第七十八話 リリアンの推し活 3
おっさんが勘違いしてネガティブ思考にハマってしまいます。
「男の子の苦手なリリがあんなに楽しそうに。一体、何を話しているのかしら。」
ロイにグイユェン市内の手芸屋へ送ってもらったリリアンが帰りまで送ってもらったばかりか、店の前庭でいつまでもいつまでも話し込んでいる二人に、イーラーとリカルドは気が気ではない。
外の二人に気付かれないように店の窓からそっと覗いているが、おしゃべりに夢中でこちらを見向きもしない。
「あの様子じゃ、ガードナーの坊ちゃんの方が話が尽きないみたいね。あの名門ガードナー家の御子息がリリをねえ。ロイヤル・ガードナーはちょっと変わってるって言う人もあるけど、私は気に入ったわ。」
相手は魔導士の名門ガードナー家だが、リリアンだって薬草魔女として他に並ぶ者のいないイーラーの保護下にある身だ。
縁組としては不足はないはず、気の早いイーラーは満足そうに頷きながらぶつぶつ独り言を言っている。
仕事終わりの汽笛の十分前になると、やっとのことでロイは去って行った。
リリアンは馬で駆けて行くロイの姿が見えなくなるまで見送ると、スキップをしながら家へ戻ってきたので、イーラーとリカルドは慌てて窓から離れ、イーラーはカウンターへ、リカルドは台所へ走った。
「ただいまあ、イーラーさん。」
「おかえり、リリ。その顔はとっても良い買い物ができたみたいね。」
鼻歌を唄いながら店に入ってきたリリアンに、カウンターで売上げ帳簿を出しながら、イーラーが意味ありげに言った。
「ふふふ、内緒。」
リリアンは恥ずかしそうにはぐらかす。
リカルドの前で下着にする生地を選びに行ったなどと言えようはずがない。
「ねえ、イーラーさん、リカルド様、明日のお昼にガードナー様をご招待しても良いですか?ガードナー様にぜひリカルド様の炒飯と叉焼まんを食べていただきたいの。お願い、良いって言って下さいな。実はもう約束してしまったの。」
リリアンは甘えた声を出して二人に頼んだ。
「私は構わないわよ。良いわよね、リッキー?」
イーラーは台所の方を向いて言った。
「ああ、もちろんだよ。」
断る理由も権利もないリカルドは複雑な思いで同意した。
リリアンは手を叩いた。
「わあ、ありがとうございます!明日は久しぶりに黒いドレスでメイドさんごっこができるわ!リカルド様も、腹巻き姿も素敵だけど、ロイがいらっしゃるんだから襟のあるシャツをお召しになって下さいね。あら、いやだ、もうこんな時間?ほんの二、三分話していただけだと思っていたのに。すぐに夕仕事にかかりますね。ちょっとこれを片付けて来ます。」
そう言うと買い物袋を持って踊りながら自室へと消えた。
翌日はリリアンが朝からもう充分に綺麗な部屋を掃除したり、花を飾ったりしているのを尻目に、リカルドはもやもやとした気持ちを懸命に抑えていた。
イーラーまでもがウキウキと鼻歌を唄いながら話題作りにと客間に魔女らしい調度品を並べている。
昼近くになると、リリアンはリカルドが熊と間違えていたというエピソードを披露したくてカワウソのぬいぐるみをつけてみたと思えばまたはずしてみたりとますます落ち着かなくなって来た。
いろいろ考えた末にやはりいつもの猫のぬいぐるみになった。
リカルドはもうお客様ではないから、ずっと着ていなかったお気に入りの黒いドレスを久しぶりに披露できるのだが、このドレスにカワウソのぬいぐるみは、何だかちょっとだけマヌケな感じになってしまうのだ。
そして、リカルドとお揃いのユリの花のペンダントを首から外して名残り惜しそうに自室の宝物入れにしまった。
あまり自慢話ばかりしたらロイが気を悪くするだろうと思ったのだ。
リリアンは一晩がかりで縫い上げた白いペチコートをとっておきの黒いドレスの下に着てみた。
麻のごわごわのペチコートは裾から覗かないようにできる限り丈を短めにしているが、新品のペチコートはたっぷりした真っ白なフリルがスカートが揺れるたびにちらちらと覗いている。
リリアンはリカルドの前で何度もくるくると回って見せたが、リカルドはドレス姿のリリアンを褒めてくれるどころかこっちを見もしない。
しまいに目が回って机や椅子にぶつかってしまったので諦めた。
久しぶりにお気に入りの黒いドレスを着てはしゃいで部屋中を踊り回る今日のリリアンはいつも以上にキラキラして可愛いらしく見えた。
しかし、リカルドはペンダントを外してしまったリリアンをまっすぐに見ることができなかった。
ロイの為におしゃれをしてきれにいになるリリアンを見るのはあまりに辛すぎる。
リカルドは台所に引っ込んでリリアンのリクエストの炒飯や叉焼まんの準備をはじめた。
叉焼まんの他にもハリネズミや鳥の形の蒸饅頭を作った。
リリアンはこういうものをとても喜んでくれるのだ。
せめて俺の作った料理をリリアンに喜んでもらいたい。




