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第六十六話 番外編・リリアンの昔話

 リリアンが薬草園でイーラーと暮らす前のお話です。


 

 リリアンってどんな子?


 と聞かれたら、みんな答えに詰まるだろう。


 顔の傷のことを一番に言うのは悪い気がするし。

 そうそう、お裁縫が得意な子だったわ。

 いつも一人で何か縫っていたっけ。

 なぜ、いつも一人だったかって?

 さあねえ、どうしてかしら。

 大人しい子だったからね。

 いえ、嫌われてたわけじゃないのよ。

 良い子だったわ。

 ただねえ、ほら、わかるでしょう?



   ⁂




「あの子の隣には座りたくない、だって、とってもつまらないんだもん。」


 リリアンに対してそんなふうに言った子は、みんなの前で母親にものすごく叱られた。


 他の子にそんなことを言っても、母親達は気にしない。


「そんなことを言ってはダメ。みんな仲良くね。」


 などと口では言うものの、自分達のおしゃべりに夢中で、誰が誰に言われたのかも気がつかない。


 男の子がリリアンをいじめていたら、その子はいつもよりずっと厳しく怒られるし、いじめていない子まで、なぜ庇ってあげなかったの、と怒られる。


 学校が終わった後に仲良しだけで駄菓子屋さんに行く約束をしていても、どうしてリリアンを誘わないの、仲間はずれはいけないわ、と怒られる。


 それというのも、リリアンは小さい頃に怪我をして、顔にたくさん傷があるからだ。


 年頃になってくると、もっとやりにくくなってきた。


 誰が誰と一緒に帰ったとか、誰が誰を好きだとか、誰が一番かわいいと思われているのかとか、そんな当たり前のことをリリアンの前では話せない。


 顔に傷のあるリリアンの前で、鼻の頭に薄く浮かんだそばかすを消すにはどうしたら良いかとか、もっと肌をきれいに見せるにはどの化粧品を使えば良いかなどという話題ができるはずがない。


 リリアンは良い子だし、優しいし、もちろん嫌いではない。


 でも、少しめんどくさい。


 それがみんなの感想だった。


 だから、リリアンを育てていた叔母さんが遅い結婚をすることになり、身の置き所が無くなったリリアンはここから遠く離れた村の尼僧院へ奉公へ行ったと聞かされた時、みんなは少しだけ気が咎めた。


 もう少し優しくしてあげれば良かった、お別れくらい言ってあげれば良かったと。

 

 けれども、リリアンにとってはその方が良かったかも知れない。


 きっとそうに決まっている。


 神様に支える人々と一緒なら、リリアンもつまらないことで気を遣われて居心地の悪い思いをすることもない、それに尼僧院の人は尼僧も奉公人も宗教上の理由で顔を布で覆っているのだもの。


 そして、その日の夜にはみんなリリアンのことは忘れてしまった。




  ⁂




 リリアンが奉公していた尼僧院のある村で伝染病が流行った時、治療法を知っているとその薬草魔女は単身やってきた。


 休戦中とは言え、敵対国に籍を置く魔女の話を皆訝しんだが、どうせこのまま放っておいても村は滅ぶだけだ。


 そう判断した尼僧長はその魔女を招き入れた。


 そして、薬草魔女は助手を一人必要としていると言う。


 皆が尻込みするところに、リリアンは手を挙げた。


 物語を読むのが好きなリリアンは、魔女の助手になるなんて自分が物語の登場人物になったような気がしたのだ。


 しかし、魔女の治療というからには、杖を振って呪文を唱えるとか、魔女の使い魔が病魔の化身と戦うとか、そんなのを期待していたのに、実際には薬草茶を飲ませたり、着替えをさせたりと、ふだんの仕事とほとんど変わらずリリアンはがっかりした。


 それを聞いたイーラーは、


「娯楽小説の読みすぎよ。」


 と、鼻で笑ったものだ。




「今の仕事は楽しい?」


 治療がひと段落した時、イーラはリリアンに聞いた。


 長年一緒に暮らして来た助手が高齢になり、ずいぶん前から引退を申し出ていたのだ。


「よく、わかりません。もちろん必要とされていることには感謝しています。ただ……」


「ただ?」


「忙しくて、大好きなお裁縫をする時間が全然作れないのが少し残念で。」


 これで話は決まった。




 伝染病の蔓延の峠が過ぎると共に、その薬草魔女は村から姿を消した。


 その魔女が去り際に女の子を一人さらって行ったという噂が一時たったが、村は復興でそれどころではなかったし、伝染病の犠牲になった若い娘も大勢いたので、よく調べもしないままうやむやになった。




 村からだいぶん離れた道を、小さな女の子と、頭ひとつ分背の高い女の子が二人で歩いていた。


 背の低い方は黒いローブに黒いとんがり帽子をかぶっているから、おそらく魔女だろう。


 背の高い方は、尼僧院の奉公人がつけている布で頭からすっぽり顔を覆っている。


「魔法陣を使った転送魔法とかはないのですか?」


 背の高い方が言った。


「一応、まだ敵国の領土だから炎で消されるわよ。」


 背の低い方が答える。


「箒に乗ってお空を飛んだりとか?」


「一応、まだ敵国の領空だから雷が降って来るわよ。」


「イーラーさまはここまでどうやっていらっしゃったのですか?」


「転送魔法だけど?」


「使えるじゃないですか!!」


「急いでないんだから歩いて帰れば良いじゃないの。最近は健康のために歩くことにしてるのよね。」


 もちろん、実際に暮らしてみたら、魔女の治療の時のように期待していた程の驚きはないかも知れない。


 けれども、このかわいい魔女さんと一緒に薬草園とかいう素敵な場所で暮らせるなんて、それだけでリリアンはわくわくした。


 早く薬草園へ行ってみたい、気持ちは早るが、イーラーの言うとおりこれからずっと一緒に暮らせるのだから、焦ることはない。


 二人は手を繋いでのんびりと路を行った。

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