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第七十七話 リリアンの推し活 2

 おっさんにライバル出現!? な訳ないです。



 2022.08.06 修正いたしました。

 誤用のご報告ありがとうございます!


 リカルドとペチコートを奪い合った憎いヤギではあるが、餌をやらないと囲いを乗り越えてその辺の薬草を勝手に食べてしまい、イーラーに怒られてしまう。


 リリアンは野菜のカスを入れた桶を手に裏庭へ出た。


「リリアンさん、ヤギにエサをやるの?俺が持って行くからそこへ置いておいて。」


 ロイに稽古をつけてやっていたリカルドは、リリアンの姿を見かけていつもの調子で声をかけた。


「まあ、ありがとうございます。ついでに乳搾りもお願いできますか。実は、日没までにひとっ走りグイユェンの手芸店へ行きたくて。」


 新しいペチコート作りに一日も早く取り掛かりたいリリアンも、いつもの調子で頼みごとをする。

 

 しかし、


「女、リカルド先生を何と心得るか。先生の御手はヤギの乳を絞る為にあるのではないぞ!」


 と、リカルドの傍ら立っているロイに厳しく咎められた。


「し、失礼いたしました、ガードナー様、リカルド様も。」


 リリアンはおろおろとヤギの餌の入った桶を抱えて早々にその場を去ろうとした。


「ロイ殿こそお言葉をお慎しみなされよ。」


 びりっと張り付くような殺気を後ろに感じ、ロイが恐る恐る振り向くと、いつもは厳しい中にも自分を気遣ってくれる優しいリカルドの眼差しが、射殺さんばかりの鋭さでこちらを見ている。


「あ……。」


 火炎をかわされた時とは比べ物にならない程の緊張と恐怖で足がすくむ。


「真の武人は全ての御婦人に対し御母堂へのそれの如き尊敬を持って接するものでありますぞ。魔導士とて、同じでございます。」


「も、も、申し訳ありません、先生。」


 リカルドの、静かだが鋭く冷たい声にロイは恥いるばかりだ。


「今日はもう帰られよ。それがしは此処の作男ゆえ、いつまでも油を売っているわけには参りませぬ。」


 リカルドはぷいっとそっぽを向き


「さ、さ、リリアンさん、その野菜カスをさっさとヤギにやってくるよ。また、変な物を食べたら大変だ。乳搾りも任せたまえ。」


 と、ヤギのように目を細め、リリアンから桶を奪いとった。


「で、でも……。」


「良いから、良いから、手芸屋さんに行くんだろう?急がないと暗くなるよ。」


「あの!」


 リリアンの背後から再びロイが呼びかける。


「リ、リリアン殿、先程は大変失礼をいたしました。先生のおっしゃられたこと、胸に刺さりました。お詫びに街まで私の馬でお送りいたします。」


 先程の厳しい口調とは別人のような低姿勢だ。


 リリアンには、ロイの顔つきから本当に反省しているのがわかった。


「何!?お、おい……!」


 ロイの言葉にリカルドは慌てたが、


「ありがとうございます、助かりますわ。」


 リリアンは素直にロイの申し出を受けた。


 そもそも、先程の厳しい物言いも、リカルドを尊敬すればこそだ。そう思うと好感が持てる。


「え、ちょ、リ……」


「では、失礼致します、リカルド先生。ご指導ありがとうございました。さ、参りましょうか。」


「はい。」


 リリアンとロイがつれだって裏庭を出ていくのをリカルドは呆然と眺めることしかできなかった。




 薬草園からグイユェン市までの短い道中、ロイは馬を駆りながらリリアン相手に止めどなくリカルドの話をして聞かせている。


「まさか暗黒の剣の使い手のリカルド・クラークソン殿直々にお手合わせをしていただけるとは、私は幸せものです。」


 ロイは子供のように目を輝かせてリカルドを褒め称えているので、リリアンも嬉しくて仕方がない。


「幼なじみのキンバリーやユミアナから闇の戦士殿がこちらにおられると聞いた時は我が耳を疑いましたよ。またあの子達に担がれているんだろうって。しかも、あいつらときたら、リカルド先生の真の素晴らしさを知らないばかりか、図々しく銛やクロスボウを借りたり、お礼をスイーツ一個で済ませたり、話を聞いたらこっちが震え上がるような無礼ばかりするのだから。」


 うんうん、とリリアンも頷く。


「金や名声を追うだけでなく、修道士の護衛や遍堀の魔物退治など、世のため人のためにその力を惜しみなく使われるところも素晴らしい。先生こそまことの戦士だ。」


 リリアンに良いところを見せたいとか、薬草園付近の仕事とか、リカルドの行動基準は全てリリアンに起因しているのだが、それを知る由もないロイは、実力に見合わない安い仕事を進んで請けるリカルドを清い志によるものと信じて疑わない。


「遍堀の魔物さんは退治したのではなく、よく言い聞かせて止めさせたのです。心から悪い魔物さんではないのです。奪ったお宝も、ひとつ残らず返したのですよ。」


 リリアンも負けじとリカルド自慢をする。


「ほう。」


「それから、リカルド様は魔物さんが命乞いにと捧げたお宝もいらないと突っ返したのです。」


「いかにも、お人好しの先生のやりそうなことだ。それを聞いてますます尊敬しますよ。」


「リカルド様は剣術だけじゃなく、お料理も得意なんですのよ。リカルド様の柳の葉っぱの麺や、イノシシの叉焼入りの炒飯はそれは美味しいんです。」


「何と羨ましい、先生の手料理をいただけるとは。ねえ、リリアン殿、帰りも送りますからぜひ先生の話をもっと聞かせていただけませんか。」


「まあ、嬉しい。ご迷惑でなければぜひお願いします。」


 いつものリリアンならば恐縮して逃げるように辞退するところだが、すでに身分や性別を越える固い絆が二人の間に生まれているので快諾する。


 推しを語り合える相手がいると言うのは本当に楽しいことだ。


 しかも、それがあまり需要のない推しならばなおのことだった。


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