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第八十一話 ヤンセンの結婚式 前編


 グイユェン市の収穫祭には、音楽隊や大道芸や、移動遊園地までやってくる。


 ヤンセンとマルセルの結婚式は、収穫祭と同じ日に市長の荘園の収穫の終わった葡萄棚の下で執り行われた。


 見栄っ張りのヤンセンが、リーチュアンの高級店からどんなウエディングドレスを注文したのだろうと、皆、興味深々だったが、ヤンセンのそれは皆の期待を裏切り、母親のものだったドレスとベールを手直ししただけの、ごく質素なものだった。


 家出から戻ったヤンセンは急にしおらしくなり、嫁入りに持って行くドレスも特注品はやめ、今まで着ていたドレスを既婚者用に直して使うことにしたようだ。


 しかし、その代わりに新郎であるマルセルの為に上等な上着や外套を注文すると言って聞かなかった。


 マルセルは生地も仕立ても全てグイユェン市で注文することを条件に、やりたいようにやらせていた。


 おかげでお針子達は大忙しだったが、市長の娘婿がこの先、結婚式や外遊で着るかもしれない上着を仕立てると思うと、針を運ぶ指にも力が入った。


 ヤンセンのドレスは飾り気はないものの、それがかえってヤンセン自身の美しさを際立たせ、効果的に魅せている。


 当面はこういうラインが主流になるだろう、と街の仕立て屋は考えた。


 傍に立つマルセルも、新しい上着のせいか、それとも側に寄り添う花嫁のせいか、別人のように堂々としていた。


 グイユェン市の昔からのしきたりにのっとり、戦士と魔導士、そして職人、農民の代表者それぞれ一名ずつの立ち合いのもと、司祭が二人を結婚させた。


 子供たちが競って爆竹を鳴らし、今年初めてのワインがご馳走と共に振る舞われ、音楽隊の演奏で花嫁と花婿を囲んで皆がダンスを楽しんだ。


 貴賓席にはマルセルの後見人を買って出たカルロス・アレクサンドロが、一番格式の高い正装をして座っていた。


 リカルドもいつもの黒い甲冑ではなく軍事作戦部隊の式典用の正装でカルロスの後ろに控えている。


 私生活ではカルロスを邪魔もの扱いしているリカルドだが、必要な時は喜んで上官のお飾りに徹するのだ。


 中秋の夜会での出来事は、マルセルの不在にヤンセンが寂しい思いをしないよう相手をしてやっただけなのだ、と皆が受け止めた。


 いやしくも市長の娘が孤児と縁組なんて、などと陰口を言っていた人達も、こんな素晴らしい貴族様が後見人とは、マルセルはなかなか有望な男だ、市長の娘は上手くやった、と囁きあった。


 他にも目を引く貴賓があった。


 薬草園のイーラーが女の子を同伴して現れたのだ。


 二人はおそろいの薄いブルーのオーガンジーのドレスの上に、ふわふわの真っ白なローブを着ており、ベールのついた優美なボンネットを深く被り、顎のところでリボンを結んでいるので顔は見えない。


 しかし、いつも持っている杖と、指につけているたくさんの指輪が、背の低い方の少女がイーラーであることを物語っている。


 そして、その横に座っているイーラーより頭ひとつ分だけ背の高い少女は、薬草園のリリアンだとみんなはすぐにわかった。


 イーラー先生が公式の場に同伴者と現れるなんて。


 猫のぬいぐるみの女の子は、イーラーのお相手という噂は本当だったのね。


 と、皆が囁きあった。


 魔女同士がそういう関係を結ぶのは珍しくはないが、こうして二人揃って公の場に現れるのは異例なことだ。


 けれども、時折、顔を寄せ合って話をしたり、くすくす笑う二人の姿は愛らしく、仲睦まじく映り、こんなに可愛くて優秀な魔女が我が街を選んで住んでくれているのだと、人々は誇りに思った。



 しかし、ただひとり、戦士ユーリーンは貴賓席に鋭い目を向けていた。


 みんな馬鹿ね。


 魔女が二人揃えばすぐそんな目でみるんだから。


 本当の姿を欺くカモフラージュに決まっているじゃないの。


 しかも、イーラーを利用するなんて大した子ね。


 イーラーの同伴者という隠れ蓑でうまく貴賓席に潜り込んだわけね。


 なるほど、考えたものね、恐れ入ったわ。


 あの子の狙いはアレクサンドロ中尉の後ろにいるあいつよ!


 きっと、隙を伺って二人で垂れ幕の影で何か怪しいことをする気ね。


 神聖な結婚式に何を考えているのかしら。


 毎日会っているでしょうに、一日だって我慢できないのかしら。


 それとも、こういった場所はやはり普通とは違う刺激を伴うものなのかしら……。



「ユーリーンったら、顔が真っ赤よ。」


 隣にいたキンバリーが声をかけた。


「ほえ!?」


 ユーリーンは我にかえる。


「尻尾が三倍になってるわよ。」


「花嫁さんを羨ましそうに見ちゃって。」


 エミリア、ユミアナ姉妹も笑った。


「な!ち、違うわよ!」


 ユーリーンは真っ赤になって尻尾を直した。


 けれども、少し考えて、


「ど、どうかな。実はちょっぴり……かなり、羨ましい……かも。」


 と、口をもごもごさせた。


「素直でよろしい!」


 ユミアナがユーリーンの背中を叩いた。


「ブーケ争奪戦は負けないわよお!」


 キンバリーも興奮して尻尾をふりふりしている。


「魔法禁止よっ!」


 杖を振り上げヤンセンのブーケに狙いを定めているキンバリーとユミアナに、ユーリーンが目を釣り上げた。


「今こそ練習の成果を発揮する時が来たわ!」


 エミリアが舌なめずりをする。


「銛とクロスボウも禁止ーっ!!」


 キンバリー、ユーリーン、ユミアナが同時に叫んだ。


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