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第六十五話 番外編・おっさんの昔話

 おっさん戦士リカルドの過去のお話です。


 シリアスなお話です。


 本編とは関係ないので飛ばしていただいても大丈夫です。


 2022.04.10 一部分を修正しました。



 母親の記憶はない。


 父には、母のことを何となく聞きづらい雰囲気があった。


 寝食を共にしていた女がいるにはいたが、その女は明らかにリカルドを嫌っていたし、リカルドの方でもその女を好きではなかった。


 そして、サラという名の四つ離れた姉がいた。


 しかし、彼女は成長しても自分の身の回りのことも満足にできず、リカルドが物心つく頃には、すでに彼がサラの面倒を見ていた。


 しかし、リカルドはサラを世界で一番きれいな女の子だと思っており、おっとりと優しい姉を慕っていた。


 父親は家族のことにはまるで関心がないとみえ、いつも酒を呑むか、博打を打つかで、働いているところを見たことがない。


 リカルドはどぶ川の匂いの染みついた汚い路地裏で育ち、サラの他にも妹の面倒を見ながら、生まれつきの大きな身体を活かし、土木作業を手伝ったりして小遣いをもらっていた。


 リカルドが十歳になるかならないかの頃のこと、いつものように大人に混じって土木作業を手伝い、サラや妹の土産にカステラを買って家路についた。


 しかし、家にいるはずのサラがどこにもいない。


 みんなで手分けして方々探すと、町外れの空き家の庭にぼんやりと座っているサラをみつけた。


 彼女の髪は乱れ、服もところどころ破れており、怪我もしているようだった。


 そんなことがあってからしばらくして、尼僧が赤毛の小さな女の子を伴ってサラの元へやってきた。


 ローンという名のその少女は、リカルドと同じくらいの年恰好にも関わらず、尼僧も父親もとても慇懃な態度で接していた。


 後になって、この種の魔女は歳を取らないと知るが、リカルドはその時はそんなことは知らなかった。


 ローンが去ると、父親も尼僧も、これで全てが解決したと言ったが、リカルドにはそんなふうには思えなかった。


 突然姿が見えなくなった日を境に、サラはどんどん衰弱していき、機嫌も悪くなっていった。


 以前は簡単な会話ならできたのに、今はもう唸り声をあげるくらいで、リカルドが近づくと犬のように噛みついた。


 その翌年、風邪を拗らせて返らぬ人となったが、悲しんだのはリカルドだけで、父は厄介払いができたと考えていた。




 程なくして、父親が町のごろつき共と問題を起こし、そのせいで妹がどこかへ連れて行かれた。


 迎えに来た女から、きれいなドレスが毎日着られるよ、と言われ、妹は金持ちの養女にでもなるのかと思い喜んでついて行った。


 妹を取り戻そうと止めに入った時、同行していた男にしこたま額を割られ、血が吹き出した。


 顔に残った初めての傷だった。


 何年かの後、田舎の名主に身請けされ、屋敷を与えられていると伝え聞き、はるばる妹を訪ねたものの、顔を見るどころか敷居を跨がせてももらえず、使いの者から投げ捨てるように金を渡された。


 たかりに来たとでも思われたのだろう。


 この時リカルドは、自分が妹を見捨てたのではなく、妹の方が自分を捨てたのだと悟った。


 リカルドは金を受け取らずに、土産に持ってきた妹の好きだったカステラを一緒に置いて立ち去った。


 未だリカルドは、仲間からどんなにバカにされても娼館に足を踏み入れることができないでいるが、それが姉や妹の出来事と関係しているのかどうかは、本人にもよくわからない。




 リカルドが十三歳になった時、都市国家連合とスイリン帝国で戦争が始まり、リカルドの町でも義勇兵が募られたので、歳をごまかして入隊した。


 それまではただのリカルドだったが、名字もその時考えた。


 市民権を持たないために城壁の内側に入ることもできない都市や、姉や妹に酷い仕打ちをしたこの町にも、まして父に対しても、何の忠誠心もなかったが、ここを離れられるなら何でも良かった。

 

 兵役は楽ではなかったが、仲間ができたのは幸いだった。


 皆の身の上話を聞くと、どいつもこいつも似たり寄ったりの境遇で、自身の生い立ちもどこにでも転がっているつまらない話だった。


 それでも、姉や妹の苦しみを思えば、自分なんかいつ死んでも良いと思っていたのに、そんなふうに思っている者ほど、いつまでもだらだらと生き延びてしまうものだ。


 気がつけば、最強の戦士の一人として名を連ねていた。


 戦争が終わって程なくして、友人の魔女イーラーから、偶然、ローンの話を聞いた。


 リカルドはローンのもとへ赴き、姉のサラの子供の消息を尋ねた。

 

 ローンはリカルドが昔会った時のそのままの姿で、優しく、しかし、はっきりと、答えられないと言った。


「でも、優しい両親の元で幸せに暮らしているわよ。とても頭が良い子で、魔導学院を受験するために頑張って勉強しているの。それに、街一番の器量良しで有名みたい。」


「どうせ、聞かれたら誰にでも同じこと言ってるんだろ?俺の甥か姪が、頭が良くて器量良しのはずがないよ。」


 リカルドは言った。


「さあ、どうでしょう?」


 ローンはそばかすだらけの顔をくしゃっとさせて笑った。




 次章から、新しいお話が始まります。


 二人の距離が縮まればいいなあと思っていますが、縮まらないかも知れません。


 いつも読んでいただきありがとうございます。


 いいね、ブックマークありがとうございます。

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