかなかどうして毎日退屈する暇もないようだ。


 リリアンは薬草園から一番近い農家から抱えきれるだけ野菜の苗を買って来ると、薬草園の一角にある家庭用の菜園に無理やり苗を植え始めた。


「リリアンさん、蒸しパンをそのままにして遊びに行っちゃだめだろ。もういらないなら片付けちゃうよ。」


 リカルドが菜園にいるリリアンに声をかけた。


「あっ、ごめんなさい。」


 リリアンは慌てて裏庭のテーブルへ戻ったが、土いじりをしていたので手が泥だらけだ。


 ふと、以前にリリアンとヤンセン、マルセルの三人でリーチュアン市から馬車で帰った時、婚約中の二人はリリアンが目の前にいるのもお構いなしに、お菓子を互いの口に入れてあげていたのを思い出した。


「リカルド様。」


 リリアンはリカルドを見上げた。


 あーん。


 と、口を開けたものの、いつも猫のぬいぐるみをつけているのでリカルドにはリリアンが何をしているのかわからない。


「??蒸しなおしてお昼にまた食べようね。」


 そう言って台所へ持って行ってしまった。


「もうっ、リカルド様ったら、恥ずかしがり屋さん!」


 リリアンは頬をぷうっと膨らませ、菜園へ戻った。


「何を植えてるの?」


 リカルドは心配そうに覗きに来た。


 菜園をそんなふうに引っ掻き回して、後から絶対にイーラーに叱られることだろう。


 リリアンは何故か恥ずかしそうにもじもじとした。


「……キャベツです。春にはみずみずしいキャベツが収穫できますよ。」


「????……ふうん、リリアンさんは春キャベツが好きなんだね。」


「もうっ。リカルド様のいじわる!わかってるくせに!」


 リリアンは体をくねくねさせ、泥だらけの手でリカルドをつんつん小突いた。


「な、何を?」


「……えっち。」


「えっ、何で!?」


「知らないっ。キライ。あっちへ行ってて下さいっ!」


 リリアンはぷいっとそっぽを向き鼻唄を歌いながら再びキャベツの苗を植え出した。


 

 リリアンはやっぱりまだスレッジ・ハマー号の赤ちゃんはキャベツ畑からやって来ると思っているのだろうか。


 リカルドは溜め息をついた。


 前途は多難だ。



 リリアンは土いじりをしていたら手も服も泥だらけになってしまった上に、つい手でこすってしまい、猫のぬいぐるみまで汚れてしまった。


 仕方なく自室へ戻って服を着替え、カワウソのぬいぐるみをかぶった。


 リリアンが台所へ行くと、リカルドが昼食の支度をしていた。


 リカルドが振り返ると、カワウソのぬいぐるみをかぶったリリアンがぴょこぴょことスキップをしながらリカルドに近寄って来た。


 今日のリリアンは猫のぬいぐるみをかぶっていたし、服も違うものを着ていたはずだ。


 そうか、この人懐っこい動きは、リリアンの影武者だな。


 そう考えたリカルドは周りに誰もいないのを確認して、リリアン人形を抱きしめて頭を撫でた。


「よしよし。かわいいな、お前は。」


「ひにゃっ。」


「ほらほら、フラフラしてたらかまどの火が移っちゃうよ。あっちに行ってなさい。後でゆっくり可愛がってやるからな、なーんてな。」


 さすがに今のセリフは我ながらちょっとヘンタイぽくてアブナかったな。周りに誰もいなくてよかった。気をつけよう。


 リカルドはリリアン人形のお尻を優しくぽんと叩いて向こうへやった。


「にゃー……。」


 台所から出されたリリアン、もちろん人形ではなく本物のリリアンだ。は、へなへなと床に崩れた。


 これが婚約中の恋人達というものなのか。


 こんなことを頻繁にされたら幸せすぎて身がもたない。


 けれども、一度でも自分に許されたものだと分かると、麻薬のようにもっともっと欲しくなってしまう。


「私も、ヤンセンお嬢さん、じゃなかった、ヤンセン奥さんみたいに、リカルド様に抱っこしてもらったりキスをおねだりしても良いのかしら?」

 

 もちろん良いに決まってる。


 だって、私はリカルド様の婚約者なんだもの。


 でも、ぬいぐるみをつけていたらキスしてもらっても何だかよくわからないわ。


 リリアンは頭につけていたぬいぐるみをはずして、大きく深呼吸をすると、もう一度台所に入った。


 かまどの前ではリカルドが手際良く食事の支度をしている。


 リリアンが入ってきた気配に気がつくと、顔を上げずに言った。


「お腹すいた?もうすぐだからもうちょっと待っててね。」


 と、裏庭からドサドサいう音と、イーラーの悲鳴が聞こえてきた。


 どうやら、前が見えなくなるくらいにうず高く積んだ薬草を運んでいて、椅子に躓いたようだ。


「リッキー、リリー、ごめん

どっちでも良いから、ちょっと手伝って!」


「また何かひっくり返したみたいだな。」


 リカルドが呆れて言った。


 これまた、一緒に生活してみてわかった事だが、イーラーはけっこうオッチョコチョイなのだ。


「私が行きます。リカルド様はご飯の支度をお願いしますね。」


 リリアンはクスッと笑って裏庭へ続く扉を開けた。


「ああ、頼む……

 


 えっ、ええっ!?」


 リカルドがリリアンの方へ顔を向けるのとほとんど同時にリリアンの姿は見えなくなったが、リカルドはリリアンの栗色の髪をはっきりと見た。


 今度はリカルド抱えていた蒸籠を床に落とす番だ。


 蒸しあがったばかりのふかふかの蒸しパンが湯気をあげながら床に散らばった。

 次章こそ最終回。


 リリアンの秘密が明らかになります。

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