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第七十九話 リリアンの推し活 4



 カワウソのぬいぐるみを客間のイーラーの調度品の横に置いたのとほぼ同時に店の呼び鈴が鳴ったので、リリアンはぬいぐるみを放り出して飛んでいった。


「いらっしゃい、ロイ」


「お招きありがとう、リリアン。おや、素敵なドレスだね。」


「まあ、お上手ね。」


 昨日のうちにずいぶん打ち解けたらしく、ロイはリリアンに気さくな挨拶をし、リリアンも気軽に応じた。


 それどころか、いつの間にか二人は互いにロイ、リリアンと呼び合うほどになっている。


 ロイはイーラーとリカルドを前にすると慇懃な礼をした。


「イーラー先生、リカルド先生、お邪魔いたします。これは祖父からです。よろしくと申しておりました。」


「あら、栗饅頭。さすがガードナー家の当主はわかってらっしゃる。」


 イーラーの顔がほころんだ。


 ガードナー家の手土産のセンスは及第点だったようだ。


 ロイは客間の上座に通され、リカルドとイーラーも席に着くと、メイド姿のリリアンが皿に盛った炒飯や蒸饅頭の入った蒸籠をテーブルに並べた。

 

「素晴らしい!お米が一粒一粒パラパラになっていますね。さすが先生の腕前はリリアンの言う通りプロ顔負けですね!それにこの叉焼まんときたら……!リリアンから聞いてはいたけど。」


 ロイは一口頬張るごとにリカルドの料理を絶賛する。


 リリアンからここの生活をつまびらかに聞いていると思うと、ロイのお世辞のない心からの賛辞もリカルドはいつものように素直に受け取ることができない。


「お口に合いまして恭悦に存じます。」


 早口にぶっきらぼうにそう答えるにとどめた。


「よろしければ私の分もどうぞ。」


 リリアンはロイの前に自分のお皿を置いた。


「わあ、いいの?では遠慮なく。」


 リカルドは居たたまれなくなり、さっさと炒飯を口に押し込むと、後片付けをしようと客間を出ようとした。


「リカルド様、後片付けは私がやりますから、ロイとおしゃべりしてて下さい。」


 リリアンが気を利かせ席を立つと、ロイも立ち上がった。


「待ってよリリアン、よかったら昨日話していた台所のポンプを見せてよ。」


「ロイったら、せっかくだからリカルド様からカワウソのぬいぐるみのお話しを聞かせていただいたらいいのに。」


 リリアンはロイの耳元で囁いた。


「甲冑をつけていないリカルド先生なんて、尊すぎてとても正視できないよ。」


 ロイも小声で答える。


「まあ、ロイったら。わかりみの極みね。いいわ、リカルド様が直してくださったポンプはこっちよ。地下室の棚も見る?屋根とヤギさんの小屋は?薬草園中回ることになるわね。」


「全部案内してよ。聖地巡礼だ。」


 そうして、二人はこそこそクスクス囁き合いながら、仲良く台所へ消えて行った。


 残された客間のテーブルでじっと拳を見つめるリカルドに、イーラーは優しく手を重ねた。


「リッキーの気持ちはわかるけど、リリだって同じくらいの年頃の子の方が話が合うんじゃないかしら。」


「そうだな。」


「でも、リリがあんなに明るくなったのは間違いなくリッキーのおかげよ。ありがとう。」


 イーラーは小さな細い腕でリカルドを抱き締めた。


「俺はそろそろここを引き払った方が良さそうだ。身重のスレッジ・ハマー号のことは頼んだよ、イーラー。」


 リカルドは力なく笑った。


 先日、リリアンが家出をした時、たとえ想いを打ち明けることができなくても側に居られれば良いと思ったのは大きな間違いだった。

 

 これまでの二人の幸せな思い出だけで充分じゃないか。傷が広がる前に早くここを立ち去ろう。早ければ早いほど良い。



 リカルドは、ふと、レンゲを一本片付け忘れているのに気づき、台所へ入った。


 ロイとリカルドが仲良く話しているのを見るのは辛かったが、どんな話をしているのかも気になってしまう。

 

 しかし、台所にはロイの姿が見えず、リリアンが一人鼻歌を唄いながら洗い物をしていた。


「あら、リカルド様、ありがとうございます。」


 リリアンはリカルドを振り返ると、レンゲを受け取った。


「ガードナー殿は地下室?」


「お帰りになりました。」


「え?もう?何かあったの?」


 そう言えばリリアンは何だか寂しそうだ。


 芽生えたばかりの淡い恋が破れてしまったのだろうか。


 思わずリリアンの不幸に期待をしてしまう、そんな自分にほと嫌気がさしてしまう。


「私……。」


 しばらくの沈黙の後、リリアンは遠い目をして呟いた。


「同担NGの心理が少しだけわかった気がします。」


「?????」


 すまん、お手上げだ。


 リカルドはこの先は若者にしか解らない言語が展開されることと覚悟を決めた。


 リリアンはぽつぽつと語り始めた。


「つまり、ガードナー様は、リカルド様には女性には目もくれず、ひたすらストイックに剣の道を追って欲しいと考えておいでのようなんです。私は剣の道と幸せな家庭は両立できると思うのだけど。」


「???な、なんで、俺が出てくるの?」


「それから、炒飯や刀削麺は男の料理って感じでかっこいいけど、ハリネズミや鳥さんのお饅頭はイメージと違うんですって。私にはそういうのよく解らないな。本当は、タコさんウインナーや、ウサギさんのリンゴのことも話したかったのに、それ以上何も言えなくなってしまったの。」 


 そう言うと、リリアンは口をつぐんでしまった。


 沈黙の中、かちゃかちゃとリリアンの洗う食器の音がする。


 何が正解か解らないが、リカルドはとりあえず口を開いた。


「…………俺、俺にもよくわからないけど、本っ当によくわからないんだけど……ウサギさんにしたリンゴが食べたいなら、剥こうか?」


「わあ、嬉しいな。さっき、カッコつけてガードナー様に炒飯をあげちゃったからお腹ぺこぺこなんです。あげた途端に後悔したんですけど。」


 本当に訳の解らないリカルドだったが、一つだけはっきりとわかったことがある。


 リリアンの、ロイヤル・ガードナーへの呼称が、ロイからガードナー様へ変わったことだ。


 今日のところはこれで充分だ。


 リカルドは地下室へリンゴを取りに降りた。


 次章はこのお話の最終話です

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